Lマウントを採用するパナソニックのフルサイズミラーレスの新製品「LUMIX S5」がヒットしています。シリーズの初代モデル「LUMIX S1」シリーズよりも本体サイズを大幅に小型軽量化し、価格を抑えたにもかかわらず、操作性や撮影性能に妥協がない点が好感されているからです。LUMIX S1シリーズには触手が伸びなかった落合カメラマンも、LUMIX S5をしばらく使ってみたら案の定、衝動買い寸前まで来ているそう。特に、キットレンズの20-60mmがいたくお気に入りのようです。
大きく重いLUMIX S1から一転、マイクロフォーサーズ機より小さく
いや、困った。一体どうすりゃいいんだ。
正直にいおう。私は今、LUMIX S5の標準ズームレンズキットがモーレツに欲しくなっている。使うたびに「いいなぁ、これ」と思い続けてきていたのだけど、今回の試用でトドメを刺された。やっぱりイイんだわS5。
思い起こせば(というほど昔の話ではないけど)、初対面の時から「うわー、ずいぶん小さくなったねぇ~」ってな感じのインパクトを感じさせたS5ではあった。人付き合いの中における褒め言葉として「小さくなった」を口にすることはまずナイと思うのだけど、LUMIXのSシリーズに対しては、コレはけっこうな高評価。だって、ほら、S1シリーズがあのデカさにアノ重さだから(笑)。実際、S1RとS1の画作りに惚れ込んでいた私は、しかし現実に購入計画を立案することにはならなかった。デカ重すぎて楽しく持ち歩ける(ちゃんと使いこなせる)自信がまったくなかったからだ。
それプラス、価格。高倍率ズーム好きの私が珍しく「S1は50mm F1.4だけでストイックに完結してみたい」なんてことを思ったのだけど、S1ボディ約34万円+LUMIX S PRO 50mm F1.4約28万円(いずれも本稿執筆時点における量販店でのポイント込み価格)の合計約60万円は、「ボディ+50mmレンズ」の価格としてはさすがに……。これがS1R狙いだと、合計ほとんど80万円の世界になるワケでして……。
ボディはともかく、50mm F1.4がおよそ30万円ってのが、我が人生の中では最大級の衝撃だったかも(笑)。若かりしころ「写真は50mmレンズが基本。まずは50mmで勉強だな」なんてことをいわれ育ってきた一眼レフ全盛世代のジジイからすると、こりゃ完璧に別次元の値付けですもの。すんごく良く写るんで、文句を言っちゃあいけないのは分かっているのだけど、まさしく、たかが50mm、されど50mmの苦悩ですな。望遠レンズかと思うほどにデカいし。
そこでS5なワケです。お値段ちょっぴり優しく、約132.6×97.1×81.9mmにギュッと凝縮されたボディ(ちなみにS1RとS1は約148.9×110×96.7mm)は、同時にS1比およそ300gもの減量にも成功していて重さは約714g(バッテリー、メモリーカード1枚含む)。300gっていったら、ステーキ肉でフツーに満腹レベルでしょ(個人の感じ方です)。カメラの小型化&軽量化って、どこのメーカーも1mm単位、1g単位の世界で文字通り身を削る思いで実現してきているものと認識しているのだけど、いきなりズバッと300g減なんてアリなの? ちなみに、マイクロフォーサーズLUMIXの静止画ハイエンド機「G9 PRO」は、約136.9×97.3×91.6mmのボディサイズで重さは約658g。なんと、フルサイズセンサーを搭載するS5の方がG9よりも小さいのだ(でも少し重い)。
S5のこのサイズ感は、キヤノンEOS R6やニコンZ 6IIにかなり寄せてきているものなのだけど、手のひらに伝わる無骨さは一枚上手だ。だから、厳密な比較ではなく別の機会に各々を単体で手にしたときには、EOSやZよりも少しばかり大きく重い印象を抱くことになるかもしれない。でも、それがマイナスイメージを生むことはナシ。レリーズ感触が思いのほか硬質で、シャッターを切るたびに「写真を撮っている」感が手のひらや耳にちゃんと届くのが心地よく小気味よいからだ。使い心地が「かなりきちんとカメラしている」のである。
小さな被写体もしっかり捉えるAF性能にゾッコン
ボディが小さく軽くなったのに仕上がり画質がS1そのままの風情であることに加え、AFには明らかな実力向上があるところがS5のアドバンテージにもなっている。個人的には、「人体認識」を行うパナの認識AFを以前より高く評価してきているのだけど、S5では認識AFに新たに「頭部認識」を追加。併せ、動体に対する追従性、とりわけ小さく見えている被写体への対応力が著しく高まっているように感じられるのだ。
パナの空間認識AFって、ハマるときは普通にキマる一方、外すときはドカンと外す地雷タイプだった。なかでも、個人的には背景へのピント逃しと測距点自動選択時に小さな被写体をつかみ損ねるところがイマイチだと思っていたのだけど、そのあたりが相当に洗練されてきたように思う。
つまり、S5のAFは、S1シリーズ以上の仕上がりなのであ~る! ……といえたのは、実は発売後2カ月間のみ。2020年11月24日にリリースされた最新ファームで、どうやらS1シリーズも同等の実力向上を成しているようなのだ。まぁ、でも、S1シリーズがどんなにファームアップしようとも、ボディサイズが小さく軽くなることはないハズ。やっぱり手に入れるべきはS5ですな(個人的な決断です)。
20mm始まりのキットレンズがLUMIX S5の魅力を高める
私が完全にS5推しになっているのにはもう一つ理由がある。最初に述べている通り、私はS5の標準ズームレンズキットがモーレツに欲しくなっているワケなのだけど、キット指名ということはコンビを組むレンズにも惹かれているということだ。そう、LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6がものすごくヨロシイのである。
まずは、ワイド端20mmという焦点距離がイイ。これがありがちな24-70mmという焦点距離域だったら、たぶんあっさりスルーだったと思う。そして、この20-60mm、スカッと軽いレンズなのにS5の繊細な画作りを一切スポイルしない描写力を開放時から発揮してくれる実力の持ち主。そこにも惚れた。
一方で、ワイド端の歪曲収差がウソみたいに少ないのが、ありがたさよりも先にちょっと気持ち悪かったりもする(笑)。でも、超広角レンズの歪みに頼らぬ、あるいはそれに足を引っ張られずに20mmの画角が楽しめるところは、見ようによっては唯一無二の使い心地につながる可能性もあるわけで、そこにも「手に入れるべき必然性」を感じ取った次第。で、ここでついでに自分にトドメを刺すならば、ボディの価格を基準に考えると、この超魅力的な標準ズームレンズが実質4万円台で手に入るという計算になるワケで、いや、こりゃ参りましたなー。
細かいスペックは明らかにS1よりも格下なのに、使っているときにはそれを感じさせない「S5としての作りの良さ」がちゃんとある。だから、実質的には下位機種なんだけど、存在感がちゃんと独立し確立され「下位」の枠には収まっていない。そして、S1シリーズが色濃く感じさせた「写真機に対する本気」がS5にもちゃんと備わる……。S5の魅力はそんなところだろうか。
しかも、Lマウント陣営の交換レンズ群は、すでに硬軟イロイロよりどりみどり。さらには純正の単焦点レンズたちも出番を待っているとなりゃ、老舗写真機メーカーさんたち、うかうかしていられないんじゃなーい?