「慮る」という言葉をご存じでしょうか。普段の生活の中よりも、ビジネスの場面で使われる機会が多い言葉ですが、これまでにメールなどの文章で目にしたり、会議で聞いたりして「どういう意味だろう」と思った人もいるのではないでしょうか。
「慮る」は、社会人として覚えておくべき言葉であり、仕事上の書類作成や取引先とのコミュニケーションのやり取りにおいて必要になってきます。この記事では「慮る」について解説します。
「慮る」の読み方
「慮る」は「おもんぱか・る」というのが正しい読み方です。辞書によっては「おもんばか・る」も載っているため、こちらも間違いとは言えませんが、「おもんぱか・る」で覚えておいた方がいいでしょう。
なお、「慮」の訓読みは「おもんぱか・る」のみで、音読みは「リョ」です。
「慮る」の意味
「慮る」は、「周囲の状況などをよく考慮する」「思い巡らす」という意味を持っています。相手の境遇や状態、または感情などに思いを巡らせ、配慮するといった意味で用いられるケースが多いです。
「慮る」の語源
「慮」は形声文字です。部首の「心」と、音符である「盧」の略体で構成されています。音符が表すのは「くるりと巡らす」という意味で、部首の「心」と合わさって、「思いを巡らす」を表すようになりました。
「おもんぱかる」は、もともと「おもいはかる」という言葉でした。相手の気持ちを考える(=おもい)、そして推測する(=はかる)という意味から転じて「おもんはかる」「おもんばかる」と変わっていき、現在の「おもんぱかる」になったと考えられています。
「慮る」の使い方・例文
以下では「慮る」の正しい使い方をご紹介します。円滑なコミュニケーションのために、よく使われる表現は身につけておきましょう。
「慮る」は、特に仕事で作成するメールなどの文章で役に立ちます。使い方を把握すると、明日からの仕事に活かすことが可能になるでしょう。
「相手を慮れる人は、信用される」
「社会人として、相手を慮れる人間になりたい」
「他人を慮れる人と結婚したいです」
「退院したばかりの彼の体調を慮って、仕事量を調節する」
「彼女の心情を慮って、今はそっとしておく」
「先方の現状を慮って、支援を申し出た」
「周囲との輪を慮るあまり、自分の意見が言えなくなり息苦しい」
「思いやりは大切だが、慮るあまりの消極性は受け入れられない」
といった例文があげられます。
「慮る」の類語
ビジネスに限らず、文章を作成する場合は、語彙のひとつの表現を知っているだけではそれ以上の広がりは得られません。
文章の作成では、類語の知識を持つことで、より状況に合う適切な言葉を選べるようになります。以下では「思いやる」「推し量る」「忖度」という3つの「慮る」の類語について解説します。
「思いやる」
「思いやる」の代表的な意味は2つあります。
まず1つ目は、「相手の心情や境遇を想像し、同情する」というものです。例えば、「台風で被災した方々の現在の生活を思いやる」「相手を思いやれる子どもになってほしいという願いを込めて名前をつけた」のように使います。
2つ目の意味は、「距離的・時間的に遠くに存在する人や物事を思う」ということです。「しばらく会っていない故郷の祖父母を思いやる」という例文での使い方が、この意味に当たります。
「推し量る」
「推し量る(おしはかる)」とは、経験した事柄の中から似た事柄を当てはめて、見当をつけることを意味します。簡単に言うと「Aという出来事から、Bを導き出す」ということです。
「一度にすべてを失った彼の気持ちを推し量ることは難しい」「彼女の表情から推し量ると、今話しかけない方がいいだろう」といったように、相手の気持ちを汲んだり、状況を考慮にする際によく用いられる使い方です。
「忖度」
「忖度」も、相手の気持ちを想像するという意味です。もともとは「お客様の意向を忖度して、あらかじめ準備しておく」といったように、マイナスのイメージを持たない使い方もされていましたが、現在では、特定の誰かに対して気に入られようとするような使い方が目立つようになりました。
「メディアは政権の意向を忖度するべきではない」「上層部は社長の考え方を忖度してばかりいる」などというのが、最近の使用例です。
「慮る」の対義語
「慮る」は、特に「相手の都合や状況を考えに入れて配慮する」といった文脈でよく使われます。では、逆に相手の気持ちや都合を考慮せず、思いやりのない態度で接することを何というのでしょうか。
ここからは「慮る」の対義語をご紹介します。
「独善」
「独善(どくぜん)」は、相手の都合を考えられない、または気持ちを想像することなしに行動する場合に使われる表現です。
「周りが甘やかされていると、独善に陥りやすい」といったように、「独善」単独でも使えますが、「独善的」という言い回しもよく使われています。
「父は独善的で、家族の意見に耳を傾けない」「独善的な仕事の仕方ではなく、双方が納得できるやり方を模索するべきだ」といった使い方が例としてあります。
「無神経」
「無神経」には2つの意味があります。
1つ目は「感じ方が鈍いこと、鈍感」という意味です。「細かいことにこだわらないのは美点にもなりうるが、無神経と言われることもある」という使い方になります。
もう1つの意味は「他人の気持ちを考慮しないこと」という意味で、これが「慮る」の対義語です。
例文としては
「無神経な他人の言葉に傷ついた」
「恋人がいるのに誘うなんて、無神経と言われても仕方がない」
といったものがあげられます。
「身勝手」
「身勝手」は「わがまま」に似た言葉です。他人の都合や気持ちを考えず、自分の思った通りに振る舞うことを指します。
「身勝手な理由で仕事を放り出すわけにはいかない」「ワンマン社長の身勝手な言動に振り回される」「身勝手に判断するのではなく、周囲の状況を勘案するべきだ」といったように使われます。
「慮る」の英語表現
「慮る」は日本語的表現と言えるでしょう。日本人のコミュニケーションでは、言葉にしなくても察するということが重視されます。
それに対して、英語を使ったコミュニケーションでは、言いたいことははっきり言うべきとされているため、「慮る」と全く同じ意味の英語表現はありません。
では、英語で「慮る」と言いたい際にはどのような表現を使えばいいのかをご紹介します。
「consider」の意味や使い方
「consider」はいくつかの意味を持つ言葉ですが、「慮る」と同じように、「~を考慮に入れる」「相手の気持ちや状況を汲み取る」という意味でも用いられます。
「Please consider her situation」は、「彼女の立場を慮ってください」という意味の文です。
「take into account」の意味や使い方とは
「take into account」も、「慮る」の英語表現として使われています。
「take A into account」または「take into account A」で、「Aについて考慮する」という意味を表します。
「We have to take into account the fact she has a chronic disease」は、「私たちは、彼女には持病があることを慮らなければならない」という意味を表す英文です。
「慮る」の意味や使い方を理解しよう
本記事では、「慮る」について見てきました。正しい読み方は「おもんぱか・る」、意味は「思い巡らす」ですが、相手の気持ちや立場を考慮するという意味でよく用いられる語彙です。
普段の会話で使う機会は多くありませんが、社会人としては知っておきたい言葉と言えます。言葉をたくさん覚えておけば、いざというときにその場に相応しい言葉遣いが可能になります。
たくさんの言葉の意味や使い方を身につけておきましょう。