1年に1度、社会情勢などをふまえて実施される税制改正。今回発表された2021年度の税制改正大綱は、コロナ禍で経済が落ち込むなか、住宅ローン減税や自動車減税といった負担軽減策が並びました。これによりわたしたちの暮らしにどう影響があるのでしょうか。個人向けの変更点のなかでとくにわたしたちの暮らしに身近な変更ポイントをピックアップして紹介していきます。
住まいに関するトピック
【住宅ローン減税】おトクな特例は延長に!
10年間にわたって、毎年末の住宅ローン残高の1%を所得税や住民税から差し引く(控除)仕組みの住宅ローン減税。消費増税対策として、この控除期間を13年間に拡充して減税額を増やす特例を設けていましたが、現在は2020年末までの入居が条件となっています(新型コロナウイルスの影響で工事や入居が遅れた場合は2021年末まで)。今回の改正では、この入居期限を2年間延長し2022年末までの入居を特例の対象としています
ただし、特例を受ける条件には契約期限もあり、
・新築注文住宅・・・2021年9月末 ・マンションや中古住宅・・・2021年11月末
までに契約を結ぶことが条件となっています。
また、これに合わせて床面積の要件も緩和されます。現在は「50㎡以上」が特例の対象ですが、「40㎡以上」に広がります。ただし、注意点として「40㎡以上50㎡未満」の物件については、所得制限が通常の「合計所得年間3000万円以下」より厳しい「合計所得年間1000万円以下」の人に絞られます。
住宅ローン減税の改正、とくに特例の延長は、マイホームを購入しようか悩んでいる人にとっては、背中を押してもらえるような情報です。床面積の要件緩和も、単身者など少人数世帯がコンパクトなマンションを購入する場合など、「床面積があと少し足りなかった……」というケースでも住宅ローン減税を受けられる可能性が高まることでしょう。
【すまい給付金】ローン減税の延長に合わせてすまい給付金も延長
今回の税制改正で住宅ローン減税特例が延長されることに伴い、「すまい給付金」の適用期間も延長されるようです。
すまい給付金は、所得額が少なく所得税減税である住宅ローン減税では十分な減税の恩恵を受けられない所得層を対象に10万円~50万円の現金を給付する制度。給付対象となるのは収入(目安)が775万円以下の人で収入が低いほど給付額は高くなります。
すまい給付金の適用期限は、2021年12月末までの入居が条件となっていますが、税制改正で住宅ローン減税特例が延長されることに合わせて、2022年12月末となります。
また、前述のとおり、延長された住宅ローン減税特例について、年収1000万円以下を条件に、床面積要件が緩和(従来の「50㎡以上」から「40㎡以上」となる)されますが、この床面積要件の緩和により新たに生まれる住宅ローン減税対象者も、すまい給付金の対象となります。
【固定資産税】土地所有者の増税が見送りに
土地の固定資産税は、3年ごとに評価額が見直されますが、2021年度からの土地の評価額は2020年1月1日現在の公示地価をもとに決まります。2020年1月というと、コロナ禍以前のタイミングであり、地価は上昇傾向にありました。その後、コロナによる不況が影響し、地価が下がったところが多くなっています。
こうした状況に配慮し、地価の上昇に伴って2020年1月の地価公示に基づく課税額が2020年度を上回る場合、2021年度の税額は据え置き、地価の下落によって課税額が減る場合はそのまま課税額が引き下げられます。住宅地はもちろん、商業地、農地などすべての土地が対象となります。
自動車に関するトピック
【エコカー減税】エコカーの優遇が2年延長される
「エコカー減税」は、自動車重量税の税率を、燃費の優れた車を対象に減免する制度。燃費が良い車ほど多くの優遇を受けられる仕組みです。2021年4月に期限切れを迎える予定でしたが、2年延長が決まり、2023年4月末までとなりました。次世代車の電気自動車やプラグインハイブリット車などは燃費基準にかかわらず2回目の車検まで免税となる特例が引き続き適用されます。
一方で、これまで一律で免税となっていた「クリーンディーゼル車」は、ハイブリット車などと比べて燃費性能が劣るとし、一律の免税対象からは外れます。ただし、クリーンディーゼル車を主力とする自動車メーカーへの配慮から、特例措置を導入。クリーンディーゼル車のうち、現在の燃費基準を達成している車種は、2年間に限り免税を継続し、基準未達成の車種は1年間だけ免税を継続、改めて行う燃費の測定試験で基準を達成できれば、さらにもう1年免税となります。現在、新車販売のおよそ70%がエコカー減税の対象で、そのうちおよそ25%が免税対象となっていますが、今回の見直しのあともこの比率は維持されます。
また、自動車購入時に燃費性能に応じて最大3%課税される「環境性能割」に関しては、税率を1%引き下げる軽減措置の期限が2021年3月末から9カ月間延長し、12月末までとなりました。2つの優遇制度の延長により、購入時と利用にかかる税負担が軽減されることになります。
教育・子育てに関するトピック
【教育資金贈与・結婚資金贈与】贈与の非課税特例が2年延長に
子育ての負担を軽減するため、祖父母からの教育資金の援助に贈与税がかからないようにする特例措置は節税目的での利用を防ぐため、適用条件を厳しくしたうえで期限を2年延長し、2023年3月末まで適用されることになりました。
今回の改正により、節税目的の利用を封じるため、「祖父母から孫へ」など世代を飛ばした贈与で、資金を残して贈り手(祖父母)が死亡した場合には、通常の相続と同様に相続税の2割加算を適用することになります(贈与を受けた孫などが23歳未満や在学中である場合などを除く)。
また、結婚や出産、育児にかかる資金を祖父母などから援助してもらう場合に、1000万円を上限として贈与税を非課税とする特例措置も、同じように条件を厳しくしたうえで期限が2年間延長となります。
【シッター・産後ケア利用】シッター利用助成は非課税に
地方自治体などの子育て支援策としてベビーシッターや認可外保育所などの利用費用を助成する制度がありますが、こうした助成金は、これまでは「雑所得」とみなされて所得税などの課税対象となり、納税額が増える例がありました。今回の見直しで地方自治体などが行う助成については非課税とする方針です。
また、出産後1年未満の母親と乳児を対象とした「産後ケア事業」にかかる消費税も非課税とします。法改正によりこの事業は2021年から自治体の努力義務となり、さらなる利用が見込まれており、税制の面からも利用を促す形になっています。
【児童手当】年収1200万円以上は打ち切りに
また、政府は2021年度税制改正大綱を決定すると同時に、12月15日に「全世代型社会保障改革の方針」の中で、一部世帯の「児童手当」廃止も結締しました。これまで夫婦のうち高い方の年収が960万円以上の世帯は、子ども一人につき月額5000円の特例給付が実施されていました。今回の決定で夫婦の高い方の年収が1200万円以上の場合は、特例給付がされなくなり、児童手当の支給が打ち切られることになります。今後、国会での法案成立後、2022年10月支給分から適用される見込みです。
最後に
税制改正は、一見難しく自分には関係がないことだと思う人も多いかもしれませんが、内容によってはわたしたちの生活に大きな影響を与えるものもあります。
たとえば、今回の改正は、新型コロナウイルスによる経済の落ち込みを受けて、家計への支援が並ぶ減税色の濃い内容になりましたが、負担軽減策の目玉は、住宅ローン減税の特例やエコカー減税の延長でしょう。マイホームやマイカーの購入を考えている人にとっては、購入を後押ししてくれそうなおトクな優遇制度です。
変更点についてきちんと把握しておき、自分たちの暮らしにいかすようにしましょう。