キリンビバレッジは21日、事業戦略説明会を実施した。このコロナ禍により、消費者のマインドや購買手段は大きく変化しつつある。そこでキリンビバレッジでは、そうした市場動向を見据えながら、ある2つのカテゴリに注力していく考えだという。
2020年の振り返り
登壇したキリンビバレッジの堀口英樹氏は、まず2020年度の市場動向について振り返った。
成長トレンドだった清涼飲料市場はこのコロナ禍で-7%の減少に転じた。一方で消費者の健康志向の高まりにより、健康カテゴリが堅調に推移。機能系飲料は前年並みを維持し、無糖飲料は1%増となった。
堀口氏は「コロナで在宅勤務、外出自粛が続いた影響で、運動不足から健康に気を使う人が増えました。無糖飲料が構成比率を高め、いまや清涼飲料全体の65%くらいを占めています」と分析する。
キリンビバレッジとしては、清涼飲料カテゴリで-9%の減少となった。しかし堀口氏は「コロナはビジネスのチャンスを教えてくれました。それはお客様の健康ニーズに迅速に対応することが必須ということ。弊社では『摂りすぎない健康(無糖、低糖)』『プラスの健康』の2つのカテゴリに注力することで、大きな成果を得ました」と前向きに捉える。
『摂りすぎない健康』である「午後の紅茶」「生茶」「キリンレモン」「ファイア」の無糖・微糖カテゴリは軒並み売り上げが増加した。また『プラスの健康』として展開するプラズマ乳酸菌入り飲料の販売実績は前年比約2.4倍増となった。
2020年の戦略スローガンには「CSV(Creating Shared Value:お客様や社会と共有できる価値の創造)の実践を軸とした成長による利益創出」を掲げていた。コロナ禍により販売数量は前年比-9%の減少となったが、キャッシュ・フロー・マネジメントを適切に行い、コスト効率化により収益性を確保。堀口氏は「経営基盤は着実に改善されています」と評価する。
2021年の事業方針
2021年の事業方針には、健康と環境をテーマに掲げた。「今年も環境変化に柔軟に対応しながらの事業経営となります。人を支える「健康」と社会に寄り添う「環境」を軸にしたCSV活動を実施することで、ポストコロナに向けた再成長を図っていきます」(堀口氏)。
健康と環境を、同社の代表的な商品「生茶」「午後の紅茶」「iMUSE」にビルドインしていく、と同氏。
2021年の生茶は「健康への貢献」と「環境の課題解決」を目指してマーケティングを展開する。具体的には、摂りすぎない健康の取り組みを進めると同時に、再生ペット樹脂を100%使用した「R100ペットボトル」の拡張、ラベルの短尺化にもチャレンジする。そして「生茶」「生茶 ほうじ煎茶」の2本柱を確立して、「生茶デカフェ」を継続的に育成していく方針だ。
発売35周年を迎える午後の紅茶は「お客様と社会への感謝」がテーマ。日本中に美味しさと幸せなトキメキを届けるマーケティングを展開する。また、原料の調達先であるスリランカの紅茶農園においては持続可能な農業の実現のため、引き続きレインフォレスト・アライアンス認証の取得を支援していく。
35年の免疫研究の成果として2020年11月に誕生した「iMUSE」(イミューズ)。2021年は免疫力を維持して安心して日常を過ごしたいというニーズに寄り添ったマーケティング展開を実施する。
このほか、摂りすぎない健康カテゴリの製品拡充として「ファイア ワンデイ ラテ微糖」を、またプラスの健康カテゴリには「キリン×FANCL デイリーアミノウォーター」をラインナップに加えて展開していく。
コロナ禍により変わったもの
引き続き堀口氏と執行役員マーケティング部長の山田雄一氏が記者団の質問に回答した。
コロナ禍により事業戦略はどのように変更したか、という質問に堀口氏は「昨年度の年初、コロナについて不明なところが多くて不安な時期でしたが、まずはキャッシュフローのマネジメントを行ってコストコントロールに集中しました。あとはお客様の行動や嗜好が変わったので、そこにアジャストしました。商品を購入する場所が変わり、また健康志向にニーズがシフトした。弊社としても、その変わったところに大きく投資をすることで商品価値をしっかりお届けできるようにしました」。
自販機事業について変わったポイントを聞かれると、堀口氏は「外出自粛、在宅勤務といった中で人々の生活が変わり、まず自動販売機における売り上げが変化しました。オフィス、公園、交通機関などに置かれたものが打撃を受け、トータルで数量が減っています。大きな流れとしては、自動販売機の市場は今後も縮小していくと思っています。ただ一方でコロナ禍でも変わらない点としては、自動販売機は残るということ。現在はお客様とのマーケティングの接点、またCSVの接点にもなっている。お客様に情報提供や販促マーケティングをする中で楽しみを感じてもらいたい。CSVの観点では見守り自販機という側面で社会貢献にもなっています。これらは今後も変わらないポイントだと感じています」と説明した。
同社は、自販機事業は「台数から質への転換加速を進める」としている。
これについて聞かれると「これまでは、台数を増やすことや稼働台数をどうするかの考え方が染み付いており、売上、利益、そうした収益感覚が後手になっていた。今後は台数のマネジメントから、採算性重視に転換していきます。マネジメントを改善していく、ということですね。これには3つの方向性があります。不採算機を整理する。また自販機の設置でかかっていた固定の販促費も見直す。そして非競争の事業領域では、他社とのアライアンスを通じて効率化を進めたい。例えばアサヒ飲料さんのメンテナンスを我々で受託させていただいている。こうしたチャンスがWin-Winになる状況であれば、今後も進めていきます」(堀口氏)。
2021年の事業戦略で環境に注力する理由を問われると「環境対策についてはコロナ以前から注目していたことです。SDGsの取り組みに端を発しています。環境を配慮した経営をすることで、社会課題を解決し、皆様にも貢献できる。そうした企業姿勢が、ステークホルダーからも求められる時代になっています。ペットボトルを多く使用している弊社としては、環境について継続して注力し、循環型社会を目的に取り組みを進めていきます」と回答した。