日本発の高級車ブランド「レクサス」にはワゴンがない。比較されがちなメルセデス・ベンツ、BMW、アウディのドイツ御三家(ジャーマンスリー)にはワゴンがあるのに、なぜレクサスにはないのか。前々から気になっていたのだが、レクサスに取材できたので聞いてみた。
昔は目指していたが…
例えば、レクサスのコンパクトFR(後輪駆動)スポーツセダン「IS」は、サイズや価格の面でメルセデス「Cクラス」、BMW「3シリーズ」、アウディ「A4」などと比較されがちなクルマだが、ボディタイプはセダンのみだ。一方、Cクラスにはセダン、ステーションワゴン、クーペ、カブリオレ(オープンカー)とボディタイプが豊富にそろっているし、3シリーズには「ツーリング」、A4には「アバント」というステーションワゴンがある。
ジャーマンスリーと勝負をするなら、ボディのラインアップも相手とそろえた方がよさそうなものだが、なぜそうしないのか。「正直にいって昔は目指していましたが、今は発想を変えたので……」とするのは、Lexus International レクサス車両性能開発 部長の水野陽一さんだ。説明はこう続いた。
「昔は、例えば『LS』を開発するときには『Sクラス』、『IS』を開発するときには『3シリーズ』を横に持ってきて、というようなことをやっていました。LSはS、ISは3を競合にするという“局地戦”です。今もメルセデスやBMWには乗るのですが、それはガチンコの競合というよりも、自分たちの立ち位置が正しいかどうかを相対的に確認するためという感じです」
レクサスとドイツ勢は比べられるので、以前はレクサスとしても、同じフィールドに立ってガチンコ勝負をしたいと考えていたのだが、今は発想を変えたという。目指すのはメルセデスと同じ土俵ではなく、レクサスらしいクルマを作っていくことなので、メルセデスがフルラインアップを展開しているからといって、レクサスがそうする必要はない。そんな考え方のようだ。Lexus International 製品企画 主幹の前澤伸さんも「(ドイツ勢の乗り味を)参考にはしていますが、『レクサスはこれです』といいますか、レクサスの乗り味を作ることに力を注いでいます」とする。
「販売という観点では、競合なのだとは思います」。水野さんも前田さんも、ユーザーがレクサスとドイツ勢を比べがちであることについては当然のことと受け止めている様子だった。ただ、レクサスにはレクサスのやり方があるし、独自の商品性、ブランド価値を磨いていきたいというのが現在の心境のようだ。何かと比べてではなく、「レクサスが欲しい」といってくれる顧客を増やしたいという気持ちなのだろう。レクサス全体で考えれば、ワゴンこそないものの、セダン、SUV(RXやNXなど)、クーペ(LC)、コンパクトカー(CT)など、さまざまなボディタイプを好みに合わせて選ぶことができる。
とはいえ、やっぱり、フルラインアップでのガチンコ勝負も見てみたい。そのあたりについて水野さんは、「どこかの1列には、あってもいいかなとも思いますけどね。例えばISのサイズには、フルラインアップがそろっているとか。今も侃侃諤諤やってますよ(笑)」と話していた。