病気で医療機関にかかったり、介護が必要になったりすると、多額のお金がかかる場合や働けずに収入が減る場合があります。そこで国は一定の基準を定め、経済的な負担を大きくしすぎないための様々な制度を設けています。今回は病気・ケガ・介護に伴うお金に関し、「払いすぎを防止する制度」「税金が還付される制度」「収入保障をする制度」の3つに分け、それぞれどんな制度があるか紹介します。
医療費や介護費の払いすぎを防止する制度
公的医療保険や公的介護保険では、家計負担が重くならないよう、医療費や介護費用のひと月(1日~月末)当たりの自己負担限度額が定められています。
・高額療養費制度
医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が、自己負担限度額を超えたときに還付してくれるのが「高額療養費制度」です。自己負担額は年齢および所得金額に応じて決められています。
例えば69歳以下の人の場合の自己負担限度額は、
・年収が約370万円までの人 : 5万7,600円
・年収が約370万円~約770万円の人 : 8万100円+(医療費-26万7,000円)×1%
申請先は、国民健康保険加入者は自治体の担当窓口、健康保険加入者は加入している保険者(健康保険組合や協会けんぽ)となります。
なお、事後に還付請求する高額療養費制度に替えて、事前に「限度額適用認定証」を申請する方法もあります。認定証を医療機関での会計時に提示すれば自己負担限度額までの金額を支払えばよくなります。認定証の申請も高額療養費の請求先と同様です。
ただし、健康保険の対象とならない医療費は高額療養費制度の対象とならず、還付されません。
・高額介護サービス費制度
医療費の場合と同様に、公的介護保険の自己負担限度額を超えた場合、その超えた部分を還付してくれるのが「高額介護サービス費制度」です。
自己負担限度額は世帯単位で所得に応じて決められています。例えば、
・世帯の誰かが市区町村民税課税されている : 4万4,400円(世帯当たり)
・世帯の全員が市区町村民税課税されていない : 2万4,600円(世帯当たり)
高額介護サービス費の対象となる場合には自治体から通知がありますが、自動的には還付されず自分で申請することが必要です。
・訪問看護療養費
医療機関で療養するのではなく、自宅で継続して療養を受ける状態にある人が、かかりつけの医師の指示に基づき、訪問看護ステーションの訪問看護などから療養上の世話や必要な補助を受けた場合に利用できるのが「訪問看護療養費制度」です。
医療機関窓口での支払いと同様に、かかった費用の3割(年齢等に応じて変動)を自己負担すればよく、残りの7割は「訪問看護療養費」として(国民)健康保険が負担します。加入している健康保険によっては別途付加給付(医療費助成)を受けられる場合があります。国民健康保険加入者は自治体の担当窓口、健康保険加入者は加入している保険者(健康保険組合や協会けんぽ)に確認してみましょう。
税金が還付される制度
暦年の1年間に支払った医療費等の金額が一定金額を超える場合、確定申告をすることで所得税が還付されます。
・医療費控除
医療費控除は所得控除のひとつで、次の計算式で算出された金額をその年の所得から控除することができます。もしも算出額がゼロあるいはマイナスになれば対象となりません。
その年に支払った医療費合計額-高額療養費や給付金などの受け取った金額-10万円
なお、その年の総所得金額等が200万円未満の人は、上記式の10万円の部分が「総所得金額等×5%」となります。
「支払った医療費」は医療機関等で支払った医療費以外にも、治療を目的としたものであれば、薬局等で購入した市販の医薬品代金、通院や入院のための交通費、公共交通機関での移動が困難なためのタクシー代、不妊治療、虫歯治療の費用なども対象になります。
また、確定申告をする本人だけでなく、生計を一にする家族のために支払った治療目的の医療費も合わせることができます。
・セルフメディケーション税制
「治療目的」の医療費支出が対象となる医療費控除に対して、予防目的の支出をした場合に利用できるのが「セルフメディケーション税制」です。
OTC医薬品という、厚生労働省指定の市販薬の購入額が年間合計で1万2,000円を超えたとき、その超えた部分の金額(8万8,000円限度)を所得から控除することができます。
OTC医薬品には、風邪薬、頭痛薬、咳止め薬、目薬、軟膏、貼り薬、健康ドリンク等、様々な医薬品があります。なお、定期健康診断、特定健康診査、予防接種、がん検診などを受けていることが条件です。
病気やケガ、介護による収入減に対する保障制度
会社員が病気やケガで働けずに会社を休み、給料が出ないときに健康保険からお金を貰える傷病手当金については知っている人も多いかもしれません。そのほかにも、病気やケガまたは家族の介護で収入が減る場合の保障制度があります。
・障害年金
公的年金加入者が病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになり、障害の状態や年金納付状況などの要件を満たす場合に受け取ることができるのが「障害年金」です。障害の原因となった病気やケガで初めて医師の診療を受けたとき(初診日)に加入していた年金制度により受給できる年金が決まります。
・国民年金の場合 : 障害基礎年金
・厚生年金の場合 : 障害基礎年金と障害厚生年金
障害年金の金額は、どちらの年金であるか、また障害等級によって異なります。
・障害基礎年金 : 2級の額は78万1,700円(令和2年度の金額)、1級の額は2級の1.25倍
・障害厚生年金 : 標準報酬月額、標準賞与額、厚生年金加入期間によって計算され、1級の額は2級の1.25倍、3級は最低保障額58万6,300円
また、子どもや配偶者がいる場合には加算される場合もあります。
障害年金は、原則として初診日から1年6カ月経過後の障害認定日において、障害年金を受給する程度の障害状態にあるかどうかを判定されて初めて請求できるようになります。状態によっては1年6カ月を待たずに申請できる場合もあります。詳しくは、国民年金加入者は自治体の担当窓口、厚生年金加入者は最寄りの年金事務所に確認してみましょう。
・介護休業給付
家族の介護に従事するために仕事を休んだ場合、休んだ日数に対する給料の約67%が雇用保険から支給されるのが「介護休業給付」です。ただし、休業中に会社から給与が支払われる場合には受給できません。
また、介護の対象となる家族が「2週間以上にわたり常時介護を必要とする」ということも要件のひとつですが、実際に休業するのは2週間に満たなくても構いません。申請は事業主経由でハローワークにて行いますが、従業員本人が直接申請することも可能です。まずは勤務先の担当者に確認してみましょう。
これらの助成・補助制度は知っているか、知らないかで経済的な負担が変わります。今回紹介した医療・介護における支援制度を活用し、家計負担を和らげられるといいですね。