「言質」とはビジネスの交渉時などにおいて、自身が有利に物事を進めるために大切な事柄です。しかし正しい読み方や使い方は意外と知られていないものです。
本記事では「言質」の正しい読み方や詳しい意味、使い方と例文を紹介。目上の人に使えるかなどの注意点や語源、言い換えに、英語表現もまとめました。
言質とは? 意味や読み方を解説
早速「言質」について、基本的な意味や読み方を見ていきましょう。
言質の意味は「証拠となる言葉」
「言質」とは「後日、証拠となる約束の言葉」のことです。「言質」とまったく同じ意味を持つ言葉として「言葉質(ことばじち)」もあります。
言質の正しい読み方は「げんち」 - 「げんしち」「げんしつ」は避けたい
「言質」の正しく、一般的な読み方は「げんち」です。
「げんしち」「げんしつ」という読み方もありますが、辞書で調べてみると「『げんしち』や『げんしつ』は誤読による慣用読み」と注釈がついており、「言質」の間違った読み方がいつの間にか一般化した「慣用読み」という位置づけです。
「げんしち」「げんしつ」でも間違いではありませんが、経緯を考えるとビジネスシーンでは「げんち」と言う方が適切でしょう。
言質のビジネスシーンでの使い方と例文
言質は「言質を取る」「言質を取られる」と表現されますが、「言質」という言葉を知っていても、使い方や使う場面が適切でなければ相手の印象を悪くしてしまう可能性があります。
言質の使い方を、例文と一緒に見ていきましょう。
証拠を相手から引き出すときに使う「言質を取る」
交渉中の事案や約束に対し、後で証拠となるような言葉を相手から引き出すことを、「言質を取る」と言います。
交渉や約束事では、相手が考えを変えたり約束を果たさない可能性もあったりしますが、そうならないように証拠となる言葉を相手から引き出しておきます。
言質には「証拠」という意味があるので、「確認する」などと比べると「より強い確認」「相手に不信感がある」などのニュアンスを含みます。
例文
・先方が本プロジェクト内容について了承したことについて、言質を取ってほしい
・次の会議内容については、部長の言質を取ったから問題ない
・政治家は政治生命に関わるような言質を取られないように、気を付けている
・交渉時はなるべく相手の言質を取るように
また「言質を取る」と同様のニュアンスで、「言質を取り付ける」とも言います。
証拠を相手に与えるときに使う「言質を与える」
「言質を取る」とは反対に、交渉や約束の相手にとって証拠となるような有利な言葉を残してしまうことを、「言質を与える」と言います。
言質を与えてしまうと、後から状況を変更したい場合に、「あのとき○○とおっしゃっていましたが?」と言われてしまうなど、不利な立場となってしまいます。
ビジネスでは言質を与えてしまうと、後から変更や訂正がしにくくなってしまいますので、交渉や約束事での言葉は慎重に選びましょう。
例文
・先方の言質を取るつもりでいたが、逆に自分が言質を与えてしまった
・政治家は言質を与えないよう、細心の注意を払い言葉を選んでいる
・うっかり言質を与えないように、気を付けてほしい
「言質」を使うときに注意したいポイント
言質を使うときにはいくつか気を付けるべきポイントがあります。特にビジネス上で注意しておきたいポイントをご紹介します。
敬語表現の「言質をいただく」はNG
ビジネスでは上司や取引先などを相手に敬語を使用する機会が頻繁にありますが、敬語表現で「言質をいただく」とは言いません。
「言質を取る」は慣用句として使われていますが、表現全体に一つの意味が込められている慣用句の多くは、敬語による表現が不適切とされています。
例えば感心するという意味で使う「頭が下がる」も慣用句ですが、目上の相手に使うからといって「頭を下げさせていただく」など、敬語表現に変換することはできません。
目上の人についてであっても、「言質を取る」はそのまま伝えましょう。例えば取引先の社長を敬いたい場合でも「その件については、A社の社長の○○様に言質をいただきました」ではなく、「その件については、A社の社長の○○様に言質を取りました」と表現します。
なお「言質を取る」はそもそも「(後で自分が有利になるように)証拠を相手から引き出す」という意味の言葉のため、目上の人を相手に直接依頼するのは不躾(ぶしつけ)でしょう。
「言質をいただけますでしょうか」「言質を取りたいのですがよろしいでしょうか」といった発言は、そもそも避けた方が無難です。
混同しやすい「言質」と「言葉質」 - 「ことじち」はNG
先ほど「言質(げんち)」と同じ意味を持つ言葉として「言葉質(ことばじち)」があることを紹介しまたが、読み方や漢字を混同し、「言質」を「ことじち」と読んでしまうことがあります。
「ことじち」と呼ぶのは間違いですので、気を付けましょう。
ビジネス上の「言質」は記録を残そう
交渉や約束事は基本的に口頭で行いますが、言質を取る必要がある事案については、必ずメールなど何らかの文書でも証拠を残し、記録することを心掛けましょう。
証拠となる約束の言葉を意味する言質ですが、ビジネス上では言質を取ったとしても、録音データがない限り「言った」「言わない」と水掛け論になってしまう可能性があります。
また実際言質を取るために、ボイスレコーダーで録音することも有効です。その場合は相手に、「後々もめないよう、お互いのために言質をボイスレコーダーで録音させていただいてもいいですか?」と丁寧に聞いてみましょう。
証拠となる内容を文書で残すことはビジネスの基本です。言質を取ること・記録で残すことは、両方必要であることを意識しましょう。
言質の語源・由来
「言質」の「質」は、「中身」「根本」「もの」「事実」などの多くの意味を持っていますが、もともと「金銭に相当する品物」を意味する「しち」を表す漢字でした。この本来の意味が転じ、質は「約束を保証するため相手にあずけるもの」を表すようになりました。
言質の「言」はそのまま「言う」「言葉」という意味があり、また「誓い」という意味もあります。言質はこのような意味を持つ「言」と「質」が語源となっています。
言質の類語・言い換え表現
「言質」には「言葉質」以外にも多くの類語があります。いくつかご紹介します。
「証言」は「ある事実を証明する言葉」「証明するための事実を述べること」という意味です。
例文: 先方が言う内容との相違について、打ち合わせに同席していたあなたが証言してください
「確約」は、「確かな約束」を意味します。「後日、証拠となる約束の言葉」を意味する言質の言い換えに、ふさわしい言葉と言えるでしょう。
例文: クライアントが見積金額に了承したという確約を得た
「供述」は裁判でよく使われ、「裁判官や検察官に対して事実を述べること」という意味です。
例文: 被告が事件についての供述を始めたようだ
言質の英語表現
日本語特有の言い回しである言質ですが、英語ではどのように表現するのでしょうか。
欧米には「言質」とまったく同じ概念はない
欧米は基本的に契約文化が根付いているので、口約束のような「言質を取る」という考え方がそもそもありません。そのため言質を取ることを英語で表現すると、「約束を取り付ける」「契約を取る」などになります。
「言質を取る」の英語類似表現は
「make someone promise」「negotiating」
となります。「make someone promise」は、「約束させる」という意味です。「someone」の部分に、約束させる人の名前や代名詞が入ります。
例文: I made her promise to get an exclusive contract with us.
彼女に私たちと独占契約を結ぶことを約束させた(言質をとった)
「negotiating」は「交渉」を意味する単語で、ビジネスでは「交渉をする」を意味する「negotiate」の名詞形です。このnegotiatingも「言質を取る」の英語類似表現として使われます。
例文: My boss is negotiating for a next contract.
上司は次の契約のために交渉中だ(言質を取っている)
英語ではこのように「言質を取る」に類似した表現ができますが、基本的に欧米で口約束は意味がありません。サインがなければ契約が成立しませんので、注意しましょう。
「言質」を使いこなしてビジネスに役立てよう!
言質は「証拠となる約束の言葉」を意味し、交渉を有利に進めるために証拠として残しておくものです。言質の意味や性質そのものを理解することはもちろんですが、言質を取る必要があるようなシーンでは相手の対応も慎重になり、なかなか言質を取れない可能性もあります。
言質について理解できたら、普段から言質を取る方法について意識するといいでしょう。