隠れた……と言ったら失礼だが、我々が知らないだけで、美味い飲食チェーンというのはまだまだ存在するものだ。

つい先日のこと、友人と車の運転中に「牡蠣」の話で盛り上がる一幕があった。冬と言えばやはり牡蠣である。どんな食べ方が好きか、どこ産の牡蠣が美味いか……などと話しているうちに、案の定、胃袋が強烈に牡蠣を欲し始めた。

「どこかで牡蠣が食べられないものか……」と目をキョロキョロさせていると、ふいに目に飛び込んできた「牡蠣とじ丼」ののぼり――。

  • 君は「かつ庵」を知っていたか?

「かつ庵」という聞き慣れない店だったが、迷わず駐車場にIN。そこで味わった牡蠣の、いや、食事全体のクオリティの高さが特筆すべきものだったので、ここに記したい。

神奈川県を拠点に展開する「かつ庵」

名前に「かつ」と付く飲食店はいくつか思い浮かぶが、多分、「かつ庵」を訪問したのはこの日が初。店の作りはチェーン店であることを伺わせるが、あまり見覚えがないような……?

お茶を運びにきてくれた店員さんに話を聞いてみると、「東京にあるのは、ここの足立江北店の1店舗だけなんです。神奈川とかではたくさん出店しているんですけどね」とのこと。

調べてみると、神奈川県を中心に北海道から沖縄県まで50店舗超を出店するチェーン店で、メインメニューはご想像の通り豚カツなどのフライ系。店内のメニュー表によると、熟成させた米国産ロースや、甘い脂の乗った鹿児島県産黒豚などが売りだそうだ。

この日の本命「牡蠣」の味は?

冒頭でも触れたように、この日の目的は牡蠣である。しかし、メニューを見ているうちに豚カツも食べたくなってきたではないか。幸いなことに、この日は友人と二人体制。ということで、「牡蠣とじ丼」と「ロース&カキフライ定食」という布陣でオーダーしてみた。

いずれも冬季限定メニューのようだが、これならお互い牡蠣を食べられる上に、ロースかつにもありつくことができる。牡蠣とじ丼を少し取り分けてあげる代わりに、ロースを2切れほどお裾分けしてもらおうという戦略だ。

待つこと約10分、まずは牡蠣とじ丼が到着。いや〜美味そう! というか……

デカッ! 牡蠣がデカい! よく見るとメニューに「大粒」って書いてある。4つの牡蠣が丼を見事に覆い尽くしているではないか。もっと近くでご覧いただこう。

一粒一粒が大きいことがハッキリわかるだろう。メニューによると、牡蠣は広島県産。一般的に、広島の牡蠣は殻こそ小さいが身は大きく、プリッとしていて、濃厚な味わいだと言われている。では、いただきます。

これは美味い! 牡蠣の粒はやはり一口では食べられないほど大きく、とてもジューシー。衣にはまだサクサク感も残っている。玉子は半熟でトロトロ、上品な甘辛ダレがカキフライと玉子にとてもよくマッチしている。

惣菜などでよくありがちなのが、衣で大きさを誤魔化すパターンだ。誰しも一度は経験したことがあるだろう。小さな粒を少しでも大きく見せたいがために、パン粉を極寒用のダウンジャケットのごとく纏っているケースを。もはや牡蠣よりも衣がメインのようなカキフライに、何度げんなりさせられたことか……。

しかし、かつ庵の衣はジャストで適量。厚すぎず、薄すぎない。粗挽きのパン粉で食感もよし。具材と衣の黄金比をしっかり研究した形跡が垣間見える。

続いては友人が注文したロース&カキフライ定食。味噌汁に加え、タルタルソース、ゴマのすり鉢、ソース入れ、さつまいもの小鉢など、お盆の上は賑やかで、見ているだけでワクワクしてくる。左上にあるのは筆者の牡蠣とじ丼を取り分ける用の取り皿だ。でそれは、実食。

う〜む、ロースかつも美味。その肉は厚めでジューシー、噛めば噛むほど味わいが増していくようだ。そしてやはり衣のバランスもお見事。サクッと軽快で、決して食べ飽きないし、これなら胃もたれなんかも無縁だろう。この「特性ソース」というものもコクと甘みがあって美味しい。調べてみると、6種の野菜と果実を濃縮した独自ブレンドらしい。

卓上では「味噌ソース」なるものも発見。3種類の味噌をブレンドして作ったものだという。味噌ソースはすりゴマと合わせてみたが、濃厚なコクと甘みが際立っていて、こちらも捨てがたい。これは白米がいくらあっても足りないだろう。

カキフライも一粒いただいたのだが、こちらは牡蠣とじ丼よりもストレートに牡蠣エキスを感じられたように思う。付け合せのタルタルソースも一般的なものよりクリーミーで粘度が高く、舌触りがとてもいい。さりげないところまで、とにかくこだわりが行き届いているように思う。

オードブルのコスパの高さに衝撃

牡蠣とじ丼は690円、ロース&カキフライ定食は890円。味もコスパも大満足である。ここで一度総括すると、平均的な豚カツチェーンのなかでも、その随所に見られるこだわりが1ランク優れている印象である。

ちなみに、持ち帰りメニューも充実していて、12月3日からは期間限定のオードブルもスタートしたようだ。

この日は、夜食用に「かつ庵 オールスターオードブル」をテイクアウト。カツだけでなく、唐揚げもエビフライもとても上質だったが、特に海老フライの具材の大きさにはビックリ。ここでも、“衣詐欺”は一切無しだ。

大きめの海老フライが2つ、ロースカツが1枚、ヒレカツが2枚、からあげが4つ、そして枝豆がセットになって、お値段はなんと税別980円。こんなにコスパが高いオードブル、なかなかお目にかかれない。コロナ禍の影響で、自宅で食事する食事も増えただろうし、近くにかつ庵がある人はぜひご利用をお勧めしたい。

これだけ丁寧かつハイコスパで事業を展開しようとしたら、それなりにテナント面積も必要になるだろう。そう考えると、物件がひどく高い東京都内でチェーン展開するには、さすがに割に合わないのかもしれない。都民として、神奈川県民を羨ましく思う。

何はともあれ、当初の"牡蠣欲"は完全に満たされ、「またひとついいお店を知ったな」と、ルンルン気分で帰路についたのであった。