1月27日、カシオ計算機とアシックスが共創事業のオンライン発表会を開催。カシオの決算発表会などで以前から触れられていた両社の協業を正式に発表するとともに、詳細を紹介するもの。カシオとアシックスの代表取締役社長も登壇し、事業計画や新製品とともに両社の合弁会社設立も検討しているなど、話題豊富な発表会となった。

今回発表された内容の骨子は以下の通り。

■サービス内容
・ウェアラブル機器とランニングサービスがシームレスに融合したスポーツ・健康志向向けサービス「Runmetrix
・ユーザーはウェアラブルセンサーを装着してランニング、連携する専用スマホアプリを介して、フォーム改善やタイム短縮などに必要なパーソナルアドバイスを提供

■両社の役割分担
カシオはウェアラブルデバイスの開発やセンシング技術を担当し、アシックスはスポーツ工学の知見やデータを担当

■必要機器・アプリ
・腰に装着するモーションセンサー「CMT-S20R-AS」(14,080円/税込)、専用G-SHOCK「GSR-H1000AS」+モーションセンサーのセット「GSR-H1000AS-SET」(57,200円/税込)、専用アプリ「Runmetrix(ランメトリックス)」(無料)
※GSR-H1000ASがなくてもRunmetrixは利用可能(GSR-H1000ASがあればより多機能に)
※GSR-H1000ASの単体は販売なし
・Runmetrixアプリは1月28日よりダウンロード可能。それ以外の製品は2021年3月4日発売(予約受付中)

  • G-SHOCK「GSR-H1000AS」

  • モーションセンサー「CMT-S20R-AS」

  • アシックスが発売するランニングシューズ「NOVABLAST」からは、G-SHOCKとのコラボモデルが登場(Runmetrixサービスには必須ではない

  • 新サービスに対応する各製品の発売時期と価格

  • アプリ「Runmetrix」は、すでに無料でダウンロード可能

■開始日
・ランニング向けサービス「Runmetrix」は2021年3月4日。その後、ウォーキング向けサービス「Walkmetrix」を2021年10月に開始予定

新サービスの概要は別記事『カシオとアシックス、ランナー向けサービス「Runmetrix」提供開始 - 専用?G-SHOCKも』をご覧いただくとして、ここでは発表会での様子を紹介しよう。

海外でもサービスを展開、そして世界一へ

カシオ計算機 代表取締役社長 樫尾和宏氏は、冒頭で以下のように述べ、「ランニングビジネスとウォーキングビジネスでの世界ナンバーワンの地位を確立する」と海外展開にも言及した。

「カシオとアシックス共創事業はランからウォーキングウェルネスへの領域にも拡大し、運動を通じて健康でありたいと思う人々に向けて展開してまいります。世界的な高齢化社会問題とともに健康年齢がより一層重要になっている現在、各自治体とも連携し、健康作り日本をサポートしてまいります」(樫尾社長)

  • カシオ計算機 代表取締役社長 樫尾和宏氏

  • カシオとアシックスの共創事業が新しい価値と市場を生み出す

  • スポーツという視野の先には、健康、そして医療も

  • ビッグデータを活用することで広がる事業の例

「カシオとアシックスは両社合意のもと、合弁会社の設立を検討中。理由は、世界ナンバーワンランニング総合サービス、世界ナンバーワンの健康総合サービスをプラットフォーム、端末と計測、コーチングに至るまでの総合サービスとしてナンバーワンの地位を確立すること、そのために迅速な判断で的確にスピーディーに事を運ぶため」(樫尾社長)ともスピーチ。新サービスの実施体制および展開に強い意欲を見せた。

アシックス側も「中核となるセンシング技術とウェアラブルを使った技術、そういった総合的なサービスはカシオさんと組んでしっかりやっていきたいと思っています。技術の進歩が早いこともあり、スピーディーに事業を進めていく必要もあると考えています。ここは合弁会社で一緒に事業体を作って、ナンバーワンを目指していきたい」とコメントした。出資比率などについては「まだ検討中」とのこと。

ポジティブな反応が続々

続いて、アシックス 代表取締役社長COO 廣田康人氏が登壇し現在の状況を分析。

「新型コロナウイルスに対して新しい生活様式が定着していく中で、健康でありたいという意識が世界中で強まっていると同時に、制限された生活環境においては閉塞感から来る精神的な不安が世界に広がっています」(廣田社長)

  • アシックス 代表取締役社長COO 廣田康人氏

アシックスが2020年に実施したランニングに関する意識調査でも、約8割が「ランニングやエクササイズなどの運動は気分が晴れる」と回答している。

「運動・スポーツは身体的な効果だけではなく、気分転換やストレス発散といった精神面に与える効果としても大変重要。ひとりでも手軽に、安全に行えるランニングやウォーキングに改めて注目が集まっています。

アシックスは、身体を動かしたいという気持ちや運動を、楽しく安全に続けたいというニーズに寄り添ったサービスを提供したい。また、大会やレースへの参加が難しい中で、ランニングやウォーキングへのモチベーションを維持向上していただくことに貢献したい。そんな思いからこのサービスを着想しました」(廣田社長)

カシオとの共創事業に至った理由としては、以下の3点を挙げた。

  • デジタル技術でほかにはない先進的なパーソナルコーチングサービスを提供するためには、アシックスのランニングサイエンスに裏付けられた測定評価の知見に加え、カシオの優れたウェアラブルセンシング技術が必須

  • ウォーキングを含めた幅広い健康市場への展開など、両社の今後の展望が一致

  • 国内ナンバーワン同士のアライアンスによって、日本から世界に向けて新しい価値を発信し、ともにこの分野で世界一の地位を確立する

  • 各種スポーツで蓄積された工学的知見がアシックスの大きな武器

「アシックスはデジタルドリブンカンパニーになることを中長期目標の中でひとつの柱として掲げ、全社を挙げてデジタル戦略を強力に推進しております。今回、カシオとの共創事業によって、私たちの描く理想のランニングエコシステムの実現にまた一歩近づくことができました」(廣田社長)

  • アシックスが目指すデジタルドリブンカンパニーの形

続いて、アシックス 執行役員 デジタルアライアンス推進室執行役員室長 近藤高明氏がアプリの使用法などを説明。合わせて、すでに2カ月間のモニター使用を実施したランナーからのフィードバックも紹介した。フィードバックでは、「動きが視覚化できることの新しさを感じ、変化が目に見えるのが楽しく、気づけば月間走行距離が最長になった」といったポジティブな声が多数。モニターの約7割が、実際にフォームの改善などパフォーマンスの変化を実感できる結果になっていた。

  • アシックス 執行役員 デジタルアライアンス推進室執行役員室長 近藤高明氏

  • モーションセンサーからの情報をもとに、Runmetrixアプリがスコア化してフォームを分析

  • ランナーの走りは十人十色。それぞれの特徴や課題を可視化する

  • アプリ使用の流れ

また、大学陸上部や実業団選手などアスリートやコーチからも、「パフォーマンス向上だけでなく、日常的な利用にも、故障予防に向けた選手のコンディショニングチェックにも使える」「左右の脚の筋力差は自分の課題として定量化できた」「選手ひとりひとりの特徴が的確に表示され、選手の課題や長所を意識しながらトレーニングの良いパートナーとして今後も利用していきたい」といった反応があったという。

「今後も一般ユーザーからアスリートのコーチまで、直接フィードバックをいただき、改善、改良を続ける体制が重要だと考えています」(近藤氏)

近藤氏によれば、将来的にはRunmetrixを活用し、ランナーとより深いつながりをサポートするため、低酸素ジム「アシックススポーツコンプレックス」や全国のアシックス店舗ランニングクラブとの連携、これら施設が提供するサービスとの連携も計画しているとのことだ。

また、モノとコトの連動として、ひとりひとりに適したアシックス製品をレコメンドするオムニチャンネルとの連動強化、およびオンラインコーチングやアシスタントなど有料コンテンツを拡充することでユーザーに寄り添い、つながる場所の提供も含めて全面的なサポートを実現していくとしている。

  • 新サービスから派生する将来的なビジネスモデル(有料コンテンツ)

専用G-SHOCKは、いわゆる「G-SMART」なのか

最後に、カシオ計算機 執行役員スポーツ健康インシュレーションセンター長 井口敏之氏が登壇。心拍計測などのセンサーを搭載した時計とスマートデバイスとの違いについて、「それらは第2世代の技術」とし、今回の全体像は第3世代と述べる。

「今回採用されているのは、腰に装着する小型のモーションセンサーから人体の動きを取得して、解析・定量化するバイオメカニクス技術です。これにより、今まで専門施設でしか計測できなかった身体運動計測を、いつでもどこでも使えるようにしました。人間はひとりひとり骨格や筋力に大きな違いがあります。走り方も、力強さ、重心移動、左右対称性など、それぞれのランナーによって異なります。まさに、究極にパーソナライズ化されたデータ取得を可能にした第3世代の技術です」(井口氏)

  • カシオ計算機 執行役員スポーツ健康インシュレーションセンター長 井口敏之氏

  • 世代別テクノロジーのイメージ

  • カシオのバイオメカニクスは、数多くの指標を計測。それらを基軸に沿って分類し、可視化

  • 小型モーションセンサー「CMT-S20R-AS」の特徴

  • G-SHOCK「GSR-H1000AS」の特徴

  • モーションセンサーとG-SHOCK「GSR-H1000AS」を併用すると、より深いアドバイスと快適な環境が実現。モーションセンサーだけでもサービスを利用できる

機器の精度についても「オリンピック出場レベルの選手からビギナーまで、すべてのランナーの走りを可視化することが可能。さらに動きをアニメーション表示し、ひとりひとりの走りのクセまで3Dで表現できます」(井口氏)と自信を見せた。余談だが、モーションセンサーやG-SHOCK「GSR-H1000AS」は、ファームアップが可能な仕様となっているそうだ(将来的な機能拡張や不具合修正に対応)。

カシオとアシックスによれば、今回の新サービスによる収益は5年後に100億円規模を見込んでおり、その中には有料コンテンツの課金売り上げも含まれる。アプリ「Runmetrix」の登録会員は、同じく5年後に500万人を見込む。2021年10月から展開予定のウォーキング関連サービスにも収益を期待しているという。

ちなみに、アシックスがすでに提供中の各種デジタルサービスやスマートシューズなどは、引き続き改良して展開予定とのこと。アシックスとしては「お客さまの目的に合わせたサービスのバリエーションも重要と考えている」とのことだ。

最後に、Runmetrix専用G-SHOCK「GSR-H1000AS」の話を少し。これはG-SQUADをベースに、Runmetrixアプリと連携機能を追加したモデルであり、かねて話題となっていたG-SHOCKのスマートウォッチ、いわゆる「G-SMART」ではないようだ。

井口氏は「詳細は申し上げることができないのですが」と前置きしつつ、「G-SHOCKは、新しい体験を発信するひとつのブランドとして、カシオの強みです。今回発表したGSR-H1000ASのほかにもラインナップを拡充していきます。後日の発表を含めてG-SHOCKの動きに注目していただければ。今回のGSR-H1000ASは、新しいランニング体験のスタートラインとなるモデルと考えています」とのこと。

時代とともに細分化が加速するユーザーニーズ。そんな中、ジャンルを問わず「タフな仕様で新しい体験を与えてくれる時計」がG-SHOCKであるなら「どれがG-SMART」かは、それほど問題ではないのかもしれない。

  • 今回登壇された両社代表のみなさん。共創事業への意気込みが伝わる