2020年の米Microsoftは他社と同様に、コロナ禍の影響を大きく受けた。最初のアクションは米国時間2020年3月2日の公式ブログだ。Microsoft China, DirectorのLily Zheng氏は中国・上海に在住しており、新型コロナウイルスとの接触を最小限に抑え、オンラインへの移行をうながすリモートワークの有用性を強調した。2020年3月には矢継ぎ早に以下を発信している。
3月4日:在宅勤務する従業員同士のコミュニケーションを支援するために、Power PlatformテンプレートやPower Apps用サンプルテンプレートの提供を発表。
- 3月11日:Microsoft for Educationによる遠隔授業支援を表明
- 3月12日:Microsoft CVP, SCI Business DevelopmentのAnn Johnson氏がセキュリティガイダンスを発表
- 3月12日:Microsoft CVP, Microsoft 365のJared Spataro氏がリモートワークで注意すべき9つのポイントを発表
- 3月24日:Microsoft CEOのSatya Nadella氏もLinkedInでコロナ禍に対する意思表明
たった半月でこれだけの動きを見せたのは、当時の米国でコロナ禍の被害が甚大であったことを考えても、他のIT企業と比べて俊敏な対応と評価できる。
2020年10月には、Microsoft、LinkedIn、GitHubの3社が共同で、231カ国および地域の1,000万人を対象に、スキル習得を支援する「Global Skill Initiative」を発表。アフターコロナを見据えた施策である。なお、日本マイクロソフトも12月15日に国内版の「Global Skills Initiative Japan」の提供を開始した。
また、Surfaceシリーズを除いたハードウェア面では、米国時間2020年11月17日に発表した「Plutonプロセッサー」と、グローバルサプライチェーンの課題について言及が興味深い。
Plutonについては拙著『次のPC買い換えはPluton搭載CPUが鍵か - 阿久津良和のWindows Weekly Reportを参照いただきたいが、グローバルサプライチェーンに関しては、製造部品の開発や製造工程における不正や、反社会的な行動を選択しないというMicrosoftの確約だ。新疆ウイグル自治区の労働者が、ITデバイスの部品組み立てラインで強制労働を強いられているという一部報道を受けての表明なのだろう。Microsoftは「サプライヤーが自社の調達慣行に当社の基準を組み込むことを要求し、当社のサプライヤー行動規範は、あらゆる形態の刑務所労働を含む強制労働を禁止している」と述べている。
欧米のIT企業はサステナビリティ(持続可能性)に敏感だが、米国時間2020年1月16日には、温室効果ガス排出量を2030年まで半減し、2050年までにゼロを目指す「カーボンネガティブ」を表明した。企業活動による温室効果ガスの排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」よりも、Microsoftはその上を目指すとしている。
米国時間7月21日には進捗状況を発表し、他社とともに排出削減と経済的成功を目指す「Transform to Net Zero」を設立。温室効果ガス排出量を測定する「Microsoft Sustainability Calculator」プレビュー版の提供を開始した。
温室効果ガスの排出量は電力消費とも密接な関わりがある。そして、我々の生活やビジネスを支えるクラウド(データセンター)は、大量の電力を使う。ビジネスの根幹を支えるクラウドを縮小したのでは、Microsoftも身動きが取れない。そこでMicrosoftは、データセンターを研究する一環として、2018年から水中にデータセンターを沈めるNatickプロジェクトを実施してきた。データセンターが消費する電力の約半分は、機器を冷却するための空調が占めるといわれており、陸上と比べて水中は冷却しやすい(消費電力を減らせる)。しかも、Natickプロジェクトの電力は、太陽光や風力といったクリーンエネルギー技術で供給されている。
米国時間2020年9月14日に進捗を公開し、「水中データセンターのサーバーは陸上のサーバーよりも8倍の信頼性を持つ」(Microsoft Special Projects, Ben Cutler氏)とした。水中データセンターは窒素で満たされ、高い信頼性の理由としてMicrosoftは、「窒素は酸素より腐食性が低い」「水中には機器にぶつかったりする人間がいない」などを仮説として挙げている。
さらに米国時間7月27日には、データセンターの電力をディーゼル燃料から水素燃料電池に置き換え、48時間の連続稼働を実証した。公式ブログによれば、「Microsoftが排出する全炭素の1%未満でAzureデータセンターに限定」(Microsoft CTO, Digital Transformation Services, John Roach氏)という全体から見ればわずかではあるものの、よりよい燃料で稼働するメリットはすぐに理解できる。
2021年のMicrosoftは、どのような隠し球で驚かせてくれるだろうか。「データ時代」を踏まえ、Microsoftは2020年冬にデータ分析基盤のAzure Synapse Analyticsや、統合型データガバナンスサービスのAzure Purviewをプレビュー版として提供するなど、データ活用基盤を着々と強化している。この現状と過去の施策に鑑みて、Nadella氏がCEOに就任してからの方針「クラウドファースト、モバイルファースト」、2017年に打ち出した「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」に揺るぎは見えない。