マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、2021年の展望について解説していただきます。
2021年は、有効なコロナ・ワクチンの流通によって、世界経済が「withコロナ」から「afterコロナ」へシフトできるかが重要なカギを握りそうです。ここでは、「2021年の年央ころからafterコロナへのシフトが進み、年内に経済の正常化が展望できる」をメインシナリオとします。
そして、サブシナリオを「withコロナのもと、経済再開(⇒感染拡大)と行動制限(⇒景気低迷)のイタチごっこが続く」とします。サプライズシナリオとして、「コロナ終息によって年初から景気回復が本格化する(強いリスクオン)」あるいは「主要国で感染拡大防止が最優先され、景気が失速する(強いリスクオフ)」などが考えられますが、ここでは考察しません。
なお、1月7日未明に議会が次期正副大統領を確定させており、同20日にバイデン政権が誕生することを前提とします(ただし、バイデン大統領の政権運営に影響を与えるジョージア州の上院2議席の決選投票の行方は不透明であり、その点についてはシナリオの中で考察します)。
メインシナリオ: 21年後半に「afterコロナへのシフトが本格化」
20年中に英米などでコロナ・ワクチン接種が開始されましたが、ある程度の量が接種され、コロナの感染が収束・終息へと向かうためには少なくとも半年程度の時間は必要でしょう。それまでは多くの国や都市で、感染拡大阻止のための行動制限や部分的なロックダウン(都市封鎖)が断続的に続くかもしれません。景気の足取りは鈍く、「景気の二番底」の懸念は払しょくできないでしょう。
21年後半に、コロナが収束に向かえば、そうした懸念は後退するでしょう。EUの7カ年予算や復興基金の成立、米国の追加的な経済対策の成立はそうした流れを後押しそうです。とりわけ、米国で民主党が政府・上院・下院のいずれもコントロールする「トリプル・ブルー」となる見込みで、大型の追加経済対策への期待が高まりそうです。
企業や労働者、消費者の行動は完全には「beforeコロナ」に戻れないでしょう。ただ、年後半になってコロナ終息に確信が持てれば、控えられていた設備投資や消費は活発化するでしょう。前年から持ち越されたペントアップ・ディマンド(繰越需要)が表出することで景気に相当な弾みがつくかもしれません。
21年前半はリスクオンとオフの間の綱引き。年後半はリスクオンが強まる展開を想定します。そうした中で、リスクオフを強める要因は、過度な楽観論の揺り戻しによる株価の急落、財政赤字の拡大を嫌気した長期金利の上昇などもリスクオフ要因となりうるでしょう。
FRBは、2003年のQE(量的緩和)の縮小示唆が金融市場を大きく動揺させた、いわゆるテーパー・タントラム(縮小の癇癪)の経験から強力な金融緩和を長く続ける意向です。ただ、原油価格の急騰などによってインフレ率が大幅に上昇するような事態となれば(可能性は低そうですが)、金融政策正常化の観測が浮上するかもしれません。それは長期金利の上昇要因です。
サブシナリオ: 経済再開と行動制限の綱引きが続く
コロナ・ワクチンの接種は始まったものの、流通の遅れや効果の低さ、あるいはコロナ・ウィルスの変異などから、コロナの感染が期待されたほどには収束しない。また、接種が進まない国もあり、グローバルなヒト・モノ・カネ・サービスの流れは阻害された状況が続く。そうした状況下で、経済再開が感染拡大を助長し、感染拡大を抑制するための行動制限やロックダウンが経済に打撃を与えるという綱引きが続きます。
20年終盤にコロナ・ワクチンへの期待から投資家の心理はリスクオンが強まりましたが、そうした楽観論は大幅な修正を迫られるでしょう。そして、1年を通してリスクオンとリスクオフの間で揺れ動くことになりそうです。
そうした中で、リスクオフを強める要因として、株価の急落や原油など商品市況の低迷が挙げられます。ただし、景気の低迷が続き、主要中銀はマイナス金利を含めた金融緩和の強化や長期化の意向を明確化・実施するとみられ、長期金利は抑制された状況が続きそうです。