東京2020パラリンピック競技大会では、22競技539種目の開催が予定されている。本連載では、イラストを交えながら各競技の見どころとルールをご紹介。今回は「5人制サッカー」にフォーカスする。
競技概要
5人制サッカーは別名「ブラインドサッカー」としても知られる、視覚障がいのある選手を対象とするサッカー。1チームは4人のフィールドプレーヤーとゴールキーパーで構成される。ゴールキーパーは晴眼(視覚障がいの無い選手)、または弱視の選手が務めるが、フィールドプレーヤーは視覚障がいのある選手でなければならない。
フィールドプレーヤーは個々の見え方による有利不利をなくすため、アイマスク(目隠し)着用の義務があり、視覚を遮断した状態でプレーする。チームにはFPの目の代わりとなる「ガイド」と呼ばれるメンバーがいて、相手ゴールの裏に立ち、ゴールまでの距離や角度などの情報を声や音で伝える役割を担う。
ボールは中に鉛が仕込まれた特製のボールで、転がると「シャカシャカ」と音が鳴る。選手はボールの音やガイドの声などを頼りにプレーするが、想像以上に激しく、スピーディーなプレーに驚かされる。
周囲の音声に耳を傾ける選手を妨げないよう、観客にはプレー中、静寂が求められる。ただし、得点が決まったときは大きな歓声で選手を称える。このメリハリある観戦スタイルも、5人制サッカーの醍醐味だ。
華麗で迫力あるプレーと緊張感 仲間とのコミュニケーションや信頼感がカギ
5人制サッカーは国際ブラインドスポーツ連盟(IBSA) が統括し、ルールは国際サッカー連盟(FIFA)のフットサルをもとに、視覚障がいのある選手がプレーできるよう一部がアレンジされている。
例えば、ピッチは40メートル×20メートルのフットサルコートを使うが、サイドライン上には選手やボールが飛び出さないよう、高さ1メートルほどのフェンスを立てる。フェンスはまた、選手が触って自分の位置を知る目安にしたり、ボールを意図的に蹴ってバウンドさせ、その跳ね返りを利用してパスしたりする目的でも使われる。
人間は外界から情報の約80パーセントは視覚から得ているとされるが、視覚を遮断した状態でプレーするFPのために情報を補う工夫もさまざまある。例えば、ボールを持った相手に向かっていくときは衝突を避けるため、守備側が「ボイ」と声をかけるルールがあり、違反するとファウルになる。
また、フィールドプレーヤーに情報を与える役割は味方チームの3名が担う。ゴール裏から「8メートル、45度、シュート」のように、ゴールの位置などを伝えるガイド、主に守備に関する情報を与えるゴールキーパー、そして、監督(コーチ)がサイドフェンスの外からピッチ中盤の選手に指示を出す。それぞれ声をかけられる範囲が決まっており、範囲外の選手に声をかけるとファウルになる。
試合中にファウルを犯すと、相手チームにペナルティキック(PK)が与えられるのだが、5人制サッカーでは2種類のPKがある。1つは、ペナルティエリア内でファウルがあった場合の「PK」で、ゴールから6メートルの位置にキッカーが立ち、ゴールキーパーと1対1でシュートを行う。もう1つ、「第2PK」と呼ばれるPKがある。前半と後半それぞれで、チームの累積ファウル数6つ目から相手チームに与えられ、キックは1つ目の「PK」よりも遠い、8メートルの位置から行う。
5人制サッカーの見どころはアイマスクを着けた選手が視覚以外の感覚を駆使してプレーする点だ。ボールの音からは位置だけでなく、転がり方やスピードなども把握するし、チームメートとの声かけによるコミュニケーションも重要なカギとなる。また、足先の感覚を駆使したドリブルは華麗で、相手の息遣いや仲間の声を頼りに守備の隙間を見つけ、巧みに抜いていく動きは圧巻だ。試合は想像以上に目まぐるしく展開し、最後まで気を抜けない緊張感がピッチを覆う。