日本企業のライブコマースへの挑戦

日本国内の事例も見ていきましょう。イベントでは、ライブコマースに取り組む3社が自社の取り組みを紹介しました。

ソフマップは、2018年頃にライブコマースに参入しました。コロナ禍によってリアルなイベントが制限されたため、これまで以上に活用しているとのこと。代表取締役社長の渡辺武志氏は、ライブコマースにはテレビショッピングなどと比較してコストがかからないため、何度も試行錯誤ができることも魅力だといいます。また、ライブで商品を伝えるだけでも大きな宣伝効果があるとしたうえで、「何をゴールにするかが大事。知ってもらうことなのか、売り上げることなのか」と語りました。

今年夏からライブコマースに参入したのはディノス・セシール。既存顧客にもっと購買を楽しんでもらいたいという意図があったとのこと。ディノスマーケティング本部の柴田尊史氏は「紙面の都合でカタログに掲載できず、泣く泣くカットしている情報がある。そうした情報をライブで伝えることで関心を持ってもらえるのではないか」と期待を寄せています。

また、実際に出演するのは商品について詳しく説明できる人が適任とのことで、同社では担当バイヤーが出演し、商品への想いや熱量を直接伝えることを重要視していると話していました。顧客とのタッチポイントを増やし、既存のファンに商品を知ってもらうことで、顧客のエンゲージメントを上げる手段としても位置づけているのです。

日本のEコマースを長年先導してきた楽天は、楽天市場が掲げる「Shopping is Entertainment!」の要素をライブコマースに見出していました。市場広告部ジェネラルマネージャーの春山宜輝氏はこう語ります。

「楽天市場では、冬になるとカニがよく売れるんです。カニや生産者の写真だけでなく、『箱詰めしてこれから送ります!』といったように臨場感のある映像があったら面白いでしょう。翌日そのカニが家に届いたら、すごくテンションが上がるんじゃないでしょうか」

そして、Eコマースの「便利さ」と、実店舗で商品を手に取って買う「安心」や「納得」をバランスよく兼ね備えたショッピング体験を提供することが必要だと話しました。加えて、出品者・購入者が共に簡単にライブコマースに関われる環境づくりが重要だとし、「24時間365日、約5万の店舗がいつでもライブコマースが放映できている」状態を目指したいという展望も語りました。

一方で、日本におけるライブコマースにはまだ課題が多いという指摘もありました。どこでも手軽に動画を見られるような通信環境や料金体系の整備、顧客をプラットフォームに誘導するための集客手法など、解決すべきことがいくつもあります。

売上や視聴者数だけではない、総合的なデータ分析が必要

ライブコマースはあくまでも商品を販売する手法の1つであり、他の手法と同様、適切な効果測定が必要です。

動画活用の効果を分析する場合は、「動画がユーザー体験にどのような影響を与えているか」を可視化することが重要です。再生数や視聴時間といった数字だけでなく、個々のユーザーが動画視聴前はどのような行動をしていて、視聴後はどのような行動を取り、結果的に購買につながっているのかといったことを知る必要があります。

こうしたユーザー体験の可視化・分析は、トレジャーデータの提供するCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)とブライトコーブの提供する動画配信プラットフォームを連携することで可能になります。動画視聴データやWeb分析データ、個別の会員情報などをひもづけて分析することで、動画やライブ視聴が顧客体験をどのように変化させたか知ることができます。

過去にライブコマースに取り組み、既に撤退してしまった日本企業も多く存在します。これから挑戦する企業にとって重要なポイントとなるのは「何をKPIにするのか」でしょう。

中国のようなインフルエンサーに頼って爆発的な売上を狙うのは、日本市場ではなじまないように思われます。ライブコマースのみの売上には過度にこだわらず、既存顧客の満足度を高めたりライブ自体を楽しんでもらったりといった「顧客体験の向上」をKPIに設定し、オンラインとオフラインを統合した視座を持つことが必要なのではないでしょうか。

著者プロフィール

ブライトコーブ株式会社 マーケティングマネジャー 大野耕平


大手独立系slerにてソリューション営業を10年経験後、2016年にブライトコーブ入社。3年間の営業を経験した後、2019年より現職。さまざまな角度で、企業における動画活用の啓蒙に注力し、様々なイベントやメディア取材で講演をしている。また、日本における大企業内での社内広報や従業員エンゲージメントにおける動画活用の提案も多数実施している。