「恐縮」とは、厚意を受けた場合や申し訳ないと思う場面、相手にお願いするときなどに使われる言葉です。ビジネスシーンでも使う機会は多いため、どのような意味合いがあり、どのような使い方をするのかを正しく理解したいものです。
本記事では「恐縮」の意味や由来、シーンごとの使い方や注意点を解説します。類語や英語表現もまとめました。
恐縮の意味と読み方、由来とは
まずは恐縮の基本的な意味や読み方などを見ていきましょう。
恐縮の意味は相手の厚意や、こちらが迷惑をかけたことを申し訳なく思うこと
「恐縮」とは「恐れて身がすくむ」「相手に申し訳なく思うことやその様子」「謙遜する気持ち」などの意味を持つ言葉です。ビジネスの場では、主にメールや手紙などの書き言葉で使われることが多いです。
恐縮の読み方は「きょうしゅく」
恐縮は「きょうしゅく」と読みます。「恐」は訓読みで「おそ(れる)」「おそ(ろしい)」「こわ(い)」などとも読みますが、この場合は「恐怖(きょうふ)」「恐悦(きょうえつ)」などと同様に「きょう」と読みます。
また「縮」は訓読みでは「ちぢ(む)」とも読みますが、「縮小(しゅくしょう)」や「萎縮(いしゅく)」と同様に、この場合の読み方は「しゅく」です。
恐縮の由来
恐れやかしこまるなどという意味の「恐」と、身がすくむ、ちぢこまる、かしこまるといった様子を表す「縮」という漢字が合わさって、相手に対し恐れ、かしこまるという意味となりました。
ビジネスシーンにおける恐縮の使い方と例文
「恐縮」は使い方によって意味合いが少しずつ異なる特徴があります。正しく使えていないと相手に間違って伝わったり、悪い印象を与えたりしてしまう可能性がありますので、使い方と例文をシーン別に見ていきましょう。
感謝やお礼の気持ちを伝えるとき
「恐縮」には申し訳ないという意味がありますが、感謝やお礼の気持ちを伝えるときにも使われます。意味はありがとうございますと同様です。
例文としては、「心温まるお心遣いに恐縮でございます」「本日はお忙しい中足をお運びいただきまして、恐縮です」などがあります。また、相手に迷惑をかけてしまった際、「大丈夫ですよ」と気遣ってもらえた場合に「恐縮です」と感謝を伝えることも可能です。
断りなどの了承を求めるとき
ビジネスシーンでは、断らなければならない場面もあるでしょう。取引先や商談相手にきっぱりと断ることも大切ですが、「恐縮」を使うことによって、円滑に印象良く断ることが可能です。
例文としては、「せっかくご提案をいただいたなか恐縮ではございますが、今回は見送らせていただきます」「恐縮ですが、対応しかねます」などがあります。断りの了承を求めることで、相手に柔らかな印象を与えやすくなるでしょう。
申し訳ない気持ちを伝えた上で、お願いや承諾を得たいとき
「恐縮」を使って相手に頼みごとをする際、「お忙しいところ恐縮ですが、今週中にご返信いただきますようお願いいたします」といった使い方ができます。
また、「恐縮」は相手の承諾を促すときにも使用できます。例文としては、「メールでのご連絡となり恐縮ですが、どうぞご了承くださいませ」などがあります。どちらの使い方もできるようにしましょう。
褒められた際などに感謝や謙遜を強調したいとき
ビジネスシーンでは、褒められたときなどに「恐縮です」と一言返すことで感謝を伝えられます。相手に謙虚な印象を与えやすい表現でしょう。
例えば、取引先から提案内容を褒められた場合に「お褒めにあずかり恐縮です」のように返答します。
恐縮をビジネスシーンで使う際の注意点
ビジネスシーンで「恐縮」を使う際に不自然になったり、相手に過剰な印象を与えたりするような、失礼に当たる使い方は避ける必要があります。ビジネスシーンにおいて「恐縮」を使用する際の注意点を把握しておきましょう。
主に書き言葉のため、話す際には「恐れ入ります」に言い換え
「恐縮」という言葉は主に書き言葉として使われるため、話し言葉では言い換えるといいでしょう。「恐縮です」とそのまま話し言葉で使用すると、相手に堅苦しい印象を与える可能性があります。
話し言葉における言い換え表現としてよく使われるのは、「恐れ入ります」です。伝わる意味はそのままに、柔らかい印象付けが可能です。
多用は厳禁
会話や文章内で繰り返し同じ言葉を使うとわざとらしさが出てしまい、相手に失礼な印象を与える可能性があります。後述するように、「恐縮」には類語がいくつかありますので、意味合いや使い方を考えた上で、類語をバリエーション豊かに使い分けるといいでしょう。
「恐縮に存じます」は間違った使い方
「存じます」は「思う」の謙譲表現や「考える」の謙譲表現にあたります。そのため「恐縮に存じます」とは、「ありがたく思う・申し訳なく思う+思っています」という二重表現となります。つまり、「恐縮に存じます」は間違った使い方です。
なお自分を謙遜しながらも相手に感謝や謝辞を伝えることが目的ですから、「恐縮です」「恐縮でございます」のように使うといいでしょう。
恐縮の類語表現と使い方
繰り返し使うことを避けるため、感謝を伝えるときや断りを入れるときなど、それぞれの意味合い別に恐縮の類語表現を知っておくと便利です。類語表現に置き替えることで、表現の幅が広がる可能性があります。
感謝の気持ちを伝えたいとき
感謝を伝えたいときは、「誠にありがとうございます」「もったいないお言葉です」などの類語表現を使って置き換えが可能です。「恐縮です」ではかしこまりすぎると感じる場合も、これらの類語表現が活用できます。
ビジネスシーンでは「本日はご多用のところお時間をいただき、誠にありがとうございます」といった使い方ができるでしょう。
お断りを入れたいとき
断りを入れる際の「恐縮」は、申し訳ない気持ちを少しへりくだった言い方にしたものです。代用できる類義表現は、「誠に残念ですが」「せっかくですが」などが適切でしょう。
他にも、「誠に不本意ではありますが」や「私には荷が重すぎます」など、シーンによって使える言葉も覚えておくのがおすすめです。「誠に残念ですが、今回は見送らせていただきます」といった使い方があります。
お願いしたいとき
お願いするときの「恐縮」は、「お手数をおかけします」「申し訳ございません」などと置き換えることが可能です。「お手数おかけしますが、よろしくお願い申し上げます」といった使用例が挙げられます。
その他にもへりくだった表現として、「痛み入ります」「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが」「誠に勝手なお願いではございますが」、「ご多用のところ恐れ入りますが」などがあります。
褒められたとき
相手に褒められて感謝の気持ちを伝えたいときには、「身に余る」「もったいないお言葉でございます」などの表現に置き換えられます。
例文としては、「身に余る光栄で、感謝を伝えたい」などがあります。どの類語表現も自分を謙遜した言い方であるため、謙虚な姿勢を表せるでしょう。
「恐縮です」の派生語
ビジネスで使われる「恐縮です」「恐縮ですが」には派生した言葉がいくつか存在します。中には、社会人になって初めて出会うなじみのない言葉もあるため、意味の違いや使い方を知っておく必要があります。「恐縮」との違いをしっかり覚えておきましょう。
「痛み入ります」
感謝を伝えるための「恐縮です」は、「痛み入ります」に置き換えられます。「痛み入ります」はより強い表現であり、主に目上の方に対して使います。
また、「痛み入ります」は、「(相手からの厚意を受けて)心が痛むほど感謝している」という意味を持つため、お願いや謝罪などの場合には他の言葉に言い換える必要があります。
「光栄です」
褒められたときに使う「恐縮です」は、「光栄です」に近い意味を持ちますが、少しニュアンスが異なります。自分をへりくだる「恐縮です」に比べて、「光栄です」は目上の方や年上の方に使うのはあまりふさわしくありません。
シーンによって使い分ける際は、「光栄でございます」などの丁寧な言い回しを使うようにしましょう。
「僭越ながら」
結婚式の挨拶やスピーチで耳にする「僭越(せんえつ)ながら」は、身の程をわきまえず失礼ですがという意味合いを持つ謙遜した言葉です。「恐縮ですが」と似ていますが、少しニュアンスが違います。
ビジネスシーンでは、「僭越ながら、その提案には賛同しかねます」、「僭越ではございますが、その件は私が対応させていただいています」など、自分の立場を超えて申し訳ない気持ちを表す場合に使います。
ただし、「僭越ながら」はあまり使い勝手のいい言葉ではありません。ビジネスシーンでは、「恐縮ですが」、「失礼ながら」という言葉を使う方が無難でしょう。
恐縮を強調する表現
自分より目上の方や年上の方などに対して使用する、「恐縮」をさらに強調した表現があります。それらの言葉を紹介するとともに、ビジネスシーンでの用い方を、例で示して解説します。
恐縮至極
本来の「恐縮」の意味に、さらにこの上ないさまを加えた「恐縮至極(きょうしゅくしごく)」は、強調表現と言えます。恐縮至極は大変かしこまった尊敬語や謙譲語と共に使われることが多い表現です。「至極」とは、この上ないことや、もうこれ以上はないさまを意味します。
ビジネスシーンでは、お願いや謝罪をする際に、「身に余るお言葉をいただき、恐縮至極に存じます」「この度の不手際の責任は単に私にございます。いかなる処分も恐縮至極に拝受したく存じます」のように使います。
しかし、強調する表現は多用すると印象が薄れる可能性があります。あまり頻繁に使うべき表現ではないでしょう。
恐縮の限り
「限り」は、限界まできているさまを意味します。「恐縮」が限界、限度いっぱいまできている様子を想像すると、この表現を使うシーンが目に浮かぶでしょう。
ビジネスシーンでは、「私のためにこのようなありがたい機会を設けていただき、恐縮の限りです」や「私共の不手際でお手を煩わせてしまい、恐縮の限りです」といった使い方をします。
甚だ恐縮
「甚(はなは)だ」とは「普通の程度を越えているさま」「大変」「とても」といった意味を持つ言葉です。「甚だ恐縮」とは、大変恐縮しているという強調表現になります。強調の程度は、「至極」や「限り」を使った強調表現に比べて低くなるでしょう。
ビジネスシーンでは、「甚だ恐縮ではございますが、今回は参加できません」のように使います。
恐縮の極み・恐縮の至り
「恐縮至極」と同じ意味合いを持つ強調表現として「恐縮の極み」「恐縮の至り」があります。この2つの言葉は、お願いや謝罪のビジネスシーンにおいて、「恐縮至極」と同じように使うことが可能です。
しかし、「恐縮の極み」も「恐縮の至り」も多用するのは失礼に当たるため、適切な場面や使用頻度を考えて使いましょう。
恐縮の英語表現
日本語の「恐縮」は意味や使い方が複数ありますが、英語の場合も文脈によって表現が変化します。「恐縮」の英語表現は、会話の流れなどによって変化するだけではなく、違う言い回しも存在します。
「恐縮」の英語表現について、意味合い別に例文を挙げて解説します。
感謝の気持ちを伝える場合の英語表現
英語で「恐縮」に匹敵するような深い感謝を伝える場合は以下のような表現ができます。
I feel obliged to ~
Especially thanks for ~
I'm very thankful for ~
英語には尊敬や謙譲語がありませんが、丁寧に述べたり程度を表現したりする言葉はあるため、状況に合わせて組み合わせて使いましょう。
依頼するときや断る場合の英語表現
依頼するときや断るときの「恐縮」には、申し訳ないという気持ちが含まれています。英語の場合、「sorry」「We are so sorry about ~」などの表現が近いでしょう。また、「please」を付け加えることで、さらに丁寧な表現となる場合もあります。
その他にも、謝罪の意味合いが強いときには、「We apologize for the delay」など、直接的に謝罪表現を使う方法もあります。
「恐縮です」「恐縮ですが」など、恐縮の使い方と意味を理解しマスターしよう
「恐縮」には複数の意味があるため、ビジネスシーンで使用する際は、正しい使い方を理解することが大切です。形としては「恐縮です」「恐縮ですが」などの言い回しで使われることが多いでしょう。
場面に応じ「恐縮」を使った表現を有効活用して、ビジネスを円滑に進めましょう。