「Xシリーズのミドルレンジモデルは新しいフェーズに入った」――今回のレビューで富士フイルムの「X-S10」を手にする度にそう思う。ちなみに、ここでいうミドルレンジとは「X-T30」「X-E3」などが存在するクラスのこと。操作部材の仕様と操作性が従来のそれらとは異なっているのである。
Xシリーズ伝統の操作系を一新したX-S10
これまでのXシリーズは、トップカバーの右肩にシャッターダイヤルと露出補正ダイヤルが鎮座し、設定状態が直視できるようそれぞれのダイヤルにはシャッター速度と補正量が刻まれていた。しかしながら、X-S10ではシャッターダイヤルは廃止され、露出補正ダイヤルの役割はリアコマンドダイヤルが担う。一般に、撮影モードは絞り優先AEを用いる比率が多いと聞くので、現実的にはシャッターダイヤルは不要に思えるし、露出補正ダイヤルについてはカメラを覗きながら操作することの多いミラーレスの場合、その目盛りはなくてもよい。何より、シャッター速度も露出の補正量もファインダーなりライブビューに表示されるので、不要だと言えば不要なのである。シャッターダイヤルと露出補正ダイヤルの廃止は、アナログ表示の好きな写真愛好家にとって残念に思うところだが、ある意味現実に即した実用性を重視する判断だといえるだろう。
シャッターダイヤルのあった部分には、撮影モードを選択するモードダイヤルが備わる。トップカバー左肩には、デフォルトではフィルムシミュレーションの機能が割り当てられているファンクションダイヤルが置かれる。同ダイヤルは回転させるだけで設定状態の確認と設定が可能で、快適な操作が楽しめる。
フロントコマンドダイヤルおよびリアコマンドダイヤルのプッシュ機能を廃止したことも注目したい部分。私は、これまで幾度かレビューなどで指摘したことがあるのだが、両ダイヤルともプッシュ機能を搭載したがためにダイヤル操作の際、剛性感に欠ける部分があったのである。特に、リアダイヤルについてはボディからダイヤル側面がわずかに出たものとしていたため、より一層使いづらく、とても好ましいとは言い難い操作感であった。プッシュ機能がなくなったX-S10では、どちらの操作も確実に行うことが可能で、特にトップカバーに置かれたリアコマンドダイヤルの操作感は一新され、きわめて使いやすくなったと述べてよい。
操作性で大きく意見が分かれそうなのが、搭載の見送られたフォーカスモード切替レバーと、バリアングル液晶モニターの採用だ。
X-S10では、フォーカスモードの切り替えはメニューの設定項目のひとつとなった。これまでフォーカスモードの切り替えはカメラ正面右側にあるレバーによって臨機応変、直感的で素早く行えていただけに、私個人としては省略はきわめて残念に思えてならない。「X-T4」をはじめとする“X-T一桁シリーズ”は露出補正ダイヤルが何らかの拍子に動いてしまうことがあるので、あえて操作しづらい位置に配置したと摩訶不思議な話を同社の開発担当者から以前聞いたことがあるが、今回のフォーカスモード切替レバーの省略もそのような理由であれば誠に残念だ。
バリアングルモニターは、動画撮影を楽しむユーザーや自撮りの多いVloggerのようなユーザーにはウエルカムだろう。ミラーレス全般の流れでも、チルト式よりもバリアングル式が次第に勢力を伸ばしつつあるので、その流れに乗ったものといえる。ただし、静止画メインのユーザーのなかには、液晶モニターの向きを上下させたいときなど、光軸から大きくディスプレイの中心位置が離れてしまうため使いにくく思うこともありそうだ。液晶モニターは3インチ104万ドットとなる。
シャッターボタンなどの操作感については、私の知る限り「X-T30」や「X-E3」とは大きく変わらない。シャッター音は若干甲高い感じである。EVFでの実像とのタイムラグはこのクラスとしてはきわめて小さく、激しく動きまわる被写体のようなものでない限り、不足を感じることはなさそうだ。
上位モデルのみの装備だったボディ内手ぶれ補正機構を搭載
操作感とは直接的な関係はないが、センサーシフト方式の手ブレ補正機構の搭載もX-S10の注目点のひとつ。これまで「X-H1」や「X-T4」などの上位モデルには搭載されていたが、このクラスとしては初めての搭載となる。コンパクトに仕上がったボディによく収まったと感心させられる。角度ブレ/シフト/回転ブレの5軸補正に対応し、補正段数は最大6段。Xシリーズ用の交換レンズは、魅力的な単焦点レンズが多くラインナップされているが、そのほとんどがレンズシフト方式の手ブレ補正機構を非搭載とするため、X-S10のボディ内蔵の手ブレ補正機構の搭載は実にありがたく思えるし、何より撮影の可能性が格段に広がる。露出的に無茶な条件の撮影もためらうことなくシャッターボタンを押すことができるのである。もちろん、マウントアダプターを介してオールドレンズを使った撮影などの際は、焦点距離を入力することで手ブレ補正機構は対応する。
キーデバイスに関しては、操作部材などと異なりほかのモデルとの違いはない。イメージセンサーおよび画像処理エンジンは「X-Pro3」や「X-T4」と同じ有効2610万画素「X-Trans CMOS 4センサー」と「X-Processor 4」となる。センサーサイズはいうまでもなくAPS-Cだ。もともと富士フイルムのXシリーズは、トップエンドとミドルレンジのキーデバイスは共通としてきた経緯があり、本モデルも例外ではない。フィルムシミュレーションによる絵づくりなどに関していえば、トップエンドモデルと何ら変わらないので、ある意味コスパは高いと考えてよい。もちろん、フィルムシミュレーションによる豊かな階調と多彩な仕上がりはライバルを凌ぐもので、Xシリーズのみならず同社デジタルカメラのアイデンティティと述べてよいものである。設定ISO感度は常用でISO160~12800、拡張でISO80相当からISO51200相当までを可能としている。AFも上位モデルと同等の性能としており、こちらも通常使うにはAFスピードなど至らない部分はない。
EVFは0.39型236万ドット。上位モデルの採用する0.5型369万ドットにくらべ数字的には劣るものの、実際使用した印象としては特別不足を感じるようなことはない。カメラとして本格的な作りだなと思わせるのが、フレームレートを上げより滑らかな動きの表示とする機能を備えていること。バッテリーの持続時間は低下するものの、動いている被写体の撮影などではシャッターチャンスを見逃すようなことがノーマル状態よりも少なくなるはずだ。
Xシリーズ定番の仕上がり設定機能フィルムシミュレーションや、より印象的な仕上がりの得られるフィルター機能、4K/30Pでの撮影が可能な動画機能なども搭載され、満足度の高いカメラに仕上がっている。ビギナーが購入して腕が上がってきても、さらにベテランユーザーのサブ機としてもオールマイティに活躍する1台だ。