インターネットイニシアティブ(IIJ)は、同社が千葉県白井市の「白井データセンターキャンパス」内に設置した「白井ワイヤレスキャンパス」をプレス向けに公開した。ローカル5GやLoRaWANなど、同社が扱う最新の無線技術を体験できる実験施設をレポートしよう。
最新の無線技術を実際に体験
白井データセンターキャンパスは、千葉県白井市に昨年5月に開設された、IIJの大規模データセンターだ。白井市はナシの生産で有名な、農業が主要産業の地域だが、都心から程近く、地盤が安定していること、大電力を複数系統引き込めるといったことから、近年はIIJ以外にも内外の企業がデータセンターを置く、データセンター集積地域となっている。IIJは白井データセンターキャンパスを東日本の拠点として位置付けており、サーバーを設置する他にも、AIやロボットといった新技術の実験の場として活用されている。
今回公開された「白井ワイヤレスキャンパス」も、こうした実証実験を継続する場として発足したもので、多種多様な無線周波数を扱うユースケースを一箇所に集めて、社内または外部との共同開発の成果を展示・発表するだけでなく、それぞれの特徴や実力を体感できるショールームとしての役割も持たせている。
IIJはMVNO事業としてIIJmioを展開しているが、MVNOは基本的に無線施設周りはMNOに任せている。しかしIIJは単なるMVNOにとどまらず、ネットワークの専門家集団としてプライベートLTEやローカル5G、LPWAといった無線技術も扱っている。今後はMVNOで扱う公衆網とローカル5Gなどの自営網、そして企業などのネットワークとIIJの持つコアネットワークやクラウドサービスをシームレスに繋げていく必要がある。そのため、こうした先進的な無線技術への知見を高める上でもこうした実験・検証の場が重要になるわけだ。
それでは早速、12月上旬時点での展示内容を紹介していこう。
ソフトウェア基地局と1.9GHz帯プライベートLTE網
富士通が開発中のソフトウェア基地局を使って1.9GHzのプライベートLTE(sXGP)が実働状態で展示されていた。この設備でアップロード約4Mbps、ダウンロードで8Mbps程度が出ており、同時に約60台が接続できるほか、外部ネットワークに接続すればウェブブラウジングや音声通話も可能だ。従来の商用LTE基地局と比べると大幅に省スペースな汎用基地局が実現できるという。
sXGPはいわゆる自営3版のPHSの後継として開発されたコードレス電話規格で、技術的にはTD-LTEに近く、使用する電波もバンド39の一部となる。通信速度はLTEとしては遅いのだが、技術基準適合認定を受けた端末なら無線免許が必要ないという特徴がある。このため病院など自営PHSを利用してきた組織からの引き合いが大きく、IIJのフルMVNOと組み合わせればプライベートLTEとMVNOネットワークをシームレスに切り替えて利用することも将来的な可能性として考えられる(実現にはハンドオーバー管理のためのMMEをIIJのネットワーク内に用意する必要がある)。
実際にsXGPを利用できる端末を使ってプライベートLTEとパブリックLTEの切り替えを体験してみたが、プライベートLTEのエリアはアンテナから数十メートル程度と狭く、エリアから外れるとすぐにドコモ網に切り替わったのが確認できた。前述の通り、ハンドオーバーはまだ対応していないが、対応すれば利便性は相当なものになるだろう。ちなみにこの端末は1枚のSIMにプライベートLTEとパブリックLTE両方の情報を組み込んだSIMの実証実験も兼ねている。
ソフトSIM
小型の通信モジュール内にSIMと同様のプロファイル情報を格納することで物理SIMと同じように機能させる「ソフトSIM」は、IIJがフルMVNOサービスの一環として昨年5月から提供を開始したサービスだが、このソフトSIMを利用した製品も2種類展示されていた。
いずれも子供などの位置情報を確認するための見守り製品だが、ソフトSIMを採用することで小型・軽量化やバッテリーの長寿命化を実現しているほか、外部にSIMスロットが存在しないため、防塵・防水設計が容易になっているという。
超低遅延5Gネットワーク
ローカル5Gネットワーク(NSA)と低遅延接続の実験環境が展示されている。低遅延については通常のLTEが40ミリ秒程度であるのに対し、5Gでは10ミリ秒程度、最終的には1桁ミリ秒台が目指されている。実験環境では遅延を人工的に発生させて、センサーで取得した手の動きをリアルタイムにCGとして描画する実験を行っている。
実際にやってみると、10ミリ秒台ではほとんど遅れを感じないが、40ミリ秒となると、「遅れる」のではなく「一切描画されない」状態となる。これはデータをサーバ側で処理して戻すまでの間に次のデータがやってくることで、処理がオーバーフローしてしまい、描画する暇がなくなってしまうようで、わずか30ミリ秒の違いでもアプリケーションによってはこれほど致命的な差になってしまうことがわかる。たとえばこれが自動運転車両やドローンからのセンサーデータを受けて急停止や回避行動させようとするなら、間に合わないどころか一切操作する余裕がないことになる。5Gのひとつの特徴である低遅延がどれだけ重要なポイントになるかがよくわかる展示だ。
LoRaWAN
免許不要の長距離無線技術として注目されているLPWA規格の一つ「LoRaWAN」について、IIJが取り扱っているセンサー類やゲートウェイ、基地局が展示されている。LoRaWAN製品は工場等の設備のリモートセンシングや農業向けIoTで利用実績があり、「IIJ IoTサービス」などのサービス基盤と組み合わせることで、素早く誰にでもデータを活用する準備が整えられる。
Wi-Fi 6
一般ユーザーにとっては最も身近な無線技術であるWi-Fiについても、展示が行われていた。Wi-Fi 6(IEEE802.11ax)についてはすでに対応ルーター製品や対応端末(iPhone 11以上など)が市販されているが、これらを組み合わせることで1Gbps近い速度が実現できる。また、6GHz帯を使って帯域を最大3.6倍も増やせる拡張規格「Wi-Fi 6E」についても、今後研究していくようだ。
ネットワーク技術は免許が必要なパブリックで高速な規格から、免許不要で低速、パーソナルな規格まで用途に合わせて非常に多岐にわたっている。こうした幅広い技術を組み合わせてクラウドやネットワークサービスと連携させられるのが、IIJの強みと言えるだろう。
今回見学した「白井ワイヤレスキャンパス」は個人で気軽に見に行ける場所ではないのが残念だが、ここで展示されている技術の多くはIIJが開催する技術セミナーや勉強会、ユーザーミーティングなどでも触れられることが多いので、これらの機会も合わせて注目してほしい。