新型コロナウイルスの感染拡大が社会の至るところに影響を及ぼす中、好調だった転職市場も例外ではなかった。果たして今年度は、どれほどの影響を受け、来年度はどうなるのか。
転職サービス『doda』の編集長を務める喜多恭子氏が「2020年転職市場」総括を行ったので、紹介したい。
半数以上の企業が中途採用人数に変化なし
喜多氏による発表はまず、コロナ禍における主な出来事の振り返りと、転職市場のベンチマークになる有効求人倍率の分析から始まった。
「2009年10月から右肩上がりだった有効求人倍率は、一時1.6倍を超えていましたが、今回のコロナ禍で急落し、10月には1.04倍になりました。それに伴って、完全失業率も3.1倍と近年にない高水準になっています」。
企業の業績悪化で予想されたこととはいえ、こうして具体的な数字で示されると、転職市場の厳しさがよくわかる。ところが、喜多氏は新型コロナウイルスが中途採用に与えた影響について次のデータを取り上げた。
「5月に実施した企業へのアンケート調査で、2020 年度の採用人数は約30%の企業が『減少した』と回答した一方で、全体の半数以上は『変わらない』と回答しました」。
5月といえば、政府の緊急事態宣言が発令された後になる。中途採用に対する企業のマインドが冷え込んで当然と思えるが、半数以上が姿勢を変えていないことに驚いた。新卒の採用市場が一挙に厳しくなったことと合わせて考えると、企業は即戦力採用へのシフトを強めているのかもしれない。
独自データから見えてきた転職市場の動向
喜多氏は続けて、同社の独自データからも今年度の転職市場の動向を読み解いた。
「業種別の転職求人倍率は、4月の緊急事態宣言以降、全業種で低下しました。ですが、数字を具体的に見ていくと、業種によってバラツキがあることがわかります。特に、IT・通信業界は他の業種と同様に急落しましたが、依然として4倍を超える高い水準を維持しています」。
納得のデータと言うべきか。IT・通信業界は、もともと人手不足が顕著な業界であったのに加え、現在社会のあらゆるところでDX(デジタルトランスフォーメーション)が進行しているほか、巣ごもり消費の増加で品切れになったゲーム機もある。高止まりなのも、当然だろう。
では、一方の当事者である転職希望者の動向はどうなったのか。
「転職の希望者数の前年比を見てみると、6月から『サービス』、『メディア』、『小売・外食』が前年を上回り、その後も高い水準を維持しています」。
これは、コロナ禍の影響で勤めている企業が倒産したり、先行きが不透明になったりしたことを受けたものと言えるだろう。
転職活動における「価値観の変化」を検索キーワードから見る
ユニークなところでは、『doda』の検索キーワード数を2019年と2020年で比較したデータの分析があった。
「上昇率が最も高かったのは、『リモートワーク』で304.1%。次いで多かったのは『副業』で132.4%でした。また、『フルリモートワーク』といった検索キーワードが今年初めて登場したのも特徴的です」。
まさにコロナ禍による世相の変化を如実に物語る結果になったようだ。それに伴って喜多氏は、企業が出稿する求人広告にも変化が現われているという。
「『リモートワーク可』の求人数は、2020年10月に前年同月比で356.7%と大幅に伸長したほか、『副業可』の求人数も144.2%に増えました。しかし、全求人に占める割合では、『リモートワーク可』の求人が+14.4%だったのに対し、『副業可』は+0.6%にとどまりました」。
転職を考える求職者は、リモートワークへより高い価値観を置いているようだ。
ジョブ型雇用に対応したスキルが求められる
最後に、2021年の「はたらく」市場についての予測が発表された。特に、興味を引いたのがリーマンショックと今回のコロナショックとの比較だ。
「リーマンショック時の求人数は、2008年9月から底になるまでの11ケ月間で約50%減少しました。今回は3月からの5ケ月間で底になり、減少は約35%にとどまっています。また、回復傾向になる期間も、リーマンショックでは5年を要したのに、今回は8月以降、回復の兆しが見えています」。
ただ、リーマンショックより傷は浅いとはいえ、油断は許されないようだ。喜多氏がwithコロナ時代における企業側と働く側の課題を次のように指摘した。
「企業としては、リモートワークの定着で、従業員の孤独感など新たなマネジメント課題が生まれています。一方、働く側も企業の『ジョブ型雇用』に対応するため、キャリアにおける『スキルの棚卸し』や『学びなおし』が必要になっています」。
欧米企業との激しい競争が求められるグローバル経済の到来で、年功序列や終身雇用といった日本式経営が終焉を迎えたと言われて久しいが、採用についても新卒中心の『メンバーシップ型雇用』から、より専門性を高めた『ジョブ型雇用』への転換が進むのは間違いない。
自分に何ができるのかをしっかり見極め、さらに高めていくことをビジネスパーソンは求められている。