H3ロケットと開発陣、種子島での戦いのシナリオ
種子島宇宙センターに到着後、コア機体は大型ロケット組立棟(VAB)の中に運び込まれ、そしてVOS(Vehicle On Stand)と呼ばれる組み立て作業が始まる。
VOSではまず、H3ロケット用の新型移動発射台(ML5)の上に第1段を立て、続いてその上に第2段を載せ、さらに両脇にSRB-3を装着。機能点検を行ったのち、フェアリングを結合する。組み立てにそれほど時間はかからず、1月末までにはML5の上にロケットが立っている予定だという。
将来的にH3ロケットの本格的な運用が始まれば、このVOS後に衛星を搭載し、射点へ運んでカウントダウン作業に入り、そして打ち上げとなるが、H3は新型ロケットであり、また今回が初めての打ち上げとなるため、今回はまず、さまざまな試験が行われる。
これからH3ロケットに待ち受けているのは、「極低温点検(F-0)」、「特別点検」、そして「1段実機型タンクステージ燃焼試験(T-0)」という、大きく3つの試験である。
このうち極低温点検については、今年3月の実施の予定で準備が進められている。
これらの試験は、試験機1号機のコア機体、すなわち実際に宇宙へ向かって飛ぶことになる機体を使って行う。コア機体以外の部品についても、試験によっては実際に飛ぶものを使う。
まず極低温点検では、打ち上げを行う射点にH3ロケットを立て、そしてロケットと地上設備、安全監理という3つのシステムのインタフェース確認が行われるほか、ロケットに推進剤の液体水素と液体酸素を充填し、エンジンに着火する直前までのカウントダウン作業のリハーサルも行う。ロケットに実際に極低温の推進剤を流し込むため、極低温点検と呼ばれる。
これにより、組み立てた機体と射点設備を組み合わせた状態で、打ち上げまでの作業性や手順を確認することを目的としている。
ただし、フェアリングは過去の開頭試験で使ったものを、またLE-9はまだ完成していないため試験用のものを装着する。火工品と呼ばれる、ブースターやフェアリングの分離などで用いられる火薬類も装着しない。
続いて行う特別点検では、ロケットの全段を組み立てた状態での技術データ取得を行う。具体的には、電磁適合性(EMC)試験、全機振動試験、全機姿勢制御システム試験、アンビリカル(発射施設とロケットをつないでいる配管、配線など)の離脱試験などが行われる。
そしてこれらをクリアしたのち、打ち上げ前最後の大きな関門となる1段実機型タンクステージ燃焼試験に挑む。
英語でCFT(Captive Firing Test)とも呼ばれるこの試験では、実機のタンクを用いた第1段推進系システムの総合確認として、コア機体と設備のインタフェースの最終確認のほか、飛行中と同様の機能を作動させ、LE-9エンジンに点火して燃焼させて、データを取得することを目的としている。
CFTでは、フェアリングは実際に飛行するものを装着する。また、LE-9もこのころには技術的課題を克服し、完成している予定であるため、実際に打ち上げに使うものを装着する。一方、SRB-3は、この試験では使わないこと、また万が一事故が起きたときのリスクなどを考え、装着しない。
このCFTをクリアすれば、いよいよロケットに衛星を搭載。最後の機能試験などを行ったのち、打ち上げに臨むことになる。
試験機1号機には、JAXAが開発する先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)を搭載し、所定の軌道への投入が行われる。
もっとも、この打ち上げもあくまで試験であり、H3ロケットの機能や性能を最終検証するためのデータ取得が行われる。
また全体を通じて、ロケットの製造から射場での整備作業、そしてカウントダウン作業など、ロケットの打ち上げに至るプロセスを作り込むことも目的となっている。
岡田氏は「ロケットを部品からシステム、さらにシステムを集合体へと造っていくなかで、一つひとつ確認はしているが、やはり実際に飛ばしてわかること、飛ばさないとわからないことがある。運用に入る前に飛ばすことで、いろんなデータを取り、分析して、手直ししていく必要がある」とその意義を語る。
岡田氏はよく、ロケットはSystem of Systems、すなわちロケットの機体そのものも機体やエンジン、電子機器などが集まったシステムではあるが、ロケットとはその機体だけでなく、地上施設設備と安全監理の3つのシステムが集まった総合システムであり、H3ロケットの開発とはその総合システムの開発である、と語る。
極低温点検に始まるこの各種試験は、まさにロケットの機体のシステムと、地上施設設備というシステム、そして安全監理というシステムが、すべて協調して正常に動くかどうかを確かめる、きわめて重要なものとなる。
LE-9に起きた問題の解決、対策に向けた現状
初打ち上げに向けて準備が進むH3ロケットだが、いちばんの懸念は、やはり打ち上げ延期の原因となった、LE-9エンジンに起きた技術的課題であろう。
岡田氏によると、課題の解決、対策に向けた作業は「まだ道半ば」だという。
既報のとおり、LE-9は現在、「燃焼室の壁面に亀裂が入る」と「液体水素ターボ・ポンプのタービンの羽根にひびが入る」という、2つの課題を抱えている。
今回の機体公開に先立ち、昨年12月に行われた記者勉強会において、岡田氏は「燃焼室で起きた事象については、種子島で燃焼試験を続けており、非常にいいデータが取れている。しかし、なかなか『これだ』という、原因の特定にはたどり着けていない。ただ、打つ手というのはそんなに難しくなく、いくつか対策案を考えている。原因がわかれば、そのうちどの対策を取るかという問題になるので、解決まではもう少しだと思う」と語る。
また、液体水素ターボ・ポンプの問題については、「JAXA角田宇宙センターで試験を続けており、原因についてはほぼ特定できた。いまは、その特定した現象を、どう回避する設計にして、確定して図面を出すか、という検討を行っている。二度と繰り返すわけにはいかない事象なので、慎重に議論を続けている」という。
そして両方の問題について、「まだ未解決とはいえ、もう網にはかかっている。あとはどう仕上げるかという最後の詰めの段階。もちろんロケット開発には魔物がひそんでいるので、明日どうなるかはわからないが、現時点において、2021年度中に打ち上げるという目標は変わらない」と語った。