カシオ計算機は1月29日、2021年度・第3四半期の決算概況を発表した。連結売上高は1,664億円。時計事業のG-SHOCKが好調を維持し、コロナ禍中の巣ごもり需要により引き続き楽器が売り上げを伸ばしている。また営業利益、純利益の通期業績予想は当初の見込みから上方修正された。

  • カシオが2021年3月期・第3四半期決算報をオンラインで開催

通期の振り返りから着実な回復をアピール

2021年度・第3四半期の売上高は実績626億円。対前年比で15%の減収となった。営業利益については20%減益の69億円。営業利益率は11.1%。経常利益は23%の減益となる71億円、当期純利益は25%減益の48億円を計上した。

  • 2021年3月期第3四半期の連結決算実績

2021年の第1四半期から第3四半期まで通算の累計値を見ると、ROE(自己資本利益率)は6.7%。売上高は1,664億円で前年比24%減。営業利益と経常利益は対前年比では現状50%を切っている。現時点の当期純利益は48%減益の101億円とした。

続けて、カシオ計算機 執行役員 広報・IR担当の田村誠治氏がセグメント別の業績について説明を加えた。

  • 決算の詳細を説明するカシオ計算機の田村誠治氏

対前年比の売上高は、コンシューマー部門は12%減収、システム部門は42%の減収となった。営業利益を見ると、コンシューマー部門は対前年比14%減益となる101億円、システムセグメントはマイナス14億円の赤字とした。

売上高を第1四半期からの流れで追うと、明るい兆しが浮かび上がってくる。全社合計の売上高は第3四半期の対前年比は86%となるが、62%だった第1四半期、80%の第2四半期から回復傾向にある。

事業別の今期売上高は、時計は第2四半期に比べてほぼ横ばいの82%だが、教育関連と辞書は回復しつつある。楽器は第2四半期の在庫不足の反動が見られ、第3四半期では134%となった。

G-SHOCKはメタルシリーズやG-SQUADが好調

時計事業の概況は、人気のG-SHOCKはコロナ禍の中でも好調に推移しているようだ。特に新製品のメタルシリーズが好調を博しているほか、コロナ禍の中でエクササイズ需要を取り込むことに成功したG-SQUADシリーズが堅調に伸びている。OCEANUS(オシアナス)やEDIFICE(エディフィス)の回復ぶりも順調と田村氏は語っている。

  • G-SHOCKを含む時計事業が好調を牽引

時計事業の業績を地域別に見ると、北米と中国がプラス6%(前年比)で増収。どちらのエリアもEC(オンライン)販売が伸びている。ほか3つのエリアである日本・欧州・その他地域では前年比で落ちてはいるものの、第2四半期に比べると勢いは戻ってきたようだ。

オフライン(実店舗)とオンライン販売の実績を比べると、やはり全体の傾向としてオンライン販売にウェイトは偏りつつある。実店舗での売り上げは対前年比で成果を見ると厳しい状況だが、今年度の第1四半期からは少しずつ回復している。

  • 全体の販売比率のウェイトはオンラインに傾きつつある

電卓など教育関数事業については、欧州と中国では対面授業の再開によって事業は回復基調にあるという。田村氏は、新興国の主要エリアで対面授業の開始が遅れたことによる売り上げへの影響について触れた上で、対面再開に伴って第4四半期以降に回復する期待を持っているとした。

楽器に電子辞書、プロジェクターなどが含まれる収益改善分野は構造改革が完了したことと、コロナ禍中の巣ごもり需要拡大によって楽器が好調であることを受けて、第3四半期で2%の増収を見込む。営業利益率はマイナス3%の減益となったが、前年マイナス5%であったことを踏まえれば、改善していると解釈できるだろう。田村氏は楽器の第3四半期の利益率が2ケタ台に乗ったこともアピールしている。

  • 楽器製品の販売も好調が続いている

コロナ禍の影響も見据えた持続的成長のための構造改革を進める

2021年3月期の業績見通しについては、第3四半期の実績を踏まえて通期営業利益と経常利益にプラス40億円、純利益にはプラス30億円の上方修正を行うことを明らかにした。

  • 業績の見通し、期初の見込みから上方修正

田村氏は、アフターコロナの影響によって一変すると予想される市場・事業環境を予測した上で、構造改革には引き続き力を入れて取り組むとした。前期では主に各事業の費用対効果を徹底的に見直し、カシオとして初めての早期退職優遇制度の導入にも取り組んだ。これらが奏功し、今期の収益体質は改善しているとしながら、田村氏は「第3四半期で対前年の売上高が15%減収となっているが、営業利益で見ると対前年とほぼ同レベルを確保できている。これは収益体質になりつつあることの表れ」であると説明を加えた。

今期の構造改革はコロナ禍の影響に対応しつつ、市場環境を見据えた上で各所に手を打った。全社最適化の視点から、部門別ではなく全体のバリューチェーンを強化することを戦略の中心に据えつつ、構造改革推進部門を社内に置きレベルアップを図った。田村氏は「それぞれの活動が有機的に結びつくためのデジタルトランスフォーメーションの推進にも注力している。働き方や社内風土の改革、早期希望退職優遇制度にも合わせて取り組みながら、来期以降の収益改善に結びつけたい」と意気込む。

企業としての持続的成長を実現するために、経営基盤についても再構築を図る。4月1日付の新体制としてチーフオフィサー制度を導入。代表取締役社長 CEOの樫尾和宏氏、代表取締役 専務執行役員 CHRO兼事業開発センター長の中山仁氏、常務執行役員 CFO兼財務統轄部長の高野晋氏を中心に、全社視点による全社最適意思決定を速やかに行える体制を構築。事業と機能の両軸マトリクスによる経営体制を強化する。

  • 4月1日から経営体制を強化

好調の時計事業をさらに成長させるため、G-SHOCKシリーズのロイヤルカスタマーを囲い込む戦略も検討しているという。田村氏はその具体的な内容について明言は避けながらも「デジタルマーケティングの手法を有効活用し、ユーザーの皆様と直接つながって、一人ひとりのニーズに寄り添った価値を提供できるプラットフォームを構築したい」と述べた。

新規事業については先般発表されたアシックスとの共創事業を成功させ、ウェアラブル端末によるランニングサービスからウォーキング、ウェルネスの領域への発展を目指す。

  • アシックスとの共同事業も足場を固め、早期の加速を目指す

  • ランナー向けサービス「Runmetrix」専用のG-SHOCKと、腰に装着してランニング時の各種データを取得するモーションセンサー

腕時計の販売については、引き続き世界に展開するG-SHOCKストアによるオフライン展開と同時にECの強化も図りつつ、価格帯やラインナップの分け隔てなく充実したサービスを提供していく方針が示された。