給料から天引きされている分以外に社会保険料を支払っている場合、かなり負担が大きいです。そのような場合年末調整で手続きすることで、所得控除を受けられます。

例えば、未払いの状態だった「国民健康保険」を追納した場合や家族の「社会保険料」を負担した場合など、社会保険料控除の対象となるものは意外とあります。また、個人事業主など確定申告が必要な人は、確定申告で忘れないように申告が必要です。

しかし、社会保険料控除に必要な書類を書く機会が少ないなどの理由で、書き方がよくわからない人も多いでしょう。

本記事では、社会保険料控除に必要な書類の書き方を紹介していきます。年末調整や確定申告で社会保険料控除を受けたい人は参考にしてください。

  • 社会保険料控除とは

    年末調整や確定申告における社会保険料控除欄の書き方を紹介する記事です

社会保険料控除とは

社会保険料控除とは、納税者が社会保険料を支払った場合に、支払った金額について所得控除を受けることができる制度のことです。

ここでは、社会保険料控除の対象や金額などについて、詳しく紹介していきます。

■社会保険料控除の対象者

所得控除の対象となるのは、納税者本人が自分や生計をともにする配偶者や子供など、他の親族が負担すべき社会保険料を支払った場合です。つまり家族や親族の社会保険料でも対象となりますが、支払ったのは納税者本人である必要があります(※1)

また社会保険料控除の控除となる配偶者はと、婚姻の届け出をしている配偶者のことです。内縁関係にある人は、たとえ生計をともにしていたとしても社会保険料控除の対象にはなりませんので注意してください。

■社会保険料控除の対象となる保険料

社会保険料控除の対象となる保険料は、大まかには下記のようなものがあります。

  • 国民健康保険
  • 介護保険
  • 雇用保険
  • 公的年金
  • 船員保険
  • 厚生年金基金
  • 国民年金基金
  • 労働災害補償保険
  • 公務員の互助会など

例えば下記のような場合、控除の申請を忘れてしまいがちなので、注意してください。

  • 自分や子供の過去の国民年金保険料を一括して支払った場合
  • 翌年分の保険料を支払った場合
  • 複数年分の国民年金保険料を前納した場合
  • 生計をともにする家族の国民年金保険料を前納したなど場合

なお、社会保険料控除の対象となるのは、支払った年である点を押さえておきましょう。

■年末調整か確定申告で手続きする

社会保険料控除で所得控除を受けるためには、年末調整または確定申告で手続きが必要です。会社員の場合は例外を除いて年末調整の際に「給与所得者の保険料控除申告書」に必要事項を記入することで手続きできます(※2)(※3)

確定申告が必要な人や年末調整を受けなかった人は、確定申告の際に漏れなく申告することで、社会保険料控除を受けられます。

  • 社会保険料控除とは

    対象年度に支払った自分や家族の社会保険料は年末調整や確定申告で手続きすると社会保険料控除の対象となります

年末調整での社会保険料控除欄の書き方

会社員が所得控除を受ける場合、基本的には年末調整で手続きが可能です。

11月頃に会社から配布される「給与所得者の保険料控除申告書」へ記入し、必要書類を添付して提出することで、社会保険料控除を受けられます(※4)

■年末調整での社会保険料控除欄記入項目解説

年末調整で社会保険料控除を受けるために必要な「給与所得者の保険料控除申告書」では、さまざまな控除を受けるための申告が一度にできます。記入すべき項目は下記の通りです。

  • 氏名・フリガナ
  • 住所または居所
  • 生命保険料控除(一般の生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料)
  • 地震保険料控除
  • 社会保険料控除
  • 小規模企業共済等掛金控除

左上の会社の名前などは、ほとんどの場合会社が記入してくれますし、給料から天引きされる保険料に関しては、改めて申告する必要がなく控除の対象となっています。

会社とは別で加入しているなど、別途自己負担した保険料があれば記入して提出しましょう。

■「一般の生命保険料」欄

「一般の生命保険料」欄は、「生命保険料控除」の中にある記入欄のひとつ。

生命保険に加入している場合に、平成24年1月1日以降に締結した保険契約なら最高4万円、それ以前の契約なら最高5万円かつ両方合計で最高5万円の生命保険料控除を受けられます。

毎年の控除額は、年末になると保険会社から書類などで通知が届くことが多いですので、届いた書類をもとに必要な項目を記入しましょう。

記入後は一番下にある計算式から、控除額を算出してこちらも記入します。

■「介護医療保険料控除」欄

「介護医療保険料」欄に記入するのは、平成24年1月1日以後に締結した対象となる保険契約です。ただし、平成23年12月31日以前には介護医療保険料単独での控除はなかったため、「旧生命保険料」への記入となります。

介護医療保険料の控除金額は一般の生命保険料と同様最高で4万円までです。

こちらも保険会社から届く証明書などをもとに、「介護医療保険料」欄へ記入してください。

■「個人年金保険料控除」欄

「個人年金保険料」欄は、「一般の生命保険料」欄と同様、新制度と旧制度の2種類を記入します。

控除額は平成24年1月1日以降に締結した保険契約なら最高4万円で、それ以前の契約なら最高5万円かつ新旧合計で最高5万円の個人年金保険料控除を受けられます。

同じように保険会社からの通知を見ながら記入・算出してください。

■「社会保険料控除欄」

「社会保険料控除」欄には、自分が今年負担した社会保険料の種類や金額などを記入します。基本的には給料から天引きされた以外に自分が負担した社会保険料が対象となります。

例えば両親の介護保険料や、学生時代に納付猶予を選択していた国民年金保険料などがあれば、社会保険料控除で全額が所得控除の対象です。

今年自分が支払った社会保険料がある場合には、漏れなく記入してください。

■「生命保険料控除欄」の書き方注意点

「生命保険料控除」欄は「一般の生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」と控除額の計算枠があります。それぞれの生命保険料欄に記入していく際には、新制度と旧制度とで記入後の控除額計算式が異なりますので注意してください。

すべての生命保険料を記入したら、最後に控除額の計算枠を使って生命保険料控除額の総額を計算します。

合計の最高額が12万円ですので、それ以上の生命保険料控除は受けられない点に注意しながら、生命保険料控除額の総額を算出してください。

■年末調整での社会保険料控除欄記入例

「給与所得者の保険料控除申告書」の「社会保険料控除」欄は、なかなか書く機会が少なく、書き方に戸惑ってしまう人も多いでしょう。

「社会保険料控除」欄の書き方例は以下の画像を参考にしてください。負担している社会保険料の金額が多く欄が足りない場合には、字を小さく書くか別紙を用意しましょう。

  • 年末調整での社会保険料控除欄の書き方

    年末調整での社会保険料控除欄の書き方の例
    元データはこちら

■あわせて確認しておこう! 地震保険料控除の書き方

持ち家や賃貸不動産などに地震保険料を支払っている場合、一定額の所得控除を受けられます。地震保険料控除の対象となる保険契約とは、資産が対象で、地震などによる損害で生じた損失額を補填する保険金や共済金が支払われる契約のことです。

地震保険料控除額は最高で5万円ですが、平成18年12月31日までに締結した契約かつ保険期間が10年以上などの条件に当てはまる場合には、旧長期損害保険料の対象となり最高1万5,000円が控除されます。

必要事項を記入したら、損害保険会社などが発行した証明書を添付して提出してください。

■小規模企業共済等掛金控除欄の書き方

小規模企業共済等掛金控除には「小規模企業共済」「企業型確定拠出年金」「個人型確定拠出年金」「心身障害者扶養共済掛金」の4種類があります。会社員や公務員で 個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入している場合は掛け金を全額控除することができます。

記入時には、登録時の住所に送られた「小規模企業共済掛金払込証明書」を見ながら記入しましょう(※5)

■証明書を添付して提出する

社会保険料控除をはじめ、「給与所得者の保険料控除申告書」で控除を受けるための申告を行う場合、基本的には証明書の添付が必要です。

ただし、社会保険料控除の場合、国民年金の払い込みを証明できる書類以外の添付は必要ありません。そのため、国民健康保険や介護保険料などの保険料を支払った証明書は添付不要です。

どんな書類の添付が必要なのかに関しては「給与所得者の保険料控除申告書」裏面に記載されていますので、よく確認して提出しましょう。

■年末調整で手続きできない控除があるなら確定申告する

1年間の支出の内容によって、さまざまな控除を受けられます。会社勤めをしているとほとんどの控除は年末調整で手続きできますが、場合によっては年末調整で手続きできないこともあるので、確定申告を行いましょう。

雑損控除や医療費控除、寄附金控除の所得控除を受けたい場合は年末調整で手続きができませんので、確定申告が必要です。このような所得控除を利用したい人は、面倒でも確定申告を行いましょう(※6)

  • 年末調整での社会保険料控除欄の書き方

    「給与所得者の保険料控除申告書」に記入して提出することで社会保険料控除などさまざまな控除を受けられます

確定申告での社会保険料控除欄の書き方

会社員で確定申告が必要な人や、個人事業主・経営者などは、確定申告を行う際に社会保険料控除欄へも記入して添付書類とともに提出しましょう。

確定申告書には「確定申告書A」と「確定申告書B」とがあり、使用できる人が異なります。確定申告書Aは申告する所得が給与所得や公的年金・雑所得・配当所得・一時所得のみの場合に使用でき、確定申告書Bは誰でもが使用可能です。

■確定申告での社会保険料控除欄への記入は2カ所

確定申告書Aと確定申告書Bどちらの確定申告書を選んだ場合でも記入すべき項目は同じです。

第一表 「社会保険料控除」欄へ控除額を記入して、合計額などに加算する
第二表 「社会保険料控除」欄へ支払った保険料の名称と金額を記入する
添付書類台紙 必要書類を貼り付ける

e-Taxを利用する場合も、入力内容は基本的に同じ内容です。

■確定申告における社会保険料控除欄の記入例

確定申告対象年に支払った社会保険料は全額が社会保険料控除の対象ですので、他の保険料控除のように控除額の上限はありません。

確定申告書へ記入する際には、まずは第二表へ一覧を記入した後で合計額を算出して、第一表へ合計額を記入するとわかりやすいです。

会社員で年末調整において申告済みの社会保険料がある場合には、第二表の「うち年末調整等以外」には、年末調整した社会保険料を差し引いた金額を記入してください。

e-Taxの場合は保険料ごとの金額を入力すると、自動計算してくれます。

■他の保険料控除も忘れずに申告しておく

確定申告では、収入や所得、経費の申告とともに控除の申告もまとめて行います。会社員が年末調整で行うような、基礎控除や生命保険料控除、扶養控除などの申告もまとめて行いましょう。

また、年末調整で手続きできない医療費控除や寄付金控除、個人事業主なら小規模企業共済や個人型確定拠出年金(iDeCo)なども忘れがちですので、控除を受けられるよう抜かりなく申告してください(※7)

■年末調整できなかった場合は確定申告すれば控除される

年末調整での申告漏れなどにより、社会保険料控除の手続きを行っていない場合は、確定申告を行うと所得税が戻ってくることがあります。自分の所得や控除額から所得税を算出し、源泉徴収で多く支払い過ぎている場合に、還付金の受け取りが可能です。

社会保険料控除は全額とかなり大きいので、年末調整で社会保険料控除の手続きをし忘れていても諦めずに、確定申告を行いましょう。

■証明書を添付して提出する

確定申告で社会保険料控除の申告をする場合や、国民年金保険料及び国民年金基金の掛け金を支払った場合には証明書の添付または提示が必要ですので、台紙に貼り付けて提出しましょう。

ただし、e-Taxで提出する場合にはこれらの書類の提出または提示を省略できます(※8)(※9)

  • 確定申告での社会保険料控除欄の書き方

    確定申告で社会保険料控除の手続きをする場合には書類への記入またはe-Taxで行います

社会保険料控除の注意点

社会保険料控除として所得控除を受けるときに、いくつか気をつけておくべきポイントがあります。社会保険料控除を漏れなく申告するための注意点を紹介します。

■家族の保険料も忘れず申告する

納税者本人が子供や両親など、生計をともにしている親族の国民年金など社会保険料の費用負担をした場合には、社会保険料控除の対象となります。申告を忘れてしまう人も多い内容ですので、忘れずに申告を行いましょう。

ただし、内縁の妻やその連れ子など、戸籍上の親族関係に当たらない人物に関しては社会保険料控除の対象外です。間違えて社会保険料控除の申告をしないよう注意してください。

■証明書を紛失したら再発行の手続きをする

国民年金を支払ったことで社会保険料控除として申告したいのであれば、「保険料または掛金の金額を証する書類」の提出が必要です。e-Taxで提出する場合を除いては必ず必要な書類ですので、万が一紛失した場合には再発行の手続きを行いましょう(※10)

ただし、再発行の手続きをしてもすぐに届くわけではありません。1週間程度時間がかかる場合がありますので、早めに再発行の手続きを行いましょう(※11)

国民年金の場合、再発行の手続きは「ねんきんネット」を利用して再発行申請を行うか、ねんきん加入者ダイヤルや年金事務所で依頼してください。

■転職者は新たな勤務先で手続きが必要

年末調整の対象となるのは、1年を通じて勤務している人だけでなく、1年の途中で就職して年末まで勤務している人も含まれます。つまり転職した会社員は、転職先の会社で年末調整の手続きの中で社会保険料の控除を申告します(※12)

年末調整の手続きには前の会社で退職時に交付された「給与所得の源泉徴収票」などが必要となりますので、なくさないように注意して忘れず提出しましょう。

■行が足りない場合は用紙を追加

年末調整では社会保険料控除の記入欄は2行、確定申告の用紙なら3行と、記入欄は意外と少ないです。子供や親族が多く、たくさんの社会保険料を負担している場合、用紙には記入しきれないこともあるでしょう。

確定申告書の場合は、もともとの行が多いので、線を引いて小さく書くといいでしょう。年末調整の場合には、もう1枚「給与所得者の保険料控除申告書」を用意して記入してください。

■提出期限や申告期限に気をつける

社会保険料控除を受けるためには、必要書類を期限までに提出することが必要不可欠です。年末調整と確定申告とで、設定されている期限が異なるので注意しましょう。

  • 年末調整提出時期 : その年最後の給与やボーナスなどの支給日前日まで
  • 確定申告期間 : 例年2月中旬から3月中旬まで(令和3年は2月16日から3月15日まで)

提出に必要な書類をそろえた上で、期限に間に合うよう、早めに提出しましょう。

  • 社会保険料控除の注意点

    社会保険料控除の申告には対象者や申告方法、期限など気をつけておくべきポイントがあります

社会保険料控除は全額! 忘れずに手続きしましょう

年末調整や確定申告で毎年手続きを行っている人も多い社会保険料控除の申告は、負担した保険料が全額所得控除されます。

自分だけでなく子供や親などの親族に関しても、自分が社会保険料を負担しているなら控除されますので、忘れずに手続きを行いましょう。記入する行が足りない場合は、文字を小さく書くか用紙を追加してください。

会社勤めをしている人であれば基本的に年末調整で手続きできますが、個人事業主や経営者、年末調整できなかった会社員などは、確定申告することで控除されます。申告する保険料が国民年金や国民年金基金の場合は証明書も添付してください。

社会保険料控除は毎年手続きが必要で面倒に感じる人も多いかも知れませんが、できるだけ所得税の負担を軽くするためにも、漏れなく申告しましょう。

参照 :
(※1)国税庁「No.1130 社会保険料控除
(※2)国税庁「令和2年分年末調整のしかた
(※3)国税庁「No.1130 社会保険料控除 よくある税の質問
(※4)国税庁「令和2年分 給与所得者の保険料控除申告書の記載例
(※5)国税庁「No.1140 生命保険料控除
(※6)国税庁「セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について
(※7)中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 掛金について
(※8)国税庁「生命保険料控除証明書等のオンライン送信について
(※9)国税庁「控除証明書等の電子的交付について
(※10)日本年金機構「控除証明書をなくしてしまったのですが再発行できますか
(※11)日本年金機構「控除証明書が届きません
(※12)国税庁「No.2674 中途就職者の年末調整