日々の疲れの癒し方には様々なものがあるけれど、温泉でたっぷりとした湯に浸かるのもそのひとつ。友達や家族とワイワイ楽しむことはもちろん、一人で温泉地を訪ね、じっくりお湯と向き合う「ひとり温泉」という楽しみ方もあります。

今回、国内海外合わせて500の温泉を巡り、書籍『女ひとり温泉をサイコーにする53の方法』を出版した温泉オタク会社員・永井千晴さんに、「ひとり温泉」の魅力とおすすめの温泉を聞きました。

湯を100%楽しむ! ひとり温泉の魅力

「温泉の違い、いまいちよくわからない」「どんな温泉地があるのか、正直よく知らない」方もいらっしゃると思います。温泉は湧いた瞬間から、一分一秒、鮮度が落ちていく"ナマモノ"。鮮度が変われば、におい・色・肌ざわりもがらりと変わります。温泉地によっても、楽しみ方や魅力は様々。(『女ひとり温泉をサイコーにする53の方法』より引用)

「ひとり温泉の魅力のひとつは、湯に集中して楽しめること」と語る永井さん。しかし最初は温泉の違いが全く分からない状態だったそう。温泉ライターとしてレビューを書き続けるうちに湯ごとの個性に気づき、温泉の魅力に取りつかれたと言います。きっかけは、三重・猪倉温泉で「手触りの違いに」気づいたことだそう。

  • 訪れた温泉は500湯、 温泉オタク会社員・永井千晴さん

――強烈な硫黄のにおいや濁り湯といった違いはわかりそうですが、お湯の「手触り」だったんですね。

学生時代、車中泊をしながら全国の日帰り温泉を巡って記事を書く仕事をしていました。東京を出発して箱根や伊豆を回ったあと、三重に入って猪の倉温泉を訪れたとき、触った感じが違ったんです。ヌルヌルっとした感触で。それまで無色透明の温泉や塩分が強い温泉ばかり続いていたのですが、あまりの違いに面白さを感じました。

全国の温泉を巡ったあとは旅行サイト「じゃらん」の編集部で働き、今は温泉と関係のない会社で働いています。でも、こんなに温泉を巡った体験をそのままにしておくのはもったいないなと思い、温泉ソムリエの資格を取って、現在はTwitterやブログで情報を発信しています。

  • 永井さんの温泉への偏愛をまとめたエッセイ『女ひとり温泉をサイコーにする53の方法』(幻冬舎刊・税別1,400円)

――本のタイトルに「ひとり温泉」とありますが、ひとり温泉の魅力とは?

「寂しくない?」と聞かれることもありますが、湯に完全集中できることと、人に気を遣う必要がないラクさがあります。ひとり温泉だと、湯を100%楽しんで、記憶にしっかり残せると感じていますね。もちろん家族や友人とも行きますが、その場合はコミュニケーションを楽しむことを目的にしています。

それから、1週間くらい休みを取ってひたすら山奥の温泉だけ回ったりもするんですが、観光地にもおしゃれなカフェにも寄らない旅行に友人を付き合わせるのも申し訳ないんですよね……。”ヒトカラ(ひとりカラオケ)”みたいに誰かや雰囲気に忖度することなく、自分の思い通りに過ごせる気持ちよさや安心感があります。

――自分のやりたいように計画して、思う存分温泉に入るのはなんとも気持ちよさそうです。温泉以外の時間はどんな楽しみ方をされていますか?

宿泊する場合、夕食は部屋まで食事を持ってきてくれる「部屋食」が付いたプランを選ぶことが多いですね。にぎわっている食事処で寂しさを感じることもないですし、部屋で気楽に食べられます。夜の時間は見たかった動画を見たり、のんびりしています。自宅にいると家事をしないといけなかったり、ちょっとしたやることがありがちですが、「温泉入ってご飯食べてもまだ21時! 自由!」という楽しさがあります。

あなたはどの温泉? 21万いいね&議論を呼んだ温泉チャート

――様々な温泉を巡る永井さんですが、「温泉チャート」がTwitterで話題になりました。

  • 永井さん作「東京から1泊2日で行けるおすすめ温泉チャート」(※クリックで拡大)

このチャートでは大きな反響をもらいました。「私はこの温泉がおすすめ」とか「自分の好きな温泉が結果に入ってない!」といった温泉好きの方のコメントや、引用リツイートで「チャートの結果、この温泉になった!」「ここ誰か一緒に行こうよ」と盛り上がったり、多くの方が楽しんでくれたようです。

――思わず温泉に行きたくなるこのチャート、作る時に重視されたことは?

一番目の選択肢を「電車かバスで行くか」「車で行くか」という質問にしたことです。人に温泉を勧めるとき、最初にこれが決め手になるんです。関東近郊の温泉はどこも公共交通機関で行けそうですが、いざ現地に到着しても車がないと動きにくかったり、逆に熱海のように車で行っても徒歩で回れちゃったり、ズレを感じることがあるんです。

関東は車を所有していない人も多いですし、温泉地はアクセスが悪いところも多いので、行った先で動きにくいという悩みも解消できればと思い作りました。

推し温泉を見つけよう! おすすめ個性派温泉4選

そんな全国各地の温泉を巡る「温泉オタク」永井さん。これからひとり温泉を楽しむ方に、タイプの異なるおすすめの温泉を教えてもらいました。

【蔦温泉(青森)】足元湧出で生まれたてのお湯を満喫!

青森の八甲田山中にある蔦温泉は、お湯はもちろん、ご飯も美味しくてイチオシです! ひとりでも泊まりやすくて、1泊1万円台とリーズナブル。古いけどきれいな宿です。

「足元湧出」というのは、足元から湧いている温泉。私は温泉界の中でも一番良い状態の湯だと思っています。浸かったことがないならぜひ一度は行ってほしいです。生まれたばかりのお湯は、なめらかさや匂い、肌触りが全然違いますよ!

【韮崎旭温泉(山梨)】新鮮な湯がオーバーフロー!!!

山梨の韮崎旭温泉は、住宅街の中にぽつんとある隠れた名湯。私にとって温泉は新鮮さが重要です。湯の投入量が多いと回転率が高くなり、新鮮な状態で楽しめます。浴槽からあふれるくらいにお湯が入ってオーバーフローの状態になるのは、湧出量が多く温泉自体の力もある証拠です。湯が新鮮だと、温泉の個性がわかりやすいんです。

また、ここの湯の特徴は「天然物の炭酸泉」であること。スーパー銭湯によくある人工炭酸泉の比にならないくらい、ぶわ~っと泡が付きます。炭酸泉はぬるいほうが泡が付きやすいのですが、ここは加温しすぎず気持ちよく浸かれるぬるめの温度で設定されているもの好きです。

【塚原温泉(大分)】鉄と酸、ヤバいにおいの個性派温泉

私が初めて「ヤバい温泉」と感じた思い出の温泉が、大分の塚原温泉です。湯布院の近くの温泉で、焼けた岩肌の、そこここから煙が上がる山中に位置しています。ここを紹介してくれた方から「浸かったら、むしろ具合が悪くなるのではと一瞬思うほど」と言われるくらい強烈おなお湯です(もちろん、実際には悪くなりません)。

日本で2番目に強い酸性の湯で、鉄イオンの含有量は日本一。鉄臭くて、お湯をなめるとレモンみたいに酸っぱくて、ささくれがあるだけでめちゃくちゃしみます(笑)。でも、薬湯だなと思える強さがあるお湯です。

【別府温泉(大分)】ビギナーもまずはここから、情緒のある温泉

ビギナーの方にお勧めしたいのが別府。温泉と生活圏が近くて、温泉地なのに大きなショッピングモールがあったりファミレスがあったり、生活の街の中に温泉が溶け込んでいる印象です。他の観光客の方を見て寂しい気分になったりすることもなく、地元の人にまじってここで生活している気分になれるんですよね。

それからご飯も美味しいこともポイントが高いです。。名物料理の「りゅうきゅう」や関さば、とり天、焼酎など美味しいものがいっぱいありますよ。

――最後に、初めてひとり温泉をする方に、アドバイスをお願いします。

「土日に行かない」ことがコツかもしれません。土日はグループやカップルの方が多くて、「あれ? 私一人で寂しい?」と思ってしまうので、ひとり温泉をするなら平日がおすすめです。あとは部屋食ができたりカウンターでご飯を食べられる、おひとり客歓迎の小規模な宿は過ごしやすいです。グループで行くときに選ぶ大型宿よりも、小さな宿を選ぶこともポイントです。


心行くまで湯と向き合い、自分の自由な時間を過ごせるひとり温泉。コロナ禍で思うように動けない状況ではありますが、落ち着いた頃にチャレンジしたら、今までとはまた違った温泉の楽しみ方や推し温泉ができるかもしれません。