新型コロナウイルスの影響が社会のさまざまな分野に影を落とすなか、我々ビジネスパーソンもその影響を大きく受けている。有効求人倍率が大きく落ち込むとともに、1月19日には経団連から「コロナ禍で業績の振るわない企業のベースアップは困難」との見解が示された。
果たして2021年の人材需要や給与トレンドはどうなるのか。本稿では、ロバート・ウォルターズ・ジャパンが発表した『給与調査2021』を紹介したい。
コロナ禍でもデジタル関連分野の人材不足は深刻
同社では毎年、給与や働き方に関するアンケート調査を実施している。今年は首都圏、関西圏を中心に国内で働く会社員4,062人と国内300社から回答を得ている。まずは同社の代表取締役社長であるジェレミー・サンプソン氏による国内転職市場全体の分析を見てみよう。
「有効求人倍率は過去最高の1.6倍から2020年11月末には1.04倍まで低下しましたが、デジタル分野などでは依然としてスキル人材の不足が深刻です。長期化するステイホームの影響で、Eコマース、ゲームの他、Eラーニング、医療テック、フードデリバリー関連のアプリ開発・ウェブ開発、データサイエンティストなどの求人が増えています」。
この発表も、昨年は対面形式で実施されたが、今年はオンライン形式に。ゲーム機が品切れになった任天堂も、大きく業績を伸ばしている。
コロナ禍にあっても、好調な業種は存在し、それに伴って人材が不足するのも当然ということか。
ジェレミー氏の分析は続く。
「コロナ禍でリモートワークや時差出勤が増加したことで、ビジネスパーソンの意識も柔軟な働き方を望む傾向に。優秀な人材を採用するためには、企業もそれに対応する必要があります」。
昨年の働き方に関する変化は、コロナ禍による緊急避難的な側面があった。しかし、人は便利さを知ってしまうと、なかなか元には戻れない。リモートワークが望まれるようになったのもうなずける。
コロナ禍でも、採用増の業種や給与増の職種が存在
続いて、分野別のトレンド分析を紹介しよう。「経理・財務」「金融サービス」「人事・ビジネスサポート」「法務・コンプライアンス」「製造セクター」「販売・マーケティング」「サプライチェーン」「テクノロジー」の8つの分野に分け、人材需要や転職時における給与の増加率を分析した。
好調なのは、やはりテクノロジーの分野だ。
「テレワーク関連やEコマースで採用活動が活発なほか、DX(デジタルトランフォーメーション)関連はコロナ禍で成長が加速しています。優秀な人材を獲得するためには、競争力のある給与額はもちろん、柔軟性の高い働き方を提示する必要があります」。
また、厳しい環境にある「人事・ビジネスサポート」や「販売・マーティング」の分野でも、特定の業種や持っているスキルによってはニーズが高まっているという。
「人事のプロに対するニーズは堅調です。HRBPや C&Bマネジャーの転職時の給与は10~15%増になっています。また、小売り・コンシュマー分野でもEラーニングや医療・ヘルスケア、モバイル関連アプリの会社が積極的に採用活動を行っています」。
社会全体が不況に陥ったときにも好調な業種はあり、しっかりと専門スキルを培っていれば不況も怖くないということだろう。
コロナ禍におけるビジネスパーソンの意識トレンド
今回の発表では、企業側の分析に続き、ビジネスパーソンにおける意識のトレンド分析も行われた。興味を引いたひとつは、転職機会に対する意識だ。
「全体では、『十分にあると思う』と『あると思う』を合わせると、73%になっています。なかでも、テクノロジー分野では8割を超える会社員が転職に自信を見せています」。
コロナ不況下でも意外に高いと感じたが、調査対象が同社に関わりのあるスペックの高い人材であることがアンケート結果に影響したようだ。
そして、もうひとつ印象深かったのが「2021年に会社員が雇用主に期待すること」だ。
「資料のように、『切磋琢磨できる同僚・企業文化』を筆頭に、『柔軟な働き方』や『雇用の安定』等が期待されています。さらに、『柔軟な働き方』を深堀すると、『アプリ、ツールを最大限に活用』『完全テレワーク』『半分テレワーク』がトップ3を形成しています。この結果は、給与と並んでテレワーク環境が提供できない企業は優秀な人材を確保できなくなることを意味しています」。
今回のコロナ禍で、全体として転職市場が低調になったのは間違いない。
一方で、同社の調査結果から明らかなように、人材採用に積極的に取り組んでいる業種や転職で給与がアップするスキル人材も確かに存在する。そうした人材であれば、コロナ禍を機に、柔軟な働き方ができるようになる可能性も高いのだろう。