「琴線に触れる」とはどのような意味の言葉なのでしょうか。実は文化庁によって行われた「国語に関する世論調査」では、約3割の人が間違った意味で使用していると明らかになっています。正しく使えるよう、「琴線に触れる」の意味や由来、例文、類語などを見ていきましょう。

  • 琴線に触れるとは

    「琴線に触れる」の持つ意味や正しい使い方を紹介します

琴線に触れるの意味と読み方とは

まずは琴線に触れるの基本的な意味を見ていきましょう。

琴線に触れるの意味

「琴線に触れる」とは、深く感銘を受け、感動した様子を伝える言葉です。そもそも琴線とは、日本の伝統的な弦楽器「琴」に張られた線(弦)のこと。心が刺激されて感動することを、琴の弦が音を出すときに震える様子に例えて「琴線に触れる」と表現します。

感動するようなすてきなものに出会ったとき、その感動のあまりつい言葉を失ってしまったり、「良かった」「感動した」としか言えなかったりしてもどかしく感じることはありませんか?

そのようなときに「琴線に触れるような経験だった」と言うと、自分の心に響くような体験だったと伝えることができます。

琴線に触れるの読み方は「きんせんにふれる」

琴線に触れるは、「きんせんにふれる」と読みます。「琴」は訓読みでは「こと」ですが、今回は「鉄琴(てっきん)」や「木琴(もっきん)」と同じく音読みで「きん」と読みます。

  • 琴線に触れるの意味

    自分の心の奥に一本の線があることをイメージするとわかりやすいでしょう

琴線に触れるの誤用表現が多いのはなぜ?

文化庁の調査によると、「琴線に触れる」という言葉を約3割の人が間違って使用しているといいます。これは一体なぜなのでしょうか。その理由や、どのような言葉と間違われやすいのかご紹介します。

文化庁の調査では約3割が「琴線に触れる」の意味を間違って覚えている

平成27年度に行われた「国語に関する世論調査」で「琴線に触れる」の意味についての問題が出ました。その結果が次のようになっています。

  • (ア) : 怒りを買ってしまうこと…31.2%
  • (イ) : 感動や共鳴を与えること…38.8%
  • (ウ) : (ア)と(イ)の両方…3.4%
  • (エ) : (ア)や(イ)とは全く別の意味…4.8%
  • わからない…21.8%

先述の通り、「琴線に触れる」は物事に対して深い感銘を受けるという意味なので(イ)が正解となります。(ア)の怒りを買ってしまうというのは間違った使い方なのですが、この答えを選んだ人が全体の31.2%と多くいるようです。

正しい意味である(イ)を選んだ人は38.8%なので、(ア)を選んだ人よりは多いものの、過半数には遠く及びませんでした。また、「わからない」と答えた人が21.8% 、つまり5人に1人は琴線に触れるという意味がわからなかったということになります。

文化が変わるにつれ言葉の意味が変わったり、使われることがなくなったりするという変化は避けることはできません。しかし、心の機微を楽器で例えた非常に美しい言葉なので、このまま言葉の意味を知らない人が増えていくのはなんだか残念な気がします。

琴線に触れるは「怒り」や「悲しみ」に対しては使えない

前述のように、多くの人が琴線に触れるを誰かを怒らせてしまったときに使うと勘違いしているようです。琴線に触れるはあくまで感動したときに使う言葉なので、怒りや悲しみなどといったマイナスイメージで使われることはありません。

逆鱗に触れる、癪に障るなどとの混同に注意

では、なぜ琴線に触れるが「怒り」の言葉だと勘違いしてしまうのでしょうか。それは「~に触れる」、また「~にさわる」という怒りの言葉と、「琴線に触れる」とを混同してしまうのが原因だと考えられるかもしれません。

誰かを怒らせてしまったときに使う、「逆鱗に触れる(げきりんにふれる)」や「癪に障る(しゃくにさわる)」という言葉があります。

逆鱗とは竜の鱗(うろこ)の中で一枚だけ逆さに生えているもののことです。この逆鱗に触れると竜が怒って触った人を殺してしまうという中国の故事から転じ、目上の人を思わぬ言葉などで怒らせてしまうことを「逆鱗に触れる」というようになりました。

また、「癪に障る」という言葉も「琴線に触れる」と混同してしまいがちです。癪に障るの「癪」とは本来腹痛などを意味する言葉でした。子どもがちょっとしたことで怒ったり、泣き叫んだりする「癇癪(かんしゃく)」の「癪」でもありますね。「癪に障る」とは「気に入らないことがあってカチンとくる、腹が立つ」という意味の言葉です。なお、同じ「さわる」という読みでも「癪に触る」とは表記しないので注意しましょう。「障る」は「差し支える、妨げとなる」という意味です。

「癪に障る」と似た意味で「気に障る(きにさわる)」という言葉もあり、こちらは嫌な気持ちにさせることを指します。また「癇に障る(かんにさわる)」は気に入らなく腹立たしい、という意味です。

このように「~に触れる」「~に障る(さわる)」という言葉は怒りなどネガティブな感情に対して使われることがあるため、「琴線に触れる」も同じようなものだと覚えてしまいがちなようです。しかし「琴線に触れる」はマイナスの意味で使われることはありません。怒りに対して琴線を使うと、現在は「誤用」となってしまうので気をつけましょう。

  • 琴線に触れるのよくある間違い

    怒りに対して「琴線に触れる」を使うのは間違いです

琴線に触れるの正しい使い方と例文

例文を参考に、琴線に触れるの正しい使い方のイメージをつかみましょう。前述のように、物事に対して深い感銘、感動を受けたことを表現する際に用います。

  • 彼女の言葉が琴線に触れ、私は感動の涙を流した
  • 短い時間だったが、それは私にとって琴線に触れる体験だった
  • この本は彼の心の琴線に触れたようだ

琴線に触れるの由来・語源

琴線に触れるの由来・語源とされるものには諸説あります。

一つは、まさに琴の比喩からきているという説です。触れると琴の線は震えます。これを心の奥に線があり、感動するとその心の線が震えるという様子に例えたというものです。

もう一つは、中国の周の故事からきているという説です。伯牙(はくが)は琴の名人で、親友の鍾子期(しょうしき)は伯牙の奏でる音色を聞いただけで歌の意味を理解し、心から感銘したという話から、琴線に触れるという言葉ができたとされるものです。

琴線に触れるの類語・言い換え表現

琴線に触れるは「感動する」「感銘を受ける」という意味なので、それ以外にも感動して心の奥が動くという

  • 心が震える
  • 心に響く
  • 心を打つ
  • 胸を打つ
  • 胸を揺さぶられる

なども同じように使うことができるでしょう。

感動を表現する言葉をより多く知っておけば、何か良いものを人に紹介するときや自分の感想を伝えたいというときに役立ちます。

琴線に触れるの対義語

感動を伝えるための言葉は多くありますが、感動しなかったことをわざわざ伝えるということはなかなかないため、「琴線に触れる」とずばり正反対の意味を持った言葉を探すのは難しいようです。

しいていえば、琴線に触れるの反対の意味は、感動せず心が動かない様子や共鳴しない様子、さらに言うと嫌悪感を表す言葉となるでしょう。そのため「無関心」、また「ばかばかしい」「ひんしゅくを買う(意味 : 良識に反する言動で人から嫌われること)」などが対義語として挙げられるといえます。

琴線に触れるの英語表現

琴線に触れるを英語でいうと「touch the heartstrings」となります。「heart」は心、「strings」は線という意味です。バイオリンやチェロなどの弦楽器隊のことを「ストリングス」と呼ぶこともありますね。

つまり、英語でも琴線に触れるは「心(heart)にある線(strings)に触れる(touch)」と表現していることがわかります。国は違えど「感動」に対して同じ表現の仕方をしているのは面白いですね。

実際に文章の中で用いるときは、以下のようになります。

  • The novels touched the strings of me.
    その小説は私の琴線に触れた。
  • 琴線の類義語・対義語・英語表現とは

    あなたは「琴線に触れる」ような経験をしたことはありますか?

誤用に気を付けて、「琴線に触れる」を正しく使いこなしましょう

何かを見て自分の心の奥が震えるように感動する様子を琴の弦に例えた「琴線に触れる」。自分が感動する気持ちを誰かに伝えるために使える美しい日本語表現の一つです。

しかし、「逆鱗に触れる」「癪に障る」などという言葉が怒りに使われることが多いため、琴線に触れるも怒りの言葉だと混同されてしまう場合も多いようです。琴の澄んだ響きを想像すればわかるように、琴線に触れるという言葉にマイナスの意味はありません。

言葉の成り立ちや表現したいことから本来の意味を学び、会話の中でも正しく使えるようになりましょう。