空知英秋氏原作の人気漫画『銀魂』(集英社ジャンプコミックス刊)のラストをベースに描く最新アニメ映画『銀魂 THE FINAL』が、1月8日より公開されている。
15年間続いてきた大人気アニメシリーズの総決算となる本作でメガホンを取るのは、長年テレビシリーズの制作に関わってきた宮脇千鶴監督だ。ファン待望の『銀魂 THE FINAL』がどのように作られていったのか。単独インタビューで、映画ならではの見どころに迫った。
※本稿では、映画の内容に触れている箇所があります。ご注意ください。
――映画は本当に盛りだくさんの内容で、よく上映時間内に収まったなという印象がありました。
プロットにするまでもなく、普通に考えたら入らないだろうというくらいの尺ではあったので、最初にどこを主軸に考えるかということを決めて、そこからどの要素を残してどの要素を削るかという感じで組み立てていきました。最終的に一本の映画として成立するようにどうやって組み立てていくか。三部構成にしたのもその一つではありますし、プロットの段階から監修の藤田陽一さんとも打ち合わせをしながら決めていきました。
――構成としての違いですと、虚との対決がよりしっかり描かれている印象がありました。
あそこはキーポイントではありますし、今までの因縁の清算の場でもありますから、丁寧に慎重に作った部分です。
――多数登場するキャラクターの整理も大変だったのではと思います。
1キャラクター一人一人の尺自体は短くても印象的なシーンを残し、ピックアップして組み立てています。みんなが活躍している姿が印象に残ればいいなと。
――キャラクターデザインも一新されていましたね。
後半の空知先生の作画がリアル寄りになっていたような印象がありました。そして映画では、虚との対決を描くことを想定して逆算し、あわせてリアルさを一段階上げたいなと思っていました。TVシリーズとは少し違う手触りにしたかったという狙いもあります。
――細かいところですが、映画ではメインとなるパートで新八がお通ちゃんのハチマキを巻いています。巻くシーン自体は描かれていないので、巻かないデザインでいくという方向もあったと思うのですが、何か意味があったのでしょうか。
そこは原作に合わせた形ですね。実はアニメでもイベントで流したジャンプGIGAの予告映像でハチマキを手にするシーンはあるんです(笑)。あれもアニメ化の一環と捉えれば、あの時ハチマキ巻いたので合ってるっちゃ合ってるかな、と。直接映像では描けてはいないものの大事なアイテムでもあるので……。
――すごく基本的なところで、監督にとって漫画をアニメにする難しさは特にどんなところにあるのでしょう。
同じように絵で表現するものなので近いように見えますが、実際にはこの二つはまるで文法が違う表現媒体なんだと思います。漫画をそのまま映像化しても、あまりうまくいかないことが多いんです。そこをいかに、原作を読んだときの印象を損なわずに映像に落とし込むか、という変換作業をするのが映像を作る人間の腕の見せ所かなと思っていて、そこは一番やりがいのあるところでもあると思います。映像しかできない強みを探して押し出していくというところでもあると思いますし。
――ギャグ、笑いが盛り込まれた作品は特に難しいのではないかと思います。
特に今回のようにシリアスとギャグが目まぐるしく展開する場合はどうやって気分転換するかというのは悩ましかったりしますね。漫画の場合は自分のペースで読めるので、気分の整理ができるんです。映像だと強制的に流れていくのでそれができない、かといって気分転換のための間を作ろうとしすぎると間延びしてしまったりするんですよね。
――そういった時に重宝する要素はあるのですか?
音楽も大きいですし、ライティングを変えることもあります。暗く締まった場所でのシーンであれば、少し明るくして調整するなどですね。ギャグは要素が伝わらないとどうしようもないので、画面を暗くしてしまうと見えなくなってしまいますから。フレーミングもあまりかっこよくしすぎてしまうと、見ている方が情報を拾えなくなってしまうことがあります。そうした場合はシンプルなレイアウトにして、画面全体を見て情報が拾えるようにすることもあります。
――時間の使い方についてはいかがでしょう。
確かに、テンポ感で見せていくということもありますね。
――バラエティなどでよく言う「笑い待ち」みたいな時間はあるのでしょうか。
全体の要素を視認してこのタイミングで笑ってくれているかな、ということを考えながら編集することはあります。でもコントライブのように笑いが起こって、収まるのを待って、というやり方とは異なりますね。
――今回の映画で監督がチャレンジしたところは?
映画ではたびたび過去のシーンが登場します。TVシリーズではその際、バンクカットを使っていたのですが、映画では新たに制作し、同じシーンでもアングルを変えたり、時間帯を変えたりすることで、いままでにない回想シーンを見ることができるように工夫しました。松下村塾前での写真のシーンもバンクでよく使っていましたが、今回は写真を撮る要素を入れて、あの写真がどうやって撮られたかというのを描くことで、あの写真の存在感が大きくなるのかなと。
――印象的だったのが、高杉の目の表現でした。これは原作にはないものだったと思います。
アニメーションはもともと情報量が少ないので、表情が見えないとサッパリしすぎて一番深みがほしいシーンに深みが出ないことがあるんです。そのため、あのシーンはこだわって、修正を入れ、最終のデータにも少し触らせていただきました。どう受け止めていただけるかはわかりませんが、今回の映画なりの覚悟みたいなものだと思っています。そうすることでアニメーションとしてのあのシーンに深みを持たせたかったというところですね。
映画『銀魂 THE FINAL』
原作:空知英秋(集英社ジャンプコミックス刊)
監督/脚本:宮脇千鶴 監修:藤田陽一
声の出演:杉田智和、阪口大助、釘宮理恵 ほか
アニメーション制作:BN Pictures 配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)空知英秋/劇場版銀魂製作委員会