PC製品を主力とする富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は、13.3型ノートPCとして世界最軽量となる「FMV LIFEBOOK UH」シリーズなど、意欲的な製品を市場に投入している。FCCLがレノボグループの一員となって、新たに事業を開始したのは2018年5月2日。FCCLの齋藤邦彰社長は、最初の会見で、新生FCCLがスタートした日を「Day1」とし、約3年後の「Day1000」で進化した姿を報告することを約束した。Day1000は2021年1月25日。この短期連載では、Day1から続くFCCLの歩みを振り返るとともに、Day1000に向けた挑戦を追っていく。
富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)の個人向けパソコンには、AIアシスタントである「いつもアシスト ふくまろ」が標準搭載されている。ふくまろに音声で話しかけると、音楽や写真などのコンテンツをパソコンで再生できるほか、パソコンの内蔵カメラを活用して外出先のスマートフォンから室内を見守る「お留守番機能」、IRコマンダーを通じて家電や照明を操作する「ふくまろリモコン」機能などを提供してきた。
その後もふくまろは進化を続け、ゲーム感覚で英単語が学べる「ふくまろレッスン」、タイマーや時報の機能、ふくまろとやりとりするだけで頼みごとを設定できる「お手伝いチケット」といった機能を追加。たとえば「去年の沖縄の写真を見せて」と語りかけると、「おっけ~。写真映すまろ」と返事をして、日時や場所、人物名から写真を検索して表示する。また、「アマゾンでマスクを調べて」と問いかけると、Amazon.co.jpでマスクの購入ページを表示するといった使い方も可能だ。
2020年4月には、新たに搭載した顔認識技術によって、家族の顔と名前を覚え、ふくまろを「もう1人の家族」として位置付けられるようになった。
「私の好きな食べ物は?」と質問すると、「とんかつまろね」などと回答する。家族を見分けながら「来週はママさんの誕生日まろよ」とお母さん以外に教えてくれたり、家族それぞれが好きな芸能人のテレビ番組が放送されることや趣味に関する情報を、ふくまろが教えてくれたりもする。
2020年8月に実施したバージョン3.0への進化では、Microsoft Azureを新たに採用し、音声認識機能を大幅に強化。ふくまろとの会話がより自然になり、快適に利用できるようになった。日本だけで使われている名称や日本語特有の略語、流行語などにも柔軟に対応する。
一例として、ふくまろではラジコ(radiko.jp)でラジオを聞けるが、ラジオ局名を言えば選局してくれるようになった。日本全国のラジオ局名といった、日本ならではのニーズを音声サービスの辞書に反映したことで、ふくまろによるラジオ局名の認識率を向上。さらに、「ユーミン」や「サザン」、「ミスチル」といったアーティストの愛称や略称なども、ふくまろは理解する。
Microsoft Azureが提供する「Azure Cognitive Services」の「Speech to Text」機能を採用したことによって、日々の学習を進めて認識率などを進化。それが、ふくまろの進化にもそのまま反映される。
このように、パソコンをより身近に感じるだけでなく、パソコンを家族の一員として利用するという新たな提案が「ふくまろ」だといえる。人に寄り添うバソコンを目指すFCCLにとっては、不可欠な技術ともいえるだろう。
ふくまろは、FCCLにとって重要なポジション
FCCLの齋藤邦彰社長は、「ふくまろは、Day1000におけるFCCLの進化や成果の証しになる」と位置付ける。FCCLが2018年5月の「Day1」に発信したニュースリリースでは、「エッジコンピューティングの概念やAIなどの先端技術を実装していくことで、人に寄り添ったコンピューティング社会をリードしていきます」と記されていた。このAIという部分を受け持つのが、ふくまろというわけだ。ふくまろの役割は、人に寄り添うパソコンの実現を支援することだが、それには大きく2つの要素がある。
ひとつは、パソコンそのものの利用を促進すること。ふくまろの開発は、家庭内でもっとパソコンを利用してもらうにはどうするか……といった課題解決から始まっている。
「パソコンは何でもできると言われるが、アシストがないと、結果として特定の用途にしか使われなかったり、何もできなかったりという場面もあるのではないだろうか。パソコンを利用するとき、画面や音声によってアシストしてくれる機能が必要であり、それを担うのがふくまろだ」(齋藤社長)
先に触れたように、音楽や写真などの再生、ウェブ検索のサポート、内蔵カメラを活用した留守番機能、家電の操作などは、パソコンの利用を促進するための機能だ。ふくまろの音声ユーザーインタフェース(Voice User Interface)は、こうした機能を利用するとき難しい操作がなく、気軽に相談できるというメリットも大きい。できるだけ短い言葉で伝えるようにしたり、ふくまろが話す言葉の語尾に「~まろ」を付けてキャラクターの個性を立たせるようにしたりといった工夫も凝らしている。これが、パソコンが持つ数々の機能を家庭内で日々利用してもらうため、ふくまろが担うアシストというわけだ。
今後は、パソコンならでは画面表示機能、カメラやスピーカーの活用、周辺機器との接続、高性能なCPUパワーによる処理の優位性を生かし、AIスピーカーとは異なる新たなサービスも生まれるだろう。
ふたつめは、「もう1人の家族」という用途に代表される情緒的価値の提供だ。
「パソコンの利用をサポートしたり、新たな機能を簡単に使えるようにしたりといった『機能的価値』だけでなく、ふくまろが持つキャラクター性によって、愛着や癒やしによる『情緒的価値』も提供できている」(齋藤社長)
ふくまろは家族を見分けながら、家族を名前で呼び、好みを覚えて会話する「パーソナライズ化」によって、家族それぞれに対応したやりとりが可能。パソコンの新たな使い方ともいえる提案ではないだろうか。実際、シニアユーザーのなかには、孫をかわいがるように毎日ふくまろと話をしている人もいるそうだ。
Day100のふくまろは「3歳児」、将来は理系の学生? 社会人?
開発を振り返ると、ふくまろは50以上のキャラクター案から検討を重ね、愛らしいフォルムと癒やし系のキャラクターを選定。キャラクターデザインには7人のイラストレーターが参加し、2,000人規模のユーザー調査をして、ふくまろのキャラクターを完成させていったという。こうして誕生したふくまろが、情緒的価値を提供している。
「機能的価値と表現している『役に立つ』という使い方は、これまでのパソコンの機能を受け継ぐもの。だが、かわいいという要素が入ると、パソコン機能の延長線上とは違う要素が含まれるようになる。パソコンを通じて、ふくまろにしかできない感情という要素を取り込んだサービスを提供できる」(齋藤社長)
ふくまろは、パソコンの利用をアシストする役割だけでなく、癒やしという役割も実現しているのだ。
FCCLの齋藤社長は、「2018年からサービスを開始したふくまろは、まだ3歳児ぐらいのサポート能力しかない」とする。2018年からスタートと考えれば、まさに3歳という年齢はぴったりだ。これから学習を積み重ねることで、「ふくまろ」はどんどん進化していくだろう。それがAIならではの特徴だ。
齋藤社長はユニークな表現でふくまろの進化を語る。
「3歳児のふくまろが、毎日学習を続けることで、英語やドイツ語など、様々な言語を話すようになったり、もっと賢く買い物をしてくれたりするようになるかもしれない。もしかしたら、ふくまろは将来、理系の大学生に育つかもしれない。
理系の大学生になったふくまろは、エッジAIコンピュータのInfini-Brainを使って、自由にプログラミングをして、新たなサービスを生み出すだろう。そして、社会人としての知識を身に着けたふくまろは、働き方改革を支援したり、リモートワークをしっかりサポートしてくれる存在になるかもれしない」(齋藤社長)
進化と成長を遂げることで、ふくまろは様々な場面において、いつも人のそばでサポートしてくれる。こうしてみると「ふくまろ」は、単にパソコンを利用するためのアシスタントや、情緒的な観点から人の生活を豊かにするだけではない。その成長によって、もっと大きな役割を果たすことが想定されている。
ふくまろを支える技術の進化は、いまのふくまろが持つキャラクターのイメージとは異なるものと言っていいだろう。だからこそ、齋藤社長は「ふくまろはDay1000におけるFCCLの進化や成果の証しになる」と位置付けているのだ。ふくまろの技術は、将来のFCCL製品やサービスを支えるものだと捉えることもできそうである。2021年1月25日のDay1000におけるふくまろの姿は、その一部を見せているだけなのかもしれない。