メンズコスメ・スキンケアがいまアツい。その人気はコロナ禍のテレワークによってより加速している。なかでも強い存在感を放っているのが資生堂の「uno(ウーノ)」だ。この人気の背景について、同ブランドのアシスタントブランドマネージャー、林詩遥子さんに話を伺った。
unoの現在の位置づけとブランド戦略
2016年に資生堂へ入社し、「MACHERIE (マシェリ)」や「TSUBAKI (ツバキ)」などの商品開発を経験したのち、「uno (ウーノ)」を担当。2020年からアシスタントブランドマネージャーとして活躍している林詩遥子さん。現在は国内外のブランド戦略に携わっており、各プロジェクトを統括し中長期のビジネスを考える立場にある。
学生時代は文学部でマーケティングは学んでいなかったそうだが、デザイナーとともにモノ作りをすることに興味を持ち、インハウスデザイナーが働く資生堂を志望したという。
林さんが担当しているunoは1992年に誕生しており、男性向けヘアスタイリングのブランドというイメージが強いだろう。だが2018年ごろからスキンケア市場に注目し始め、現在は「肌は大人の勝負服」というキャッチコピーをもとに展開されている。
「肌に自信を持つことで印象を変えて、社会で活躍するような素敵な男性を増やしていきたい、そんな男性を応援していきたい。そんな思いでブランドイメージを転換しました。いまは男性用スキンケア/メイクブランドとして認識され始めてきたかな、という感じです」
── unoのブランドイメージを転換したのはなぜですか?
近年、お隣の韓国や中国で男性の美容意識が非常に高くなっており、男性用の美容グッズが市場にあふれている状態になっていました。一方、日本では男性用の美容グッズがとても少なく、もともとスキンケア製品を使っている人は多くなかったんです。
ですが我々は、今後絶対日本でも男性の美容意識が高まるハズと考え、男性用スキンケア市場に足を踏み入れました。当時は男性用スキンケアの市場データも十分にない状態で、賭けではあったと思います。
──unoのメイク商品のユーザー層とは?
約6割が10~30代のお客様で、実は残りの4割以上が40代以上のお客様に使っていただいています。unoが誕生した1992年から使ってくださるユーザーの方はもう40代、幅広い年代の方に受け入れられています。昨今では「カッコいいビジネスマンを増やしたい」というビジョンを打ち出し、プロモーションでも、竹野内豊さんと窪田正孝さんという幅広い年代にリーチできる方を起用しています。
話題のフェースケア、BBクリーム誕生の秘密
──スキンケア/メイクブランドとしてのunoの原点とは?
2016年9月に最初に発売した「クリームパーフェクション」は、1つで肌のテカリもカサつきもケアできる、unoで初めてのオールインワンジェルクリームです。まず、男性の「面倒くさい」という一番のバリアをはがそうと思ったんです。
こちらはスキンケア未使用者からかなり好評をいただきまして、多くのユーザーを獲得できました。unoは2017年の段階で市場6位(※1)のブランドだったのですが、徐々に人気が上がってきて、10~30代における売り上げナンバーワンを達成したとき、支持を受けていると実感しました。ここから男性用スキンケア市場が一気に伸びていったと思います。
(※1:インテージSRI 男性フェースケア市場 金額シェア 2017年1月)
──話題の男性用BBクリームの販売戦略について教えてください
「フェイスクリエイター」という、肌のお悩みをカバーするこちらのBB (Blemish Balm)クリームは、テスト販売からスタートしました。当時、男性向けのBBクリームは市場にほとんど流通しておらず、新規性の高い商品でした。
ですが、ぶっちゃけでお話しすると賛否両論だったんです(笑)。「お客様が買うイメージが出来ない」みたいなことを言われることも多い一方、逆に「新しいからぜひ取り組みたい」と言ってくださる方もいらっしゃいました。
そこで、取り組みに賛同いただけるお取引先さまにご協力いただいて、まず店頭でプロモーションを行ったところ、品切れ寸前の大ヒットを記録したんです。これを受け、都市部の若年層にアピールできるよう在庫を調整しつつ全国展開を行いました。
──男性用製品と女性用製品の違いとは?
基本的な部分では同じなのですが、男性は皮脂の量が女性よりも多く、肌がテカったりする悩みが多いんです。半面、潤いがなくてかさつきが気になる方も多いようです。
そういった男性特有の悩みに応えられるよう、スキンケア製品の多くにはオイルコントロールができるパウダーを配合しています。潤いながらも皮脂を吸着でき、スッキリべたつかない使用感を実現しました。肌悩みに合わせて使い分けられる3種類を展開しています。
メイク製品では、色に注目しました。例えば2019年に発売したBBクリームは、最初に手に出すと白いのですが、伸ばすと肌色が出てくるんです。これは、従来のBBクリームのような肌色のクリームを塗ることに抵抗感のあるお客さまが多かったためです。また「いつまで塗り伸ばしたら良いかわからない」という人が多くて、「色が変われば馴染ませOK」というサインにしました。
リップクリーム「オールインワンリップクリエイター」もそうですね。繰り出したときはグレーなのですが、唇につけると薄いピンクになり、カサつきや縦ジワ、血色の悪さをカバーしてくれます。塗っても紙コップにつかないことも特徴で、これを紹介してくださったツイートは約13万件もリツイートされました。
アイブロウ「バランスクリエイター」は、顔の印象をトータルデザインできる商品として展開しています。当社のヘアメイクアップアーティストは「顔の印象を決めるのは肌と眉」と言っており、少し形を整えるだけで印象を大きく変えることができます。男性が書きやすいように潤い成分を足し、眉を書く墨の部分を涙型にして書きやすくしています。
外観のデザインも、みなさんがいつも使っているノートPCなどに近づけました。日常生活の中に男性用スキンケア/メイク製品を溶け込ませたかったんです。キラキラしたカワイイ感じだと「ぜっったいにムリ!!」と言われてしまうので(笑)、男性特有のバリアを払拭できるように、すべての製品でいろいろと工夫しています。
実は、男性用製品はコロナ過でも売り上げがあまり減少していないんです。エイジングケア(※2)のできるフェースケア製品「バイタルクリームパーフェクション」は、2020年7月に発売以来累計100万個を出荷し、日本における男性スキンケア市場シェアNo.1(※3)を達成しました。テレワークでのWeb会議で顔が大映しになるので、気にされている方が増えたのかもしれませんね。
(※2:エイジングケアとは、年齢に応じたうるおいケアのこと)
(※3:インテージ SRI 男性フェースケア市場 2019年8月-2020年7月 SKU別 金額シェア)
uno (ウーノ)が目指すブランドイメージ
──日本で男性の美容意識が高まっている理由とは?
各社がプロモーションを努力している面がやはり大きいと思います。男性もスキンケアやメイクをしているよという事実を世の中に広めると、「周りがやってるなら自分もやってみようかな」と安心して始められる方が多いように感じました。
私どもも男性向けセミナーの様子をお見せして、実際に体験もしてもらうというイベントを全国的に展開していますし、その様子をメディアに掲載していただく活動も地道に続けています。まだまだ「女性のやることじゃないか」とおっしゃられる方も多いのですが、周りが始めることが押しになっているところはあると思いますね。
また、男性が生き方として憧れるようなキーオピニオンリーダーを起用して紹介してもらう、といったこともやっています。男性はSNSで化粧品の情報を見ないイメージでしたが、ネット上で商品は検索するようで、多くの反応をいただいています。
──今後、unoはどのようなブランドを目指していくのでしょうか?
「肌は大人の勝負服」というブランドイメージは大切にしていきたいと思っています。私たちは長年プロモーションを続けてきましたが、やっといま市場に受け入れられてきたという感覚があります。
スキンケア製品の利用率もちょうど3割くらいまでじわじわと上がってきましたが、まだまだぜんぜん伸びしろがあると思っています。肌を整えることの大切さや実感、気づきといったものをみなさんに与えていけたらいいなと思っています。
──最後に、林さんの仕事の流儀についてお聞かせください
単純なことですが「お客様のリアルな声を聴く」ことでしょうか。「お客様の"したいけどできないこと"を払しょくできることを実現する」ことにチャンスが眠っていると考えていて、そういった製品を作ることでお客様のニーズを満たせるのかなと思います。