5G時代の到来とともに、動画コンテンツが活用される場面は増えていきます。Eコマースも例外ではありません。中国では、ライブ配信をしながら商品を販売する「ライブコマース」の市場が2020年度は15兆円規模に成長すると言われています。今後、日本でも「ライブコマース」は生活に根付いたサービスになっていくのでしょうか?

2020年は新型コロナウイルスの流行によって、動画市場の成長が加速した年でもあります。ステイホームやテレワークによって動画コンテンツに触れる機会が急激に増加し、国内における小売業に関する動画視聴回数は昨年比223%も増加しました。エンターテインメントやニュースといったコンテンツの視聴回数は、今年1月の3月までにかけての期間と比較して、外出自粛が発出された4月から6月にかけてはほぼ2倍に増加しています。こうしたデータは、動画配信プラットフォームを提供するブライトコーブが発行した調査レポート「GLOBAL VIDEO INDEX」で公開されています。

さまざまな分野で動画活用が大きく進んでいくこれからの時代、Eコマースの分野ではどのように動画活用が進んでいくのでしょうか?本稿では、ブライトコーブが登壇したオンラインセミナー「PLAZMA13」の講演内容をもとに、Eコマースにおける動画活用のポイントを紹介しましょう。

中国のライブコマースから学べることとは?

中国ではライブコマースが大きな広がりを見せています。2019年の中国におけるライブコマースの流通は6兆6000億円。2020年には15兆円規模になると予想されています。

  • 中国におけるライブコマース市場の規模 資料:data.iimedia.cn

中国のライブコマース市場の特徴は、KOL(Key Opinion Leader)を活用して販売する手法です。わずか15分で1万5,000本の口紅を売った「口紅王子」こと李佳琦氏(Austin)の事例は日本でも話題になりました。しかし、華やかで成功しているイメージはあるものの、出演料の高騰や商品の安売りによる利益率の低下もあり、企業としては必ずしも採算が合っているわけではないようです。

中国Eコマース市場に詳しいhoppin 代表取締役CEOの滝沢頼子氏は「日本でもインフルエンサーを起用する流れはあるが、表面的に『誰を使うか』を考えるのではなく、コンテンツを中心に据えた検討をする必要がある」と語っていました。

中国市場のもう1つの特徴として、電子決済が広く普及しており、サービスの数が限られている点も挙げられます。AlipayやWeChat Payなど、オンライン・オフライン問わず広く利用できる電子決済サービスが存在している中国では、Eコマースサービスと電子決済サービスがうまく連携しています。日本のようにさまざまな電子決済サービスが乱立している状況では、消費者にとって利便性が低下する場合があります。

それでは、日本でライブコマースを成功させるには、強力な決済サービスを作る必要があるのでしょうか?顧客時間 共同CEOの奥谷孝司氏は、「ゼロからAlipayやWeChat Payのような存在を作るよりも、既存のサービスのつなげ方を学んでいく必要があるでしょう」と言っています。

中国の成功例は華々しいですが、奥谷氏は「国によって志向は違うため、ライブコマースのスタイルは国ごとにチューニングする必要がある」と指摘していました。滝沢氏も同様に「中国の事例をコピーして持ってきても成功は難しい。『なぜ成功しているのか』に着目し、視座を一段上げることが必要」と話しました。

テレビショッピングが普及した韓国におけるライブコマース

続いてのセッションでは、韓国のライブコマース市場を開拓した先駆者ともいえる、ハ・ジス氏をゲストに迎えました。韓国における2019年のライブコマースの市場規模は約3兆ウォン(約2,700億円)ですが、2023年には10兆ウォン(約9,000億円)にまで膨らむのではないかといわれています。

ジス氏が所属していたTMONは、韓国のライブコマースを発展させた企業の1つです。自社の競争力を高めるためにライブコマースに参入して事業拡大を行い、売り上げを大きく伸ばすことに成功しました。

ライブコマース事業を新たに展開する際、ターゲット層は広く取るべきかニッチを狙うべきかという質問に対し、ジス氏は「自社のプラットフォームにとって重要な顧客層を認識し、そうしたコアユーザーに訴えかける商品から進めていくのが良い」と話しました。

TMONの場合は30代の主婦層が主な顧客だったため、オムツやウェットティッシュといった育児用品を中心にライブコマースを開始しました。コアなユーザー層に「TMONのライブコマースを見ればオムツが安い」という認識が広がり、そこから次々に成果につながっていきました。

韓国ではおよそ20年前からテレビショッピングが広く普及しています。「この価格で買えるのは今だけ」といった限定感を消費者に訴求する手法は、テレビショッピングで用いられてきたものです。さらに「今このプラットフォームで買うとポイントが付く」といった手法で、ライブ配信中に商品を購入するメリットを訴求し、よい買い物ができたという体験を広めていくことで、韓国のライブコマースは規模を拡大してきました。テレビショッピングが普及しているという点は、日本の状況は韓国に近いといえそうです。