「年収900万円」と聞くと、贅沢な生活ができるとイメージする方が多いと思います。一方で、納める税金が多くなるため、「それほど贅沢はできないのでは」と感じる方も少なくありません。

本記事では、年収900万円の方の手取り額や生活水準のほか、おすすめの税金対策、資産運用法についてご紹介します。

年収900万円以上の割合

国税庁「令和2年分 民間給与実態統計調査」によると、年収900万円以上の方は約335万8,000人で、全体の6.4%です。給与所得者の約16人に1人が年収900万円以上という結果になりました。

上記の調査によると、年収900万円以上の方の割合は以下の通りです。

  • 年収900万円超~1,000万円以下 : 1.8%
  • 年収1,000万円超~1,500万円以下 : 3.4%
  • 年収1,500万円超~2,000万円以下 : 0.7%
  • 年収2,000万円超~2,500万円以下 : 0.2%
  • 年収2,500万円超~ : 0.3%

なお、この統計は給与をもらっている方のみの集計です。自営業の方や資産運用で稼いでいる方などは含まれていません。

  • 給与所得者の14人に1人が年収900万円以上

    給与所得者の16人に1人が年収900万円以上。「意外に多い」と思った方も多いのでは?

年収900万円の手取り額と税金

一般的に年収900万円とは手取り額ではなく、会社から支給された総支給額を指します。続いて、年収900万円の方の手取り額や所得税について解説します。

年収900万円の手取り額

年収900万円の方の手取り額は、それぞれの方の年齢や家族構成などによって異なりますが、税金や社会保険料(厚生年金保険料や健康保険料、雇用保険料など)を控除すると、およそ650万~680万円になると考えられます。

手取り年収を約660万円とすると、月の手取り額は賞与がない場合、約55万円です。賞与がある場合は、会社によって賞与の額は異なりますが、年間賞与を平均額である手取り約70万円と仮定すると、月の手取り額の目安は約49万2,000円です。

扶養家族がいれば配偶者控除や扶養控除が適用されますので、月の手取り額はやや増えます。

年収900万円の税金

会社に勤めていると、

  • 所得税
  • 住民税
  • 厚生年金保険料
  • 健康保険料
  • 雇用保険料

が税金として引かれます。人によっては介護保険料(40歳以上の方)や社宅代、財形貯蓄代、団体保険料、確定拠出年金の掛け金といった控除もあります。ただし、介護保険料以外は、本人の希望で控除されるものですから、自由に使えるお金の一部と言えるでしょう。

支給額から差し引かれるさまざまな税金や社会保険料のうち、収入によって控除割合が変わるのが所得税です。

住民税は一律で10%ですが、所得税は累進課税のため、所得額が上がるほど段階的に税率は高くなります。税金の対象となる個人所得を指す課税所得は、年収の額面ではなく、所得控除などを計算した上で求められます。

【所得税率】

課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円超330万円以下 10% 97,500円
330万円超695万円以下 20% 427,500円
695万円超900万円以下 23% 636,000円
900万円超1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円超4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

上記表のように年収900万円はちょうど所得税率が23%から33%に変わる年収ゾーンです。年収が900万円台へとアップした際はこの所得税の変化に注意が必要と言えそうです。

なお、月々の給与から差し引かれている所得税とは金額にずれが生じる場合があり、そのずれを計算し直して調整するのが年末調整です。

  • 年収900万円の方の手取り額は、およそ650万~680万円

    年収900万円の方の手取り額は、およそ650万~680万円

年収900万円の貯蓄

年収900万円の方は、実際にはどのような暮らしをしているのでしょうか。貯蓄割合と、生活費のモデルケースを見ていきましょう。

金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査 2021年」によると、年収750万~1,000万円の方のうち、23.0%の方が年間手取り額の10~15%を貯蓄しているという結果でした。

月の手取り額が約49万2,000円、年間賞与を平均額である手取り約70万円と仮定すると、毎月の貯金は約4万9,000~7万4,000円で、賞与があるときは約4万~5万円をプラスすると、手取り額の10~15%に該当します。

一方、月の手取り額が55万円で年間賞与なしの場合は、毎月5万5,000円~8万円程度貯蓄に回している計算になります。

年収900万円の生活レベル

続いては、年収900万円の方で独身の場合と子供がいる家庭の場合、それぞれの生活水準を見ていきましょう。

【独身の場合の生活レベル】

毎月の手取り額55万円(年間賞与なし)想定で、年収900万円であり、かつ独身の場合の生活費イメージは下記のとおりです。

<独身の生活費の内訳例>

  • 家賃:15万円
  • 食費 : 7万円
  • 水道光熱費 : 1万5,000円
  • 通信費 : 3万5,000円
  • 交際費 : 5万円
  • 日用品代:5万円
  • 被服費 : 3万円
  • 車維持費 : 2万円
  • 保険料 : 2万円
  • 貯金 : 8万円
  • その他 : 3万円

1カ月の家賃の目安は、手取り額の3分の1から4分の1が理想的であるため、手取り額が55万円ならば13万~18万円がベストと言えるでしょう。家賃にこのぐらいお金をかけられれば、都心でも良い条件で物件を選べそうです。

車の維持費を含め、かなり自由度の高い生活を送っても、8万円を貯金に回せそうです。独身の場合、かなり余裕のある生活が送ることができるでしょう。

【子供がいる家庭の場合の生活レベル】

続いて、子供がいる世帯の生活費のモデルケースを見てみましょう。扶養する家族がいる場合、扶養控除や配偶者控除があり、手取り額はやや増えます。

ここでは、生活水準の比較をするため、独身の場合と同じく月の手取り額を約55万円として内訳を考えます。

<3人家族の生活費の内訳例(子供1歳で想定)>

  • 住宅ローン : 13万円
  • 食費 : 7万4,000円
  • 水道光熱費 : 2万1,000円
  • 通信費 : 5万円
  • 交際費 : 2万円
  • 日用品代 : 2万円
  • 被服費 : 2万円
  • 教育費 : 3万円
  • 車維持費 : 1万5,000円
  • 保険料 : 5万円
  • 貯金 : 8万円
  • その他 : 4万円

高収入といわれる年収900万円でも家庭がある場合は、何でも好きなように贅沢ができるとはいい難いでしょう。日々の生活に困ることはなくても、毎年家族旅行に行ったり、子供を私立の学校に通わせたりするためには、ある程度の節約が必要になってきます。

  • ひとえに「年収900万円」といっても、暮らしぶりは世帯構成によって変化します

    ひとえに「年収900万円」といっても、暮らしぶりは世帯構成によって変化します

年収900万円の税金対策と資産運用法

多くの税金を納める年収900万円の方は、できるだけ税金対策をして節税をすることが大切です。ここでは、手取り額を増やすための節税方法と資産運用方法についてご紹介します。

年収900万円の税金対策

年収900万円の方は、自由にできるお金が多いという大きなアドバンテージを持っています。これを活用した税金対策の方法をいくつかご紹介します。

  • ふるさと納税(寄附金控除)

ふるさと納税は、各自治体に寄附をして返礼品を受け取ります。確定申告またはワンストップ特例制度の手続きを行うことで、寄附金のうち2,000円を超える部分については、上限額まで住民税の控除などが受けられます。

  • 住宅ローン減税制度

住宅ローン減税制度は、住宅ローンを組んで自宅を新築および購入した方が原則10年間、特別措置の場合は13年間、税額控除を受けられる減税措置です。ただし、一定の条件に該当しない場合には本制度を活用することはできません。会社勤めの方の場合、住宅を購入した年は自身で確定申告を行い、翌年以降は会社にローンの残高証明書を提出すれば年末調整で控除を受けることができます。

  • 生命保険料控除、地震保険料控除

生命保険料や地震保険料を払っている場合は、所得から一定額の控除が受けられます。会社勤めの方は、どちらの場合でも年末調整時に「給与所得者の保険料控除申告書」に必要事項を記載し、保険会社から送られてくる「生命保険料(損害保険料)控除証明書」と併せて会社に提出することで手続きが行えます。個人事業主や自営業、年金生活者の方は、各自で確定申告が必要です。

そのほか、扶養控除、配偶者控除、障害者控除、医療費控除など、節税につながるさまざまな控除制度があります。控除制度の多くは、年末調整や確定申告を行わないと受けられませんので、手続きを忘れないようにしましょう。

年収900万円におすすめの資産運用法

将来の資産形成のためにおすすめの資産運用方法には、下記の3つがあります。

  • iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で申し込んで掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで掛金を運用する私的年金の制度です。掛け金、運用益、給付の受取時に所得控除がありますので、老後の資産形成をしながら節税ができます。ただし、受取時に課税される点と原則60歳まで引き出せない点、手数料がかかる点には注意が必要です。

  • つみたてNISA

つみたてNISAは、長期の積立・分散投資を支援するための非課税制度です。毎年40万円まで一定の投資信託で利用可能で、最長20年、投資から得た利益に税金がかかりません。証券会社では100円以上、銀行では1,000円以上からという設定が多く、少額から毎月投資が可能です。

  • 財形貯蓄制度

財形貯蓄制度は、毎月の給与から一定金額が自動で天引きされて積み立てる制度です。そのため、貯金が苦手な方も着実に資産形成をしていくことができます。ただし、勤務先に財形貯蓄制度がなければ利用できません。

財形貯蓄制度には、お金の使用目的が異なる「一般財形貯蓄」「財形年金貯蓄」「財形住宅貯蓄」の3種類があります。財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄を合わせて、元利合計550万円までの利子にかかる税金が非課税になります。

  • 年収900万円の方は、できるだけ税金対策をして節税をすることが大切です

    年収900万円の方は、できるだけ税金対策をして節税をすることが大切です

年収900万円の方でも家計管理や資産運用が大切

年収900万円はかなりの高年収ですが、手取り額や子供がいる家庭の生活費の内訳を見ていくと、いくらでも贅沢ができるというほどではありません。

年収900万円だからといって、支出を気にせずに好き放題にお金を使っていると、貯金ができない可能性があります。年収が高いからこそ、節税対策を併せて行っていくことが大切です。

コツコツと積み立てて資産を形成していく資産運用方法にも目を向けて、しっかりと家計管理をしていきましょう。