ジャストシステムは12月1日、ワープロソフト「一太郎」と日本語入力システム「ATOK」の次期バージョンを発表。2021年2月1日にWindows版およびmacOS版「ATOK Passport」をバージョンアップし、「一太郎2021」「一太郎2021 プラチナ」を同年2月5日に発売する。

  • 毎年12月は新しい「一太郎」と「ATOK」が発表される季節

合わせて、「ATOK Passport [プレミアム]」で提供中の「ATOK for Android [Professional]」の入力支援機能「ATOKディープコレクト」を強化し、2020年12月1日に公開。ジャストシステムは新しい一太郎について、「文書作成の最強装備を目指した」(同社ソリューションストラテジー事業部 企画開発グループ 佐々木孝治氏)、新ATOKについても「(コロナ禍の影響で)テキストベースのコミュニケーションが変化し、ATOKが寄与する範囲が広がった」(同社ソリューションストラテジー事業部 企画開発グループ 下岡美由紀氏)と、各アプリケーションのコンセプトを説明した。

ビジネス文書の校正や引用・出典明示機能を備えた「一太郎2021」

「一太郎2020」では、スマートフォンやタブレットで使用する「一太郎Pad」を用意し、利用範囲をPCの外に拡大させたが、新バージョンはさらなる連携強化を図った。一太郎2021で編集中の文書を一太郎Padにワイヤレス転送(インターネット経由)する機能を新たに備え、自宅や仕事場はPCで文書を、移動中はスマートフォンやタブレットで文章入力を行える。

新機能として、二次元コードを作成して文書に挿入する機能も加わった。ジャストシステムは「Webページへのアクセスが容易になると同時に、文書の省スペース化に寄与する」(佐々木氏)と話す。

一太郎PadからPCに文章を取り込む場合には、文書のタイトルや段落を自動変換する機能も備えた。たとえば行頭に「#(シャープ)」がある場合は大見出し、「##」なら中見出し、「###」なら小見出しといったように、7段階の段落スタイルを設定できる。

文字入力を支援する省入力ツールも、上記の見出しに用いるシャープや丸括弧、二重カギ括弧入力ボタンが加わり、用途に応じて5種類のボタンセットを切り替えられるようになった。ヘッダー部分には入力した文字数を数える機能が加わっているが、「ユーザーから要望が多かった機能の1つ」(佐々木氏)とのことだ。

  • 一太郎Padで行頭に「#」を付ければ、一太郎に取り込む際に見出しに変換される

  • 省入力ツールの切り替えや、入力文字数のカウントなど入力支援機能も強化された

一太郎2021自身の新機能は3点ある。

1つめは引用・出典機能。論文などで他の著作物を副次的に用いる場合、引用先や本文と異なる点を明確にしなければならないが、クリップボードにコピーした文字列を一太郎2021の文書に貼り付けるとき、引用・段落・脚注として挿入するか確認を求めるようになった(ペースト時に確認を出したくない場合はオプション設定で無効にできる)。

カーソル位置に貼り付ける場合はカギ括弧で囲み、段落として貼り付ける場合は前後に空行を含んで行頭から2字下りの段落として挿入する。脚注として挿入する場合は脚注番号とともに文章の末尾に出典を挿入する仕組みだ。文字列がURLを含む場合は、自動的にハイパーリンクも設定される。これなら、著作権法が定める「明解な区別」という条件を満たせるだろう。ただし、「引用部分は『従』」、つまりオリジナルの文章量が多く、引用した文章は必要最小限とすることまでは考慮されていない。ジャストシステムも「今後の課題」(佐々木氏)とした。

引用語句の情報源である出典を明示する際は、署名や発行者、発行年数などを記載するのが通例だが、各情報を入力することで出典文章として自動整形した文章を挿入する機能も追加。通常形式に加えて、教育現場などで用いる「調べ学習」「SIS(科学技術情報流通技術基準)」「APS(米国心理学会)」形式に対応する。

  • Webページなどからコピー&ペーストした文字列を通常のテキストではなく、文書内の引用文として貼り付けられる

2つめはビジネス文章の校正機能。社外に出す文章は正確性やていねいさ、礼儀が求められるが、必ずしも万人が正しく書けるわけではない。たとえば「ご担当者様各位」ではなく「ご担当者各位」が正しいし、「ご利用できます」も敬語の誤用で、「ご利用になれます」と記述すべきだ。また、口語で使う「御社」の文語は「貴社」である。メールに「御社」と書いていないだろうか。

これまでも一太郎シリーズは文章校正機能を備えてきたが、一太郎2021は文書校正設定として、「ビジネス文(だ・である)」「ビジネス文(です・ます)」の2つを追加することによって、ビジネス文章の作成に不慣れなユーザーを支援する。さらに「株式会社○○」「××株式会社」のように、法人名には「前株」「後株」があり、相手の正確な社名を間違えるという失礼を防ぐ機能も加わった。一太郎2021は、金融庁のEDINETに掲載された約3,700社の上場企業名をデータとして保持し、過ちを校正機能でチェックできる。

  • ビジネス文章や企業名をチェックする文書校正設定が新たに加わった

3つめはUDデジタル教科書体を用いた教材ワークシート。以前から一太郎は文書の最適なレイアウトを選択できる「きまるスタイル」機能を備えてきたが、今回新たに教材カテゴリーを追加した。小学校の低学年・中学年・高学年、および中学校向けに合計60点の教材用スタイルを用意。学校向けテンプレートも42点用意する。文教向け機能を強化した理由としてジャストシステムは、「主要ユーザー層である40~60代の教員に一太郎を使っていただいている。特に国語の先生が多い」(佐々木氏)とする。

  • 小学校低学年から中学生向けの教材ワークシートなど、教育の現場で役立つデータを用意

上位エディションとなる「一太郎2021 プラチナ」は、フォントワークス製フォントの「筑紫書体」11書体(明朝6書体・ゴシック3書体・丸ゴシック2書体)、「UDフォント」6書体(明朝・ゴシック・丸ゴシック各2書体)の計17書体が付属する。さらにATOKの電子辞典として利用可能な「新明解国語辞典第8版 for ATOK」「新明解類語辞典 for ATOK」も加わった。特に類語辞典は、現在も単独購入可能な「角川類語新辞典 for ATOK」を除けば、一太郎2019 プレミアムの「日本語シソーラス 第2版 類語検索辞典 for ATOK」から数えて2年ぶりだ。

本稿執筆時点ではベータ版を試用する機会を得られていないが、電子辞典を多用するATOKユーザーは注目すべきポイントとなる。ほかにも、文書を音声で読み上げる「詠太(えいた)11」は、男性話者「TAKAERU」が加わって5話者に拡大し、会話文を別の話者で読み分ける機能が加わった。グラフィックソフトの「花子2021」は二次元コードの作成機能を実装し、イラスト部品として47都道府県の名所や文化、特産をピクトグラムとして収録している。

  • 一太郎2021 プラチナには、フォントワークスの筑紫フォントとUDフォント、計17書体が付属

  • 筑紫書体は明朝6書体・ゴシック3書体・丸ゴシック2書体と計11書体を用意

  • UDフォントは明朝・ゴシック・丸ゴシック各2書体で計11書体を用意

  • ATOKの電子辞典としても使える「新明解国語辞典第8版 for ATOK」と「新明解類語辞典 for ATOK」

  • 一太郎2021と一太郎2021 プラチナの構成

テキストチャットの口語に配慮した新ATOK

最新のATOKは、コミュニケーションのあり方を見直すと同時に、校正機能の強化やATOK for Android [Professional]の機能強化を図った。深層学習(ディープラーニング)の成果を盛り込んだATOKディープコアエンジンを搭載したのは、2017年2月に登場したATOK 2017 for Windowsから。すでに3年が経過している。

その間、文字入力を支援するATOKディープコレクト(2018年2月)の搭載や、同エンジンをATOK for Android [Professional]に展開(2018年12月)するなど機能強化に努めてきた。2020年2月に提供を開始した現行版は、句読点をまたいだ長文を学習機能に追加した連想変換強化などにとどまった。長年使ってきたATOKの進化に陰りが見えたように思っていたが、新ATOKは心臓部となるATOKディープコアエンジンに改良の手を入れている。

抽出した日本語の特徴を変換機能に盛り込んだATOKディープコアエンジンは、コロナ禍におけるコミュニケーションのあり方に注目し、テキストチャットで多用する口語をスムーズに変換できるようになった。たとえば「依頼入ってる?」とSkypeなどに入力したいしよう。ATOKは「依頼は」「いってる?」と認識し、「依頼入ってる?」とは変換しない。「依頼」「入っている?」の間に本来なら必要な助詞が抜けているからだ。

このような口語の表現をそのまま変換できるのが、新ATOKで最大の特徴となる。以前からATOKは変換モードとして「話し言葉」などを用意し、同様の変換結果を期待できたのだが、今回の新機能は多くの場面で用いる「一般」変換モードで使える。ジャストシステムは「多くの文章を(深層学習に)読み込ませ、文法にのっとった解析ではなく、登場頻度が高い文節などを解析し、ふさわしくない語句の優先順位を下げることで実現。変換精度を下げることなく一般モードで対応可能にした」(下岡氏)と説明する。

  • 一般モードで話し言葉のスムーズな変換に対応したATOKディープコアエンジン

校正機能では、新たに地名チェックと、変換確定後に再チェックする「見逃し指摘ビューア」を実装した。前者は「博多市」など、存在しないが意外と間違いが多く見られる「市」に関する名称の間違いを指摘する機能だ。小さな改善点かもしれないが、日本全国を出歩かない筆者としては興味深い。

後者は、確定直後やコンテキストメニューから機能を呼び出すことで、変換時に見落とした誤用や誤変換をチェックする機能だ。入力カーソル位置に通知アイコンが現れ、このアイコンをクリックしたタイミングで校正機能を呼び出す。余談だが、ジャストシステムの文章校正支援ツール「Just Right!」シリーズは、2016年の「Just Right!6 Pro」から更新されていない。一太郎やATOKもさることながら、校正機能に特化したJust Right!シリーズの新版にも期待したい。

  • 校正機能には、実在しない地名変換を指摘する機能が加わった

  • 変換確定後に文章を校正する機能も加わっている

  • 「見逃し指摘ビューア」はコンテキストメニューの項目以外にも、誤りを検出すると現れる通知アイコンから呼び出せる

また、ATOK for Android [Professional]に加わったATOKディープコレクトは、Windows版やmacOS版の同名機能と類似し、入力を支援する機能だ。PCのキーボードと異なり、スマートフォンは3×4のタッチパネルをフリックして文字入力するというUI上、スマートフォンのディスプレイサイズによって入力体験が左右してしまう。

「しんかんせん」と入力する場面で「しんか」まで入力し、続いて「わ行」から「ん」を選択すべきところを、タッチミスで「や行」から異なる文字を入力してしまった場面を想定してほしい。ここでATOKディープコレクトが入力文字列などから読みを補正し、「しんかゆ」ではなく「しんかん」と認識して、変換候補を提示してくれる。適用範囲は「っ」(促音)や「ょ」(拗音)の入力ミスにも対応し、変換候補領域の表示と選択も縦横のスクロールが可能だ。ATOK for Android [Professional]は、月額550円(税込)のATOK Passport [プレミアム]契約ユーザーにのみ提供され、月額330円(税込)のATOK Passportユーザーには提供されない。

  • ATOK for Android [Professional]使用時はわずかなタッチミスも自動修正される

  • 拗音や促音の入力ミスも自動修正

  • ATOK Passportの構成