「苦汁を飲まされた」などのように使う「苦汁」。聞いたことはあっても、ぼんやりとしたイメージしかなく、意味を具体的に説明できる方は少ないかもしれません。また同じ読み方をする「苦渋」と混同されやすいので注意が必要です。
本記事では「苦渋」の意味や読み方、使い方と例文を紹介。「苦渋」との使い分け方や、「辛酸をなめる」「煮え湯を飲まされる」など似た表現もまとめて紹介します。
「苦汁」の意味と読み方とは
苦汁とはその漢字の通り、苦い汁という意味の言葉です。苦い汁と言うと、想像するだけでも少し不快な気分になる人も少なくないかもしれませんね。そんな「苦い汁」から転じ、苦汁は「つらく苦しいもの」という意味も持っています。
読み方は「くじゅう」です。
「苦い汁」という意味もあるものの、実際には「嫌な経験」といった意味合いで使われることが多いでしょう。「苦汁を飲まされる」や「苦汁をなめる」のように使います。
「にがり」と読む場合は違う意味になる
さらに苦汁は「にがり」と読むこともできます。
にがりとは海水を煮詰めて塩分を取り出したあとに残る液体のことです。海の水に含まれた酸化マグネシウムをたっぷりと含んでいます。別名「粗製海水塩化マグネシウム」ともいいます。
豆腐を作るときの凝固剤として使用されています。そのままなめるととても苦い味がしますが、栄養たっぷりでご飯を炊くときに使用したり、お風呂に入れたりする人も多いようです。
「苦汁」と「苦渋」の違い・使い分け方とは
どちらも同じく「くじゅう」と読む「苦汁」と「苦渋」。
二つとも似たような意味を持っているので、混同してしまう人も少なくありません。会話に出す場合は漢字を意識することはないので、あまり考えずに使うこともできますが、文章にする際は気を付ける必要があります。
苦渋とは
そもそも「苦渋」とは、「悩み苦しむこと」という意味の言葉です。または漢字の通り「苦くて渋いこと」を指す場合もあります。「苦汁」と同様に「くじゅう」と読みます。
「つらい思いをする」という意味の「苦渋を味わう」や、「苦しみ悩んだ様子の表情をする」という意味の「苦渋の表情を浮かべる」などのように使います。
「苦汁を飲む」「苦渋を飲む」、「苦汁を味わう」「苦渋を味わう」はどちらが正しい?
「苦汁」と「苦渋」を使い分ける方法は、「転じる前の意味」を考えることです。
「苦汁」は「苦い汁」。つまり飲んだり、なめたりするものです。対して「苦渋」は「苦くて渋い」という、「味」を表した言葉です。
「~を飲む」「~をなめる」の場合は、味そのものを「飲む」「なめる」ことはできないため、「汁」である「苦汁」が正しいです。一方で「~を味わう」の場合は飲んだりなめたりした後の「味覚」を指す「苦渋」が正しい漢字となります。
「飲む・なめる」といった液体に関する動作の場合は「苦汁」、それ以外の場合は「苦渋」と覚えるのがいいでしょう。「くじゅう」を使用した文章を書くときは、特に使う漢字を意識することが大切です。
【正しい表現】
- 苦汁をなめる
- 苦汁を飲む
- 苦汁を飲まされる
- 苦渋を味わう
- 苦渋の表情を浮かべる
「苦汁」の使い方と例文
次に「苦汁」を使った例文をご紹介します。例文から使用できる場面を知り、会話や文章の中で積極的に使用できるようになりましょう。
ただ「つらかった」「苦しかった」というよりも、「苦汁」というインパクトの強い言葉が加わることによって伝えたい感情が相手に伝わりやすくなります。
「万全の体制で挑んだ初戦は、苦汁をなめる結果に終わった」
「苦汁をなめる」は「つらく、苦しい経験」という意味の言葉なので、敗北を喫した試合などを表現する場合に使われることが多くあります。
「負けた」と一言で表すよりも敗北の苦しさを伝えることができるでしょう。
「地方営業で苦汁を飲んだのは、今の私の財産となっている」
「地方営業で苦汁の飲んだ」といえば、その仕事が大変だったことを相手に伝えることができます。婉曲と呼べるほど遠回しなものではないですがやんわりと直接的な表現を避けながらも、仕事の過酷な状況を相手に想像させる使い方です。
大変なことをこのようにスマートに表現できると、日本語もワンランクアップしたと言えるでしょう。
「イヤミな悪役に苦汁を飲ませるシーンが爽快なドラマシリーズだ」
苦汁は自ら飲むだけではなく、「相手に飲ませる・なめさせる」のように使うこともできます。この文章では、嫌なことをする悪役が相応の裁きをうけることを「苦汁を飲ませる」と表現しています。
「なめる」「飲まされる」を使う、間違えやすいその他の言葉
主に「苦汁をなめる」や「苦汁を飲まされる」のように使用される「苦汁」。
日本語には他にも「~を飲む」「~を飲まされる」のように使う言葉があります。「苦汁」と混同してしまわないよう、その一部をご紹介します。
辛酸をなめる
「つらく、苦しい目にあう」という意味の「辛酸をなめる」という言葉があります。読みは「しんさん」です。
その漢字の通り「からくて酸っぱい」ものをなめるのは「つらい、苦しい」ということから転じた言葉です。「辛い」という字は「からい」とも「つらい」とも読むことができますね。
「苦汁」と「辛酸」はどちらも同じような意味で使われますが、「辛酸を飲む」「辛酸を飲まされる」とは言いません。辛酸は「~をなめる」とセットで使われることがほとんどです。
煮え湯を飲まされる
「煮え湯を飲まされる」という言葉もあります。「信じている人からひどい裏切りをうける」という意味の言葉です。信頼していた人物から「飲み頃ですよ」と渡されたものが熱湯だったため苦しい思いをしたというエピソードから生まれた言葉だといわれています。
「苦汁」や「辛酸」と違うのは、つらく苦しい原因が「信頼した人物からの裏切り行為」であると決まっていることです。
大きな点差で負けた試合や、自分自身の失敗でつらい思いをしたことなどは「煮え湯を飲まされる」という表現は使わないので注意しておきましょう。
苦杯をなめる
「苦汁をなめる」の同義語で「苦杯をなめる」という言葉もあります。読みは「くはいをなめる」です。「苦杯」とは「苦いお酒を入れた器(杯)」という意味で、転じて「苦しい経験」を指します。
主に試合が負けたときなどに「苦杯をなめる結果となった」のように使用されます。
なお「つらい経験となる結果」はすなわち「負け」という意味なので、「苦敗」と書き間違える人も少なくありません。もととなった意味を確認し、正しい漢字を使えるようになりましょう。
「苦汁を飲む」「苦汁をなめる」など、「苦汁」を正しく使いこなそう
「苦い汁」から転じ、つらく苦しい経験を指す「苦汁」。「苦汁を飲む」「苦汁をなめる」のように使用することがあります。
同じく「くじゅう」と読む「苦渋」という言葉もあり、同じような意味を持っていますが「汁」と「味覚」で、後に続く言葉が異なるので注意しましょう。
また、「辛酸をなめる」や「煮え湯を飲まされる」も混同しやすい表現の一つです。言葉の成り立ちや使える相手を一つずつ確認し、使いこなせるようになれば語彙力も必ずアップします。難しく敬遠されがちな表現ですが、言葉の成り立ちや意味を楽しく学び、大人として最適な言葉選びができるようになりましょう。