3月から世界中で大流行している新型コロナウイルスにより、人々の生活は変化を余儀なくされています。中でも大きな打撃を受けているのが外食産業。日本でも緊急事態宣言が出された4月以降、大幅に売り上げが減り、規模の縮小が迫られている企業もあります。

一方で「Go to Travel」「Go to Eat」キャンペーンというプラス要素も出てきています。これから回復が見込まれる外食産業の企業とは、どのようなところなのでしょうか。

コロナ禍でも業績悪化の影響を留め、株価は高値を更新しているスシローグローバルHDなどの業績を分析しながら考えます。

  • 最もコロナの影響が大きかった4-6期、くら寿司とカッパ・クリエイトが赤字に転落する中、スシローだけが黒字を維持した理由

    コロナ禍でもスシローの株価が好調な理由 - "買い"の外食産業銘柄はどう選ぶ?※会社HPより引用

コロナ禍で外食産業の明暗を分けたのは「デリバリーへの対応力」

まずは、コロナ禍におけるファーストフードの売上高推移(日本フードサービス協会より引用)を業態別に見ていきましょう。

  • ファーストフードの売上高推移(日本フードサービス協会のデータを元に筆者が作成)

洋風や和風の業態は店内飲食の減少を持ち帰りやデリバリーなどでカバーできたため、新型コロナの影響が直撃した3月・4月でも落ち込みが小さくなっているのが分かります。

一方で、来店がメインの麺類は大きな打撃を受けていますね。

そして持ち帰り米飯/回転すしに関しては、来店がメインでありつつも、デリバリーの供給体制がすでにあったため、外食全体と比較して大きな落ち込みはなかったと考えられます。

また5月以降はデリバリーの定着と店内需要の回復が相まって前年比90%ほどで安定した推移となっています。このように持ち帰りやデリバリーなど、店内飲食だけでなく幅広い選択肢がある業態は、外部環境の変化にも対応できていたことが読み取れます。

スシローグローバルHDの強さがわかる、回転すし大手2社との"2つの差"

そんな回転すし業態の中でも抜群の安定感を誇っているのが「スシロー」を運営するスシローグローバルHD(3563)です。直近の2期間の決算では、最もコロナの影響が大きかった4-6期でも営業利益で黒字を確保しています。

一方でこの期間、「くら寿司」を運営するくら寿司(2695)、「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイト(7421)2社は赤字に転落しています。このような結果を生んだ背景には、何があるのでしょうか。

  • 3社の売上高、営業損益、最終損益の比較

1つめは、前項で紹介した「デリバリーへの対応力」に差があることが挙げられます。

スシローグローバルHDは19年9月の時点でデリバリー対応店舗が75であったのが、20年9月末には199店舗へ拡大しており、対応店舗は全店舗に対し35%にも上ります。

一方でくら寿司とカッパ寿司は3月末時点でそれぞれ20店舗、53店舗とスシローグローバルから後れをとっています。

コロナは予想外の動きではありましたが、デリバリーの仕組みがすでに定着していたか、コロナを機に積極的に導入をしていったかの差が業績にも表れているのではないでしょうか。

2つめは「コスト管理」の差です。前年度通期の業績における「販売費及び一般管理費」(企業活動を遂行するためにかかっているコスト)の比率を見てみると、くら寿司とカッパ・クリエイトが約50%であるのに対し、スシローグローバルHDが約44%と6%ポイントの差があります。

結果として、本業のもうけを表す「営業利益率」は、スシローグローバルHDが7%超に対し、くら寿司は約4%、カッパ・クリエイトが約1%と大きく違いが出ています。コスト管理の違いによりもうける力に差がうまれ、それがそのままコロナ禍での業績の明暗に直結してきていると考えられます。

  • 3社の売上高、売上原価、販管費、営業利益。スシローの営業利益率が最も高いのがわかる

コロナ後も勝ち残る外食産業とは?

一方で回転すしチェーン3社における既存店売上高を見てみると、直近では変化の兆しが出てきています。

7月までは各社同じような動きをし、カッパ寿司がやや減少率が大きい形で推移していましたが、くら寿司が8月以降高水準で推移しています。

これは鬼滅の刃とのコラボキャンペーンを6月に実施し大きな集客成果をあげたのに加え、9月から再度開催されていることが挙げられます。税込2,000円以上の購入でクリアファイルをプレゼントするキャンペーンであり、客単価の増加に寄与していることがデータからも読み取れます。

このように、社会の変化に対して柔軟に対応できる企業が、これからの競争に勝っていくのではないでしょうか。

  • 3社の既存店売上高の推移

外食産業全体を見てみると、例えば全体で150店舗の閉店を発表した吉野家ホールディングス、2021年までに200店舗の閉店を発表したすかいらーくホールディングスなど、規模の縮小も目立ち始めています。

一方で閉店と聞くとネガティブな印象を持ちますが、前向きに捉えることもできます。

業績を良くするためには売り上げを上げていくことが大前提としてありますが、コストを少なくすることで残る利益を増やしていくことも可能です。

吉野家ホールディングスを例に挙げても、メインの吉野家の閉店予定数は40程度にとどまり、京樽関連店舗の閉鎖予定の方が多くなっています。不採算店の削減、オペレーションの効率化などがポジティブに作用する面も期待できます。

業種によって利用形態、時間帯などが異なり、同じコロナ禍においても置かれている状況が変わってきている外食産業。銘柄探しにおいては、売上高だけではなく、企業のコスト意識や社会の変化に対応できているかなど、複数の観点から見ることが、改めて大切になってくると思います。

Finatextグループ アナリスト 菅原良介

1997年生まれ、Z世代のアナリスト。早稲田大学 政治経済学部 経済学科に在学中は「株式投資サークルForward」の代表を務め、大学生対抗IRプレゼンコンテストで準優勝を獲得。2年間の長期インターンを経て、2020年Finatextに入社。現在はFinatextグループで展開される投資・証券サービスのディレクターを担当。コミュニティ型株取引アプリSTREAM内で開催されるイベントのモデレーターも務める。