秋元康氏が企画・原作、大根仁氏が脚本・演出を務めるオリジナルドラマ『共演NG』(テレビ東京系 毎週月曜22:00~)が放送中だ。本作は、弱小テレビ局・テレビ東洋(通称“テレ東”)を舞台に、25年前の破局以来“共演NG”になっている大物俳優・遠山英二(中井貴一)と人気女優・大園瞳(鈴木京香)が連続ドラマで共演する様子を描く。元カップルだけでなく、かつて同じアイドルグループに所属していた女子2人、2.5次元俳優と特撮出身俳優、仲違いした役者の師弟など、さまざまな“共演NG”な人々が登場し、物語を盛り上げている。
残すところ1話となった本作だが、10月26日の第1話放送時には、観ている人が驚く出来事があった。ドラマ本編終了後、番組の提供クレジットに「KIRIN」「SUNTORY」のロゴが出現したのだ。通常、テレビ番組のスポンサードは1業種1社というのが暗黙のルールになっている。それが併記され、「キリン!」「サントリー!」「キリン!!」「サントリー!!」と、“提供読み”でノリ良く掛け合いまでしている。飲料業界のライバル同士、いわば“共演NG”が奇跡の共演を果たしたわけだ。テレビ業界のタブーを破るこの仕掛けは、いったいどうやって成立したのか?テレビ東京制作局の稲田秀樹プロデューサーに聞いた。
■「全社あげて応援しよう」というプロジェクト
――リアルタイムで第1話を観ていて、エンディングの提供クレジットで「競合2社がダブルで出稿してる!? すごい!」と驚きました。今回この試みが実現できた経緯を聞かせてください。
これはウチの営業が本当に頑張りまして。もともと営業局の中で「テレビ広告の新しい付加価値を生み出さないといけない」と模索していたところがあったんです。そんな中で今回、ドラマ発信で『共演NG』という作品が制作されることになって、ありがたいことに全社あげて応援しようとプロジェクトが組まれていく中で、営業局が「自分たちも何かできるんじゃないか」と考えてくれた施策なんです。業界のいろんな忖度を突き崩して新しいものを生み出そうとするドラマの内容を踏まえて、「新しい発想で取り組もう」と。その結果として実現したものです。
――稲田さんはこれまで数多くのドラマを手掛けてきましたが、やはりこれは前代未聞ですか?
聞いたこともないし、体験したこともないですね。このプランを聞いたとき、「それはおもしろい! ドラマの内容やタイトルともうまくリンクしている」と思いました。
――キリンとサントリーの度量もすごいと思いました。
2社さんには営業局から企画意図を丁寧に説明したところ、快くご賛同いただけました。
――前例がないことだけに、事前の調整は大変だったのではと想像したのですが……。
そこはやっぱり、細かい部分でいろいろな調整は必要だったようです。最終的にいろいろ落ち着いたのは第1話の仕上げのかなり直前で……。制作サイドとしては信じて待つ感じでしたね。
――待った甲斐があったのではないでしょうか。
おかげさまで、ネットの感想を見ているとキリンさん、サントリーさんに対する好意的な意見が多いです。過去の慣例を壊してチャレンジすることに世間が飢えているのかもしれない、とも思わされました。業界内でもすごく反響があって、ドラマの盛り上がりにつながりました。営業局すばらしい、ありがとう! という感じですね。
――ドラマ自体、過去のしがらみをぶち壊すという構図の上で、さらにディテールによって虚構と現実の境目を曖昧にしていくのが魅力だと思います。そう感じながら観ていたところに2社併記の提供クレジットが出てきたので、「これはどこまで本当なんだ?」と思わされました。
第1話のときは、本編が終わってCMを挟んでから後提供(注:あとていきょう。番組の最後に流れるスポンサークレジットのこと)を入れたんですね。実はそのCMもキリンさんとサントリーさんのものが交互に放送されていたんです。そこからの流れで後提供の演出が来る。手前味噌ながら、してやったりな仕掛けでしたね。
――まさに、「あれ?」となって後から録画でCMも確認しました。
むしろドラマの内容が吹き飛ぶくらいこの仕掛けのほうが話題になって、嫉妬してる部分もあります(笑)。でも本当に、ドラマと営業とが手を組んで相乗効果を生み出せたという意味で、弊社としてはすごく良い取り組みが出来たと思っています。
――放送後、この取り組みに関して局内での反応はどうでしたか?
ドラマの内容も含めて、各方面で高評価をいただきました。そもそも既成概念にとらわれず新しいチャレンジをする社風もあって、すごく会社内が活気づいた気がします。営業の人たちも盛り上がって、提供クレジットの遊びもどんどんエスカレートしていってますからね! 最終回なんかどうなっちゃうんだろう……。僕らもどういう演出の後提供が来るか、毎回直前までわからないんですよ。営業と2社さんで知恵を絞って考えていただいてるので、楽しみにしています。
――今回の成功例をもとに、今後もこうした取り組みは起こり得ると思いますか?
提供クレジットという短い時間でも工夫次第でいろいろなことができるというのは発見だったと思います。今回と同じやり方ではなくても、本編以外の時間も含めて楽しんで頂く作り方は今後もつなげていけたらいいですね。僕自身も、ドラマをつくっていてこんなに営業の人と膝を詰めていろんな話をする機会はあまりなかったので、楽しかったです。本作をきっかけに、まさにテレビ広告の価値観が変わり、いろんな競合スポンサーが共演OKとなって、こぞってテレビ東京に来てくださるのを心待ちにしています(笑)。
■稲田秀樹プロデューサー
共同テレビジョンで『世にも奇妙な物語』『アンフェア』『リーガル・ハイ』シリーズなど多くのドラマを手掛け、2016年にテレビ東京に移籍。主な担当作に『ヤッさん〜築地発! おいしい事件簿〜』(17年)、『ヘッドハンター』(18年)、『よつば銀行 原島浩美がモノ申す!~この女に賭けろ~』(19年)、『病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~』 『レンタルなんもしない人』(20年)など。
(C)「共演NG」製作委員会