小劇場での活躍を経て映像に進出してから、数々の映画・ドラマ・CMを彩ってきた吉田羊。今や全国区の存在となった彼女だが、コロナ禍を過ごす中では、一人の俳優として無力さを感じ、瞬間的に絶望すら抱いたという。それでも前を向くことにした彼女が語る「生き甲斐」、そして変わらぬキャストやスタッフと再会した『コールドケース3』への思いとは?
――WOWOW開局30周年記念作品『連続ドラマW コールドケース3 ~真実の扉~』が12月5日(土)より放送開始となります。神奈川県警・捜査一課で未解決事件と戦う石川百合を演じるのは、今回で三度目となりました。
純粋に、シーズン3が決まったときはとてもうれしかったです。百合という役は、本当に私の一部になっていて、ストーリーが終わってもずっと私の中に内包されている役なんです。なので、今回また彼女の人生を外に出してあげられる、その後の人生を生きられるんだっていうことが楽しみでした。また、何より視聴者の皆様が「見たい」と思って下さらなければシリーズ化は叶いませんので、『コールドケース』を愛してくださる皆様に、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
――5年にわたって同じ役を演じることは、なかなかないと思います。
台本を読んだときに、実はこれまでとちょっと違う感覚を覚えまして。終わりを意識するということだったんですよね。これまでは「続編があるな」と予感して読んでいたんですけども、今回はそれがなく、「もしかしたら『コールドケース』は3で終わりなのかもしれないな」という風に思ったんです。そう考えると、残り一つ一つのシーンが、さらに愛おしくって、有終にふさわしい百合さんでなければならないなという気持ちでおりました。シーズン1からずっと役との境目がわからなくなるくらいのめり込んだ役だけに、シリーズを重ねていく中で、私と役が本当に一体となって成長できたなという実感があります。
今回、結果的に非常に素直で、人間らしい百合さんになったなという風に感じています。弱さとか怒りを見せたり、相手に寄り添い過ぎてしまったり、「これまでだったら抑え込んでいた感情に、正直にいられるようになったな」という風に思っていて。それは他でもない捜査一課の4人がいてくれたおかげですし、『コールドケース』チームの皆様の存在は大きいなという風に思っています。「ここまでやったらやり過ぎかな?」と思うようなことも、「これまでの積み重ねがあるから大丈夫。成立するよ」と皆様が信じてくださったおかげで、今回の百合さん像になったなという風に思います。最終話には、百合さんにとってすごく大きな試練が用意されていて、「百合さんが本当の意味で孤独から解放されたらいいな」と願うラストになったかなと思っています。
――続いてほしいところですが、やり切った感があるんでしょうか?
そこは複雑なところです(笑)。「やり切った!!」と思っちゃうと、これで終わっちゃうので。出来るだけ続けていきたいんですけれども、本当に衝撃的なラストだったので。シーズン1から孤独で始まった百合さんですけど、その彼女が「ああ、もう一人じゃないな」って思えるラストになっていたので、ここで終わるのが、おそらく美しいんだろうとは思うんです。恐らくプロデューサーさんの中でも、シーズン3で一段落っていう思いがあったからこそ、このラストにしてくださったんでしょう。自粛前は「そうか、これが最後か」という気持ちでやっていたんですが、2か月の撮影中止を余儀なくされて、再開して皆に再び会えた時に、ほとんどメンバーが入れ替わらずに参加してくださったんですよね。
自粛前よりも強い、熱い熱量でもって「絶対にこれを撮り切ろうね!!」という気持ちで皆さんが臨んでくださっていたので、「こんなにいいチームを、シーズン3で終わらせてはいけないんじゃないか」と切り変わりまして(笑)。自粛後は、「シーズン4も是非やりたいです」ということを、敢えて口に出すようになり、その思いは、実は捜査一課5人の総意でもあります。クランクアップのコメントで、全員が全員「シーズン4で会いましょう!!」という風に締めくくるということになりました(笑)。ただ、これまた視聴者の皆様が「シーズン4も見たい」と言ってくださらないと続きませんから、まずはシーズン3を成功させて、ぜひシーズン4に繋げて行きたいなという思いでおります。
――同じキャストとともにシーズン3を迎えられることも感慨深いかと思います。永山絢斗さん、滝藤賢一さん、光石研さん、三浦友和さんとは、もう阿吽の呼吸のようなものがありますか?
阿吽の呼吸は生まれていますね。シーズンを重ねる中で、キャラクターもお互いに分かりすぎるくらいわかっているので、「こうやればこう出るだろう」という期待を、決して裏切らない仲間たちです。そこを土台にして、さらに奥のお芝居を、5人で目指すことができたシーズン3だったなと思っています。
――百合を含めた捜査一課の5人には、どんな思いがありますか?
今シリーズは、第1話の冒頭から、捜査一課5人の今の関係性が描かれていて。台本を読んだときに、本当に震えるほど嬉しかったんですよね。「軽口を叩き合えるほどに、5年かけてこの絆と信頼を深めてきたんだな」と感じられましたし、実際に撮影現場でも、これまでに増して、温かい空気感があったなという風に思います。あと、シーズン1からそうなんですけれども、捜査一課のシーン撮影って、チーム全員にとって非常に楽しみなシーンなんですね。というのは、1カットで撮ることが多いんですよ。テンポの良い掛け合いって、やっぱり信頼関係があってこそだし、カメラマンの山田康介さんはじめ、スタッフの皆様が、一緒にお芝居をしてくださる感覚で動いてくださるので、自然と画に躍動感が出ているなと思います。
――役の話に戻りますが、生き方や考え方の面で、百合に影響を受けたところはありますか?
百合さんから、影響を受けた面…ああ、どうかなあ。でも、一番最初にこの役をいただいたときから「どこか私に似ているな」という思いがあったんですよね。「母の愛を求める裏返しの反発」とか「家族や仲間がいても拭えない絶対的孤独感」とか、共感できる感覚があって。だから逆に、リアルな私が感じることが、むしろ百合さんに影響しているというところはあるかもしれないですね。とはいえ、百合さんは圧倒的に強い人。強くあるために自分を律することができる人です。演じるたびに、かくありたいと思わされます。
百合さんの撮影に入ると、割と普段にも、百合さんが侵食して来ることが多くて。ドラマの合間に違う仕事、例えば、雑誌の撮影をしてみると、どこか表情が百合さんになってしまうんです。それは実際に今回もあったことなんですけども、シーズン3の撮影中に、着物の撮影がありまして。お着物の撮影って、あまりクールな表情って求められないんですよ。どちらかというと、大和撫子的な「はんなり」な雰囲気を求められるんですけれども、本当に無意識で、自然と表情が、どこかクールで、ちょっと孤独を奥に秘めた、人を疑ってかかるような、鋭い視線になってしまっているくらい、本当に百合さんと私は一体化しているなというのは、今回また改めて実感したことですね。
――逆に、百合さんとご自身で違うところを敢えて挙げるなら?
違うところは…爆笑しないところ(笑)。笑い方って、その人を表すと私は思っていて。「人生で爆笑したことがない」というのが、石川百合の人生を象徴しているというか。爆笑ができない日々を送ってきたし、そういうところに自ら進んで身を置いている人なんだろうなと。そこは私とはちょっと違うところかなと思います。私は出来るだけ笑う環境でいたいし、自分から笑いの種?ネタ?を日々探しているところがありますね(笑)。
――『コールドケース』の撮影中は、うまく笑えないことがあったりするんですか?
さっきの雑誌の撮影の話じゃないですけど、どこかで笑い方が下手になるんですね。それこそ爆笑したり、大きく笑うと、百合さんがいなくなっちゃうように感じるんです。だから『コールドケース』に入っている間は、百合さんを留め置くために、ちょっと笑い方が下手になるというか、笑えなくなります。
――改めて、『コールドケース』の魅力はどこにあると思いますか?
このドラマって、刑事ドラマではあるんですけれども、犯人とか、関わった関係者たちの心にフォーカスしていく人間ドラマなんですよね。なので、ただの事件解決ものではない、面白さ・深さがそこにあって。ご存じの通り、毎回素晴らしいゲストの方々が、並々ならぬ意欲でもって、丁寧に繊細にその役を作り上げてくださっているので、大いに共感していただけると思います。
あと、シーズン1のときは、原作ありきというところもあって、手探りで作っているところがあったんですけれども、シーズン2・シーズン3は、もう既に日本らしさみたいなものが、大前提としてあって。音楽もそうですし、演出もそう。そういうのがあったうえで、「じゃあ、そこからさらにどう奥行きを出せるか・どう広げられるか」ということに、注意を向ける余裕がでてきたんだと思っていて。なので、もう『コールドケース 日本版』という肩書じゃなくていいんじゃないかなというところまで、私は感じています。オリジナルの世界観をベースに我々が5年かけて作り上げた、日本が誇れる刑事ドラマであるという風に思っています。
――第5話で、犯人が百合に「あんたの生きがいって何だ?」と問いかけるシーンがあります。吉田さんご自身の生きがいは何でしょうか?
そうですね…生き甲斐かぁ。考えたことがないんですよね、生き甲斐って。どうだろう?生き甲斐って、それがないと生きられないってこと?そんなことない?それがあると、より幸せに生きられる、そのために頑張れるってことか…。
ということで言うと、私にとっての生き甲斐は、ファンの皆さんです。ファンの皆様が私の作品を見て、例えば「もう死にたいと思っていたけど、もう少し生きてみることにしました」と仰る方がいたりして。自分が生きている意味を感じられるのは、そういう風に、誰かの人生に影響を与えることができたと感じられた瞬間なんですよね。一方で私はファンの方からの励ましですとか、応援の声が力になりますし、そうやってお互いに幸せを渡し合えた瞬間というのは、「あ、わたし生きててよかったな」と感じる瞬間です。
――コロナ禍の影響を大きく受け、本作の撮影も2か月ほど中断しました。また「エンターテイメントは不要不急のもの」というような言葉が飛び交うこともありました。そういった状況下で、ファンの皆さんに作品を届けるということ、また俳優業そのものに対しても、思うところはあったのではないでしょうか?
震災のときとかもそうだったんですけど、「俳優って、こういう有事のときに、なんて無力なんだろうな」と、いつも思っていたんです。今回のコロナも例外でなく、ミュージシャンみたいにギター一本で歌えるわけでもないし、お笑い芸人さんみたいにネタ一つで笑わせられるわけでもない。「俳優って、本当に一人じゃできない仕事なんだな」という風に、一瞬、絶望に打ちひしがれた時期もあったんです。でも、リモートドラマというジャンルが生まれたように、「考え方ひとつで、どんな状況にあっても、エンターテイメントは生まれる可能性があるんだ」ということが知れたので、「何事もあまり後ろ向きに捉えないんでいいんだな」というのは、この大変な状況があったからこそ感じたことです。
『連続ドラマW コールドケース3 ~真実の扉~』は、12月5日(土)よりWOWOWプライムにて放送スタート。毎週土曜22時~全10話/第1話無料放送
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