「他人事」という言葉は誤った読み方が浸透している言葉ですが、それには経緯があります。
本記事では「他人事」の正しい読み方や意味はもちろん、由来や、新聞・NHKでの使われ方について解説します。使い方や例文、類語、対義語、英語もまとめました。
他人事とは? 読み方と意味を解説
他人事(ひとごと)とは、「自分には関係のないこと」「自分には無関係な人、他人に関すること」という意味を持つ言葉です。自分にとって利害関係のない人や場所で起こった出来事のことを「他人事」と表現します。
自分には関係がなく、興味や関心を持たないという態度や意味が込められています。
ひとごと? たにんごと? 他人事の正しい読み方
正しい他人事の読み方は、「ひとごと」です。
しかし現在、「たにんごと」という誤った読み方も広く浸透していますよね。なぜ「たにんごと」という誤った読み方が生まれたのか、その理由には、戦前もともと「他人事(ひとごと)」という言葉の漢字が「人事」であったことにあるとされています。
「人事(じんじ)」という言葉との区別をハッキリとつけるために、もともと「人事(ひとごと)」としていた漢字表記を「他人事(ひとごと)」と改めました。
しかし「他人」は「たにん」と読むのが一般的なので、「他人事(たにんごと)」という誤った読み方が広がったと言われています。
現在ニュースやテレビなどでは必ず正しい読み方である「ひとごと」と読むように定められています。
他人事の由来・生まれた理由 - 「ひとごと」の本来の漢字は「人事」
先ほども触れましたが、他人事(ひとごと)という言葉はもともと「人事(ひとごと)」と書かれていました。他人と書いて「ひと」と読むこと自体は江戸時代の後期から歴史があるようです。
「ひとごと」について、「人事(じんじ)」との区別をつけ混乱を避けるために「他人事(ひとごと)」と書き方を改めたところ、皮肉なことに今度は「他人事(たにんごと)」と誤読してしまうという事象が起きてしまいました。
新聞やNHKでの「ひとごと」の現在の表記は「人ごと」「ひとごと」「ひと事」
前述の経緯もあり「他人事(ひとごと)」という表記は紛らわしいため、新聞やNHKでは「他人事」という表記自体を用いるのを避けているようです。
共同通信社が出版している『記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集』には以下のように記載があります。
ひとごと (他人事、人事)→人ごと・ひとごと(ではない)
[注]「他人事=たにんごと」は使わない。
共同通信社ではこのように、「ひとごと」を表したいときは「他人事」と記載せずに、「人ごと」「ひとごと」と表記するように定めているのです。
またNHK放送文化研究所のWebサイトで2005年12月12日に公開されたページ(https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/152.html)を見ると、以下のように記載があります。
まず、「他人事」「たにんごと」という表記(書き方)と言い方・読み方は、どちらも放送では原則として用いないことにしています。「自分に関係ないこと」などを意味する場合の伝統的な言い方は「ひとごと(人事)」[ヒトゴト]とされ、放送でもこの語法を採っています。表記は、「ひと事」または「ひとごと」です。 ×「他人事」「たにんごと」
NHKではこのように、「ひとごと」を表したいときは「他人事」と記載せずに、「ひと事」「ひとごと」と表記するようにしているのです。
私たちもこれに倣って、「ひとごと」を表したいときは「人ごと」「ひとごと」「ひと事」と表記すると、混乱を避けることができそうですね。
他人事の類語や対義語
次に、他人事の類語や対義語について確認していきましょう。類語や対義語を学ぶことで、他人事の言葉の意味を深く理解し、別の言葉で言い換えることもできるようになります。
他人事の類語
他人事の類語としては、「他所事(よそごと)」や「無関係」「無縁」などが挙げられます。同じような意味でよく使われる表現としては、「知らん顔」や「素知らぬ顔」「とぼけた様子」「悪びれず」などがあります。
ビジネスシーンだけではなく、日常生活でもよく使われている表現ですよね。他人事という言葉はこれらのようにさまざまな言葉で言い換えることができます。
他人事と近い意味の四字熟語やことわざ
他人事に近い意味の、無関心という意味の四字熟語として「空空寂寂(くうくうじゃくじゃく)」という四字熟語があります。何事にもとらわれず、無心な様子を意味し、思慮や分別がない様子を表しています。
また、他人事に似た意味のことわざでは「対岸の火事」という言葉があります。こちらは一般的にもよく使われる言葉なので、イメージがしやすいかもしれません。川を挟んで向こう岸の火事のことは、自分にとっては関係のないことという意味があります。無関心で、少し冷たい印象を受ける言葉です。
他人事の対義語
他人事の対義語にはどのようなものがあるでしょうか。よく使われるものとしては、「我が事」や「自分事」「私事」などがあります。
他人事の反対の意味なので、自分に関係のあることや、自分に関する物事についてこれらの言葉が使われます。
他人事の使い方と例文
他人事の正しい意味や読み方、また類語や対義語を学んだところで、次は正しく他人事という言葉を使いこなしてみましょう。
ここからは他人事という言葉を使った例文や、他人事と自分事の違いについてご紹介します。
他人事の例文
- 例のトラブルについて、彼は他人事のような顔をしていた。
- 他人事なんだから、放っておいてよ。
- 他人事だと思っていたら、自分にも後々降りかかってくるよ。
他人事と自分事の違い
それではビジネスにおける他人事と自分事の違いとはいったい何でしょうか。例えば仕事で何かトラブルやミスがあった際に、他人事と捉えるか、自分事として捉えることができるかで成長の度合いが変化するとよくいわれます。
他人事として物事を捉える人は、自分には関係のないこととして出来事に対し深く考えたり、学ぼうとしたりすることはありません。一方で何事も自分事として捉えられる人は、今後自分も同じような状況や立場に立ったときにどのように対処すればいいのか、他人の経験をもとに自分の知識として蓄え、生かすことができます。
言い換えると、自分事とは「当事者意識」ということもできます。自分で考え、責任を持って対応する力を身につけるためにも当事者意識は大切です。
他人事を英語で表現すると
他人事を英語で直訳すると、「somebody else's problem」や「someone else's business 」といった言葉が当てはまります。自分ではない他の誰かの問題や、仕事、出来事という意味合いが込められています。
- That's none of my business.
私には関係がないこと。 - We shouldn't think as someone else's problem.
私たちは問題を他人事と捉えるべきでない。
他人事を「たにんごと」と読むのは間違い
他人事という言葉は、「たにんごと」という誤った読み方が浸透していますが、正しくは「ひとごと」と読みます。
ただ他人事は使われるようになった経緯もあり紛らわしいので、新聞やNHKでは「他人事」の表記自体を使わず、「ひとごと」を表現したいときは「人ごと」「ひとごと」「ひと事」と表記するようになっています。
なおビジネスにおける「他人事」の意識は、成長という観点ではマイナスに働くことがあります。常に物事を自分事として捉える積極性や、責任感を大切にしましょう。