NHK大河ドラマ『麒麟がくる』(毎週日曜20:00~)で織田信長役を熱演している俳優の染谷将太。池端俊策氏が脚本を手掛けた本作の信長は、ただ強いだけではなく、ピュアすぎるがゆえの狂気という新たな解釈で描かれている。この革新的な信長像とどのように向き合ってきたのか、染谷に話を聞いた。
織田信長役のオファーを受けたときは驚いたという。「小柄ですし、そんなにドスのきいた男でもないですし、なんで僕なのかと思いました」
だが話をうかがい台本を読み「なるほど」と納得。「活字からも今まで見たことない織田信長だなと。純粋で真っすぐで、一歩間違えたら、間違えたことはしてないのではないかというくらい。でも周りから見たらとてもズレている存在。現代的だけど信長から外れすぎていることはなく正真正銘の信長だと思えて、これを演じられることがものすごくうれしかったです。同時に、ちゃんと全うしないといけないというプレッシャー、責任感も感じました」と当時の心境を明かした。
ここまでセリフの多い役は初めてだという染谷は、演じていく中で自然と役が自分の中に落ちていく今までにない感覚があったと明かす。「単純にセリフも多いので、頭の中で常に信長の言葉が回っている。家に帰っても信長ということではないですが、頭の片隅にずっとぐるぐるしているというのがありました。そして、撮影が進むにつれて信長のセリフの流れが自然と自分の中に落ちてくるタイミングがあり、そこからセリフを覚えるのも早くなりました」
頭の中に常に信長がいるという日々。その状態で芝居を続けていく中で、「自分も知らなかった信長が出てくることもあった」という。また、「共演者の方にも引き出していただき、演出陣のみなさんも『こういうことをやってみたら面白いかも』とたくさん引き出しを教えてくださり、それをそのままやると面白い現象が起きたり、毎日刺激的で楽しい日々です」と、周囲の人たちによって引き出されるものもあったようだ。
序盤は、少年性を持った無邪気な信長を「その場で台本に書かれていることをただ必死にやる」という意識で演じていたが、時間が経過するにつれて勝手に役が育っていくように。
「年齢がいくにつれ、中に着こんで体を大きくしたり、ひげが生えてきたり、身なりもどんどん変わっていきますし、周りの方々の自分に対する芝居も変わっていきました。信長を演じることが自分の生活の一部になっているので、その時間の中でどんどん熟して勝手に成長していく感じはすごくあります。最近は気づいたら声の出し方が低くなっていたり、携わっている時間が作ってくれたという感覚があります」
子供の頃からピュアで、人に認められたいという承認欲求が原動力になっている信長。染谷は「演じていて、ピュアさと邪気は紙一重だなと感じています」と話し、「(今後も)ピュアさは変わらず、ずっと続いていきます。信長の環境も変わっていき、どんどん力をつけていきますし、そのピュアさは変わらない危ないと思うのですが、変わらない。邪気と紙一重になっていく」と語る。
また、「世を平らかにするのが信長の理想ですが、『麒麟がくる』における信長は暴力的なやり方で突き進んでいく。大きな国を手に入れたいという、そのベースにあるのはやはり承認欲求。承認欲求が最大に満たされることはこの国を一つにまとめることだと。そうするとみんなが喜び、みんなが褒めてくれる。気持ちとしては日本のみならず世界を自分のものにしたいと、それくらいの承認欲求を持っていると思います」と解説。