日本HPは2020年12月8日に、アスペクト比が3:2の液晶ディスプレイや日本向け仕様のキーボードを備えた「HP Spectre x360 14」など、「HP Spectre x360」シリーズの新モデルPCを発表しました。13.3型と15.6型は従来モデルのマイナーアップデートですが、14型は新しいラインナップ。新製品の魅力について、HP Inc.でデザイン部門の責任者を務めるステイシー・ウルフ氏に聞きました。
Webカメラは次世代にレベルアップ
―― 新しいHP Spectre x360シリーズのデザインで、これまでを踏襲した部分と、新たに挑戦した部分を教えてください。
ステイシー氏:新投入となる14型(画面サイズは13.5型)と、13.3型・15.6型のデザインに大きな差はありません。従来モデルの美的なデザインを維持しながら、機能的なデザインを向上しています。
機能面のデザインで改善したところは、まずキーボードが挙げられます。PCをコントロールする機能が本体のあちこちに配置されているのではなく、キーボードの1カ所にまとまっているデザインを実現しました。たとえば、Webカメラの機能をキーボード操作でオンオフできます。
Webカメラは、この仕様によって次世代にレベルアップできたと思っています。これまでは手動のスイッチでWebカメラのプライバシーを守れるようにしていましたが、加えてキーボード操作によるソフトウェアスイッチも搭載したことで、プライバシーをより確保しやすくなったのです。
通常、特徴的な機能を加えると、PCは厚みが増して本体が大きく重くなっていきます。しかし、Spectre x360 14のWebカメラでいえば、カメラも物理シャッターもより小さな構造にまとめられました。PC本体を大きくすることなく、Webカメラのレンズをシャッターで完全に隠せるようになっています。
Spectre x360 14では液晶ディスプレイのサイズも大きくしました。画面のアスペクト比を従来の16:9から3:2にしつつ、狭額ベゼルによって画面占有率を維持したことは印象に残る挑戦の1つでした。キーボード面も奥行きが増し、タッチパッドのスペースを広げられました。美しい仕上がりを維持したまま、細部にアクセントを効かせられたと思っています。
―― 美的なデザインを維持しながら機能的なデザインを向上したとのことですが、開発に関して目標を掲げ、どのような点に気を付けて取り組みましたか?
ステイシー氏:ゴールに設定した目標は、パフォーマンス、スクリーン、それにユーザビリティの拡大です。同時になるべく美しくすることと、なるべく小さくすることにもフォーカスしました。
HP Spectre x360シリーズが目指しているのは、ビジネスユースとホームユースの両方で美しさと機能性を担保することです。いま、PCの世界ではビジネスユースとホームユースが融合されてきています。使い勝手を一層向上しながらも、プライバシーとセキュリティを確保しなくてはなりません。特別感や希少性、オーダーメイドな印象を感じる演出になるよう気を付けました。
「革新的」「調和」「象徴的」という3つのデザイン哲学
―― 先日の発表会で、HPのデザイン哲学は「革新的(Progressive)」「調和(Harmonious)」「象徴的(Iconic)」という3つの言葉で示せるとしていました。実際の製品で具現化しているのはどこでしょう。
ステイシー氏:最初の「革新的」については、本体の側面を見てください。フラットではなく中央が山型に出っ張っているのがわかると思います。非常にダイナミックな形であり、革新的なデザインだと自負しています。
本体のカラーリングも注目してほしい部分です。先進性や革新性を示す色合いを、トレンドとして採用しました。私たちは色に対して高いプライドを持って取り組んでいます。
「調和」については、これは長期にわたって取り組んでいる部分です。当社では「家族のように感じられる」ことを調和と位置づけています。
―― 「家族のように感じられる」とは、ユーザーにとってPCが自分の家族のように身近に感じられるという意味でしょうか。
ステイシー氏:当社の製品がファミリーを形成しているという意味です。家族写真を撮ったとき、全員が同じ顔ではなくても、どこか似ていると感じられますよね。それと同じように、ユーザーが当社の製品ラインナップを見たときデザインに一貫性があって、同じファミリーと感じてもらえるのです。
Spectre x360シリーズの13型、14型、15型を並べてみると、まったく同じではないけれど、そっくりな印象を受けるはずです。それで家族のような「調和」となります。
調和は「Spectre」というカテゴリーでも非常にファミリー的ですし、もっと幅広く当社製品のポートフォリオを見渡しても、製品同士の似ているところに気付くと思います。当社のノートPCやオールインワンPCを見ると、三角形が繰り返し出てくるデザインが製品の隅々で見つかるでしょう。
3つめの「象徴的」には、「際立つ」「色褪せない」という2つの意味があります。以前から採用しているツートンカラーなどはよい例です。
もう1つ例を挙げましょう。HP Spectre x360シリーズは、天板を閉じて上から見ると長方形です。しかし、よく見ると奥のコーナーが45度にカットされています。これは美的デザインの理由もありますが、機能的な理由もあります。電源にするUSBケーブルはここにつながるからです。これも際立つデザインだと自信を持っています。
日本向けのキーボードレイアウトは、アスペクト比3:2のモデルだから実現できた
―― 日本市場向けのキーボードレイアウトがこのタイミングで採用になった理由は何でしょう。
ステイシー氏:画面のアスペクト比を3:2にしたことが影響しています。私は3:2をすばらしいプロポーションだと思っています。この画面に合わせるには、本体側も奥行きが必要になり、面積が広がったぶん余裕のあるキーボードを置けます。キーボードにおいて、これまでできなかった新しいことができるのです。
広めのタッチパッドとパームレストを提供可能になった点も重要です。タッチパッドとパームレストの広さと、デバイスとしての使いやすさは相関にあります。
機能的で均整の取れたキーボード面だからこそ、日本向けのレイアウトも実現できました。日本市場では「デザインも機能も気に入ったけれど、日本語入力しやすいキーボードがほしい」という声がユーザーから多く寄せられていました。今回それが実現できたので、今後の日本向けプレミアムPCの新しい標準にしていきたいですね。
画面のアスペクト比が16:9のモデルでも、将来、新しいプロダクトの中で日本仕様のキーボードを展開していけたらと考えています。
―― キーボードに関しては、先ほどWebカメラをオンオフするスイッチの話題がありましたが、このスイッチは今後、ほかのモデルにも採用していくのでしょうか。
ステイシー氏:プレミアムモデルでは採用していきたいです。大変なミニチュア仕様なので、プレミアムモデル以外ではコストの問題で採用が難しい状況でもあります。
―― 2021年をどのように展開していくか、抱負などを聞かせてください。
ステイシー氏:当社には「LEAP」という長期戦略があります。今後、HPという企業を前進させるにあたって、Learn(学ぶ)、Explore(探索する)、Accelerate(加速する)、Progress(前進する)という4つの戦略を示すものです。
LEAPでは2021年の単年だけでなく、2028年に向かっての計画を立て、それに基づいて落とし込んでいます。
一年に縛られると、いま現在の状況で物事を判断しがちになり、狭いイノベーションになってしまいます。しかし、今後どんな形になっていけばよいのか(Should Become)という遠くを見据えたうえで、そこに至るためにはいま何をやるべきか(Will Be)に戻ってくれば、優れたイノベーションを創造できるのです。
たとえば、素材。遠い未来には、パイナップルでできた素材、キノコでできた素材、あるいはもっとリサイクル素材を取り入れたサステナブルな素材で製品を作れるようになっているかもしれません。将来の技術を予測すると、こういう機能が実現できるのではないかと具体的に考えられるようになりきます。それが見えてきたら、私たちが何をすれば予測を前倒しで実現できるかを考えるのです。
2020年を振り返ると、これほどPCがなくてはならないものと感じられた一年はなかったのではないでしょうか。何年も何年も長いことPCを使って来ましたが、1つの大きな感染症によって、PCはこれまで以上になくてはならないものになりました。2021年以降、コロナ禍を経験した私たちがどのような製品を出していけるか、大きな機会の創出につながっていると考えています。
―― ありがとうございました!
長期戦略を基に単年の戦略を組み立てていく場合、世界のコロナ禍は大きなイレギュラー要因と言えるでしょう。そんな中でも、「PCはこれまで以上になくてはならないものになった」と語るステイシー氏の言葉が印象的でした。日本向けキーボードレイアウトの広がりや、ファミリー的なデザインの進化、一見すると小さなものでも使い勝手を高める機能の実装など、2021年も日本HPのPC展開に注目です。