任天堂の『あつまれ どうぶつの森』を通じて、子どもたちにSDGsについての理解を深めてもらう――。そんなユニークな特別授業「Special Lessons in ACNH」が12月10日、江東区立第六砂町小学校にて実施された。その狙いは? 関係者に話を聞いた。
海が悲鳴を上げている
5年生の教室で行われた授業では、まず前半に水産学者の北里大学 千葉洋明 准教授が、地球温暖化の影響、および昨今の海洋汚染の実態について説明した。
「地球温暖化の影響により、海の生態系が変化しています。例えば北海道では、暑さのためサケが戻らなくなってきた。また南の海に生息していたフグが北まで上がり、別種のフグと交配することで、新種のフグも生まれています。毒の部位が変わり、料理できなくなる危険性が考えられます」(千葉准教授)。このほか、人間の乱獲によりサンマの漁獲量が減ったこと、そして海洋プラスチック問題についても言及した。
授業の後半には、グループに1つのNintendo Switchが配られた。ゲームの舞台になったのは、あつ森の中に建設された水上都市「The Floating City」だった。監修したのは、2022年に南太平洋のポリネシアに現実のThe Floating Cityを建設予定のブルーフロンティア社。同社では「ゲームを通じて若年層の環境問題への関心を集めつつ、未来について考えてもらうためのコンテンツです」と説明する。
このThe Floating City、島内には絶滅危惧種をモチーフにした動物が暮らしていたり、今後失われてしまう食材を学べるレストランがあったり、また虫や魚をとりすぎたユーザーには注意が与えられたりと、環境問題や持続可能な社会について自然に学べる仕掛けを満載している。子どもたちは、風力発電所や水耕栽培施設などを見学したのち、思い思いに自由行動をして、束の間の未来都市を楽しんでいた。
このクラスの担任の先生に話を聞いたところ、ここ数年、小学校ではSDGsに関する教材も増えてきたとのこと。「社会や理科など、教科をまたいで環境問題を考える学習が進んでいるところです」と話す。例えば、社会では漁獲量が減っていること、理科では台風のしくみについて勉強したばかりだという。
「昨年(2019年)10月には、大きな台風が来ました。江東区は荒川の氾濫による被害が想定され、第六砂町小学校は避難所になったんです。実際、避難した子もいました。子どもながらに、地球がこれまでとは違う、と体感しているのではないでしょうか。だから授業で環境問題の話をすれば、そうした実体験が結びついていく。その先に『それでSDGsという目標が必要なんだな』という意識が芽生えたら良いな、と思っています」。
ちなみにクラスにNintendo Switchを持っている子は20名くらいいるそう。そして、あつまれ どうぶつの森は、やはり常に子どもたちの話題にのぼっていた、と担任の先生。今回の特別授業の効果について聞くと「新しいことを学ぶときに、ワンクッションがあると違うと思うんです。理解がスムーズに進むんですね。たとえ、それがゲームであっても」。
今後も、デジタル技術を活用した教育に積極的に取り組んでいく考えだという。「教育課程では、今後さらにSDGsを学ぶ機会が増えていくと感じています。ICTを活用した疑似体験を通じて、行けない地域に行ったり、できない体験をしたり、ということを期待しています。海外の暮らしなど、もっと身近に感じられたら、子どもたちの学習意欲もさらに上がるのではないでしょうか」と期待感を示していた。