マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、バイデン氏の米大統領就任について解説していただきます。
1月20日正午(現地)、バイデン氏が第46代米大統領に就任しました。バイデン大統領は就任演説で「米国の団結」を呼びかけました。そして、すぐさま17の大統領令を発出して、「分断」を助長したトランプ政権下の政策の巻き戻しや、コロナ対策の強化に向けて迅速な動きをみせました。
トランプ政策の巻き戻り……
- 昨年脱退したWHO(世界保健機関)やパリ協定(気候変動対策)への復帰
- 「メキシコの壁」建設の中止や移民規制の緩和、イスラム諸国からの入国禁止の解除
- 連邦政府の敷地内でのマスク着用義務化
- コロナに関連した強制退去の猶予措置延長や学生ローンの返済猶予
- 石油パイプラインの建設許可取り消し、など
これらはバイデン政権が議会の協力なしに実現できるものです。一方で、14日にバイデン氏が発表した総額1.9兆ドルの大型経済対策や、その後に実現を目指すインフラ投資、税制改革などは議会での立法措置が必要であり、共和党の協力なしでは実現が困難です。
1.9兆ドルの経済対策
バイデン氏が発表した経済対策の中身は、個人向け給付金の増額(600ドル⇒2,000ドル/人)、州・地方政府への支援、失業保険の拡充、ワクチン普及の支援など、総額1.9兆ドルです。
米政府は昨年3月のCARES法などで約3兆ドル、同12月の追加経済対策で0.9兆ドルなど、総額でGDPの約20%に相当する財政支出を行っていますが、バイデン氏は依然として不十分だと判断したのでしょう。
超党派の賛同は得られるか
大統領選挙などで共和党と民主党の対立が強まったこともあり、バイデン大統領は両党から支持を得る、いわゆる超党派で景気対策を成立させたい意向です。
昨年の選挙と今年1月の上院決選投票の結果、政府、議会の上院、同下院をいずれも民主党がコントロールする、いわゆる「トリプル・ブルー」あるいは「ブルー・ウェーブ」が実現しました。そのため、民主党の政策はある程度、民主党だけで成立させることが可能性です。
ただし、議会の上院での法案審議では、少数派政党でも採決を妨害するフィリバスターという戦術が使えます。審議時間に制限がないため、長々と演説を続けることを採決できないようにするのです。審議を打ち切って採決に移るためには、スーパーマジョリティ(100議席のうち60議席以上)が必要です。今回であれば、民主党議員の50人全てが支持したうえで、10人以上の共和党議員からも支持を取り付ける必要があります。
予算を補完する予算調整法案にはフィリバスターが認められていないため、景気対策を予算調整法案(の一部)とすれば、過半数(50議席+副大統領)でも成立させることができます。ただ、バイデン大統領はそうした戦術をとらないようです、少なくとも現時点では。
弾劾裁判の影響は?
事態を複雑にしているのが、トランプ前大統領の弾劾裁判です。下院は13日、トランプ大統領(当時)の弾劾決議を可決しました。6日の連邦議会議事堂(キャピトル)への暴徒の乱入を大統領が扇動したとして、これが弾劾要件の「反逆罪、収賄罪又は其の他の重罪及び軽罪」に該当すると判断されたのです。トランプ氏は2度の弾劾を受けた初の大統領となりました。
下院が弾劾決議を上院に送付すれば、上院で弾劾裁判が開始されます。上院では下院の代表が検察官、上院議員が陪審員の役割をし、3分の2以上が有罪と認めれば、大統領は罷免されます。
ただし、バイデン政権のスタートダッシュを妨げないように、上院での弾劾裁判の開始は2-3カ月先送りされるとの見方もあります。大統領の退任後であっても、弾劾裁判は有効と判断されているようです。また、退任後に有罪となった場合、年金の停止や公職からの追放など実効ある懲罰を課すこともできるようです。
いずれにせよ、コロナの感染拡大を含めて難問が山積するなか、新たに誕生したバイデン政権は、「団結」によってそれらに迅速に対処することができるか。バイデン大統領の政治手腕が試されるところでしょう。