米国時間2020年12月1日、Salesforce.comはSlaskの買収を発表した。
Salesforce.comは約277億ドル(約2.9兆円)を投資し、ビジネスチャットツールを自社ソリューションとして取りそろえたことになる。CRM(顧客関係管理)システムを提供するSalesforce.comはCommunity CloudやEinstein for Serviceなど、顧客に対するチャット・AIチャットボットソリューションを備えているが、Slackのような組織のメンバー同士がコミュニケーションを図る術を持っていなかった。コロナ禍における新常態を踏まえてSalesforce.comが、ビジネスチャットツールの雄であるSlackの買収を決断したのは自社の優位性を高めるためでも必然といえるだろう。
SlackはMicrosoftが提供するビジネスチャットツールのMicrosoft Teamsと競合してきた。互いの利用者数を表明することで優位性を示し、Slackは2020年7月31日に終了した第2四半期時点で13万人の有料顧客が存在すると発表。MicrosoftもMicrosoft TeamsのMAU(月間アクティブユーザー)数が1億1,500万人を突破したことを2021年度第1四半期の決算で発表した。両社が異なる土俵で異なる数字を示すのは、Slackがオープンなコミュニティ間の利用を目的としていることに対し、Microsoft Teamsが組織内のコミュニケーションに重きを置いている違いもあるのだろう。現時点で両社の優位性を明確に示す数値は公表されていない。
MicrosoftとSalesforce.comは2019年11月に戦略的提携を発表しているが、これはMicrosoft Azureの利用場面を増加させる施策の1つでしかない。国内の商法にある"右手で握手し、左手で殴り合う"はグローバルのIT業界にも共通し、SaaSソリューションを手がけるSalesforce.comが自社の存在感を増すためにSlackを陣営に取り入れた意図は明確だ。IT企業は優秀なスタートアップを買収して成長を遂げており、同社を例に挙げれば2019年8月にBIソリューションのTableauを約153億ドル 円(約1兆6,600億円)で買収し、自社ソリューションで得られるデータの可視化を実現している。今回のSalesforce.comのSlack買収から企業顧客が直接影響を受ける可能性は低いものの、IT業界の勢力図を変化させる一端となることは疑うべき余地はない。
阿久津良和(Cactus)