NVIDIAは12月1日23時、RTX 3000シリーズのミドルレンジGPU「GeForce RTX 3060 Ti」を発表した。9月1日に行われたRTX 3000シリーズの発表では、GeForce RTX 3090GeForce RTX 3080GeForce RTX 3070を紹介していたが、このRTX 3060 Tiの存在は明らかにされておらず、いつミドルレンジGPUが投入されるのかと待っていた人も多いのではないだろうか。

  • GeForce RTX 3060 Ti Founders Edition。価格は399ドル

    GeForce RTX 3060 Ti Founders Edition。価格は399ドル

RTX 3060 Tiの特徴はズバリ“RTX 2080 SUPERより高速で399ドル”だ。この399ドルは日本では発売されないFounders Editionの価格なので参考程度にしかならないが、RTX 2080 SUPERは前世代(Tuning)のハイエンドGPUで登場時は699ドルだった。これが本当ならば、価格破壊と言える性能だ。ただし、これはNVIDIAが語るところの特徴であり、本稿では実際に2080 SUPERとの性能差はどうなのかテストしていくのが中心となる。

Ampere世代の高性能を扱いやすいスペックで

まずは外観をチェックしておこう。見た目は完全にRTX 2070 Founders Editionと同じだ。裏面にある「RTX 3060 Ti」の文字でしか判別ができない。ファンの風を裏面から送り出し、放熱性を高めるDual Axial Flow Throughを採用し、補助電源コネクタにはRTX 3000シリーズのFounders Editionではおなじみとなった小型12ピンのMicro-Fitを採用する。Micro-Fitを通常の8ピンに変換するケーブルが付属するため、一般的な電源でも問題なく使用可能だ。

  • 2基のファンを搭載。見た目はRTX 3070 Founders Editionとまったく同じだ(すごくよく見ると、ガワの色が3070はガンメタ、3060 Tiは明るいシルバーという違いがあるらしい)

  • スロットから遠いほうのファンの裏はスリット構造で空気を送り出せる作り

  • 出力はDisplayPort×3、HDMI×1。HDMIは8K出力が可能なHDMI 2.1対応だ

  • 補助電源コネクタは12ピンのMicro-Fit

  • 通常の8ピンに変換するケーブルが付属。RTX 3080 FEは8ピン×2に変換するケーブルが付属していた

  • RTX 3060 Tiの基板。RTX 3070と同じくコンパクトだ

続いて基本スペックを確認しよう。すでに発表済みのRTX 3080/3070と同じくAmpereアーキテクチャを採用、Samsungの8nmをNVIDIAカスタムプロセスで製造。第2世代のRTコア、第3世代のTensorコアを備え、PCI Express 4.0対応(3.0でも動作する)といった特徴も同様だ。スペックを見る限り、RTX 3070の各種コア数を抑えたモデルと言える。それにより、TGP(カード全体の消費電力)は200Wとさらに低くなった。これならば、550Wクラスの電源でも動作すると思われる。小型PCに組み込みやすいショートサイズの製品登場も期待したいところだ。

RTX 3080 RTX 3070 RTX 3060 Ti
アーキテクチャ Ampere Ampere Ampere
製造プロセス 8Nnm 8Nnm 8Nnm
SM数 68 46 38
CUDAコア数 8704 5888 4864
RTコア数 68(第2世代) 46(第2世代) 38(第2世代)
Tensorコア数 272(第3世代) 184(第3世代) 152(第3世代)
ROP数 96 96 80
テクスチャーユニット数 272 184 152
ベースクロック 1440MHz 1500MHz 1410MHz
ブーストクロック 1710MHz 1725MHz 1665MHz
メモリデータレート 19Gbps 14Gbps 14Gbps
メモリバス幅 320bit 256bit 256bit
メモリ種類 GDDR6X GDDR6 GDDR6
メモリ容量 10GB 8GB 8GB
PCI Express 4.0 x16 4.0 x16 4.0 x16
TGP(カード電力) 320W 220W 200W
参考価格 699ドル 499ドル 399ドル
RTX 2080 SUPER RTX 2070 SUPER RTX 2060 SUPER
アーキテクチャ Turing Turing Turing
製造プロセス 12nm 12nm 12nm
SM数 48 40 34
CUDAコア数 3072 2560 2176
RTコア数 48(第1世代) 40(第1世代) 34(第1世代)
Tensorコア数 384(第2世代) 320(第2世代) 272(第2世代)
ROP数 64 64 64
テクスチャーユニット数 192 160 136
ベースクロック 1650MHz 1605MHz 1470MHz
ブーストクロック 1815MHz 1770MHz 1650MHz
メモリデータレート 15.5Gbps 14Gbps 14Gbps
メモリバス幅 256bit 256bit 256bit
メモリ種類 GDDR6 GDDR6 GDDR6
メモリ容量 8GB 8GB 8GB
PCI Express 3.0 x16 3.0 x16 3.0 x16
TGP(カード電力) 250W 215W 175W
参考価格 699ドル 499ドル 399ドル

その一方で、RTX 3060 TiのCUDAコア数は4864基とRTX 2080 SUPERの3072基を上回る。RTX 3000シリーズのCUDAコアモンスターぶりは、ミドルレンジでも健在だ。ディープラーニング向けのTensorコア数はRTX 2000シリーズに比べて少なくなっているが、設計の改善によりAI処理性能は最大2倍に高められている。

  • RTX 3060 Ti FEのスペックをGPU-Zで表示させたところ

  • Power LimitはOCできる最大値が110%と設定されていた

  • Power LimitをWで表示。標準で200W、最大で220Wまで引き上げられる

さて、ここからは実際の検証に移ろう。グラフィックスカードはRTX 3060 Ti FE、RTX 2080 SUPER FE、RTX 2060 SUPERの3種類だ。注目はNVIDIAがうたう「RTX 2080 SUPER超え」が本当なのか、そして前世代の同ポジションであるRTX 2060 SUPERに対して、どこまで性能が向上しているのか、の2点だろう。

検証環境は以下の通りだ。OSはWindows 10 Pro 64bitで最新のOctober 2020 Updateにしている。ドライバーはRTX 2080 SUPER FE、RTX 2060 SUPERに関しては原稿執筆時点で最新のバージョン「457.30」、RTX 3060 Ti FEに関してはレビュー用に配布された「457.40」を使用した。

■テスト環境
CPU AMD Ryzen 9 5900X(12C24T)
マザーボード MSI MPG X570 GAMING EDGE WIFI(AMD X570)
メモリ センチュリーマイクロ CD8G-D4U3200H×2(DDR4-3200、8GB)
グラフィックスカード NVIDIA GeForce RTX 3060 Ti Founders Edition
NVIDIA GeForce RTX 2080 SUPER Founders Edition
NVIDIA GeForce RTX 2060 SUPER Founders Edition
システムSSD Kingston KC600 SKC600/1024G(Serial ATA 3.0、1TB)
データSSD Samsung SSD 980 PRO MZ-V8P1T0B/IT(M.2、PCI Express 4.0 x4、1TB)
CPUクーラー Corsair iCUE H115i RGB PRO XT(簡易水冷、28cmクラス)
OS Windows 10 Pro 64bit版(October 2020 Update)

◆ベンチマーク: 3DMark 2.16.7094

さっそく定番の3DMarkから見ていこう。3DMarkは大規模アップデートが行われたバージョン「2.16.7094」を使用している。Port Royal以外はRTX 3060 TiがRTX 2080 SUPERを見事に上回った。RTX 2060 SUPERに対しては20~30%の性能向上を見せている。

◆ベンチマーク: ファイナルファンタジーXIV

続いて、これまた定番ベンチマークの「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」だ。ここでもキッチリとRTX 3060 TiがRTX 2080 SUPERをすべての解像度でギリギリ上回る。RTX 2060 SUPERに対しては、高解像度ほどスコアに差が開いている。

◆ベンチマーク: レインボーシックス シージ

次は軽めのゲームを見てみよう。「レインボーシックス シージ」の内蔵ベンチマーク機能を使用してフレームレートを測定。各解像度の平均フレームレートを掲載する。ここでもキッチリとRTX 2080 SUPERに勝利。RTX 2060 SUPERに対しては30%以上の性能向上を確認できる。360Hzの超高リフレッシュレート液晶が登場した現在、フルHDをそれを超えるフレームレートを維持できるのは大きな強みと言っていいだろう。

◆ベンチマーク: Apex Legends

今度は中量級と言える人気のバトルロイヤル系ゲームの「Apex Legends」と「フォートナイト」を試して見たい。Apex Legendsはフレームレート制限を解除し、トレーニングモードで一定コースを移動した際のフレームレートをCapFrameXで測定した。Apexは画質に関するプリセットが用意されていないので、各画質をすべて一番上の設定にした上で測定している。負荷の大きい4K解像度でRTX 2080 SUPERと同フレームレート、それ以外はRTX 3060 Tiが上回った。

◆ベンチマーク: フォートナイト

フォートナイトはソロプレイのリプレイデータを再生(約4分)した際のフレームレートをCapFrameXで測定した。ここではDirectX 11に設定して測定している。レイトレーシング使用時については後半で紹介する。フォートナイトでは、RTX 3060 TiのAmpereアーキテクチャと相性がいいのか、フルHD解像度ではRTX 2080 SUPERに対してフレームレートが約10%上回るなど明確な差が出た。Ampereアーキテクチャではゲームでよく使われるFP32(32-bit浮動小数点演算)の同時実行数が強化されており、それがゲームとかみ合えば、高い性能が発揮できるとみられる。

◆ベンチマーク: モンスターハンターワールド

重量級ゲームではどうだろうか。「モンスターハンターワールド:アイスボーン」のほか、発売されて間もない「ウォッチドッグス レギオン」、「アサシンクリード ヴァルハラ」で試して見たい。モンスターハンターワールド:アイスボーンは集会エリアを作成し、一定のコースを移動した際のフレームレートをCapFrameXで計測している。ここでも、しっかりとRTX 2080 SUPERに勝利。WQHDでも平均84.9fpsを叩き出している。

◆ベンチマーク: ウォッチドッグス レギオン

ウォッチドッグス レギオンはゲーム内のベンチマーク機能を利用した。フォートナイトと同じく、レイトレーシング使用時は後半にまとめて紹介する。これも同傾向だ。RTX 3060 TiはWQHDで平均59fpsとゲームを快適に遊べる目安である60fpsにほぼ到達しているのが注目ポイントだろう。

◆ベンチマーク: アサシンクリード ヴァルハラ

アサシンクリード ヴァルハラもゲーム内のベンチマーク機能を利用した。解像度スケール設定は筆者が試す限り環境によってデフォルト設定が50%になったり80%になったりするので、ここでは100%に固定した。ここでもRTX 3060 TiはRTX 2080 SUPERに勝利し、WQHDで平均60fpsに到達。最新ゲームを最高画質設定にしてもWQHDで60fps出せるのはかなり魅力的だ。

◆ベンチマーク: レイトレーシング性能

RTX 3060 Tiが安定してRTX 2080 SUPERを上回っているのを確認できたところで、レイトレーシングの差もチェックしたい。3DMarkに新たに加わったレイトレーシング性能を測る「DirectX Raytracing feature test」および、ウォッチドッグス レギオン、フォートナイトでレイトレーシングを有効化した状態でフレームレートを測定する。

3DMarkのDirectX Raytracing feature testでは、RTX 3060 TiがRTX 2080 SUPERよりも約20%高いフレームレートを達成している。Ampereアーキテクチャでは、レイトレーシング用のRT Coreも第2世代に進化しており、それが効いているとみられる。

それはウォッチドッグス レギオンでも同様だ。ゲーム内のベンチマーク機能で測定しているが、フルHD解像度ならばRTX 3060 TiがRTX 2080 SUPERよりも約17%高いフレームレートを出している。NVIDIAの負荷軽減機能と言えるDLSSを有効にすれば、ミドルレンジGPUでもフルHDやWQHDなら高画質かつレイトレイーシングを有効にしても問題なくプレイできるレベルになったのは歓迎すべき点だ。

フォートナイトは、同じくソロプレイのリプレイデータを再生(約4分)した際のフレームレートをCapFrameXで測定している。こちらはレイトレーシングを有効にするとかなり動作負荷が大きくなり、RTX 3060 TiのフルHD解像度でようやく平均60fpsを超える。レイトレーシングはゲームによって描画の美しさや負荷に大きく差があり、まだまだ最適化の余地あり、と言えそうだ。

◆ベンチマーク: 消費電力と動作温度

最後は消費電力や温度に目を向けてみよう。まずは、単純にシステム全体の消費電力を測ってみたい。消費電力は電力計にラトックシステムのREX-BTWATTCH1を使い、OS起動10分後をアイドル時、3DMark Fire Strikeデモモード実行時の最大を高負荷時とした。なお、TGP(カード電力)はRTX 3060 TiのTGPが200W、RTX 2080 SUPERが250W、RTX 2060 SUPERが175Wだ。高負荷時を見ると、RTX 3060 TiよりRTX 2080 SUPERは58W上、RTX 2060 SUPERは23W下。TGPの差がほとんどそのまま結果に出ている。

次に、ビデオカードの温度、カード単体の消費電力、動作クロックの推移をチェックしてみる。3DMarkのTime Spy Stress Testを5分間実行したときの数値をHWiNFOで記録した。

温度はHWiNFOの「GPU Temperature」の項目を追った結果だ。注目はRTX 3060 Tiだろう。最初こそ一番温度が高いが、2分を超えたあたりから一番低くなり、67度あたりで安定している。RTX 3060 Ti FEのクーラーの優秀さが分かる結果だ。日本では販売されないのが惜しい。

次はカード単体の消費電力の推移だ。HWiNFOの「GPU Power」の項目を追っている。アーキテクチャの違いだろうか、RTX 3060 Tiはほぼ196Wから197WとTGPの200Wに近いところで安定。RTX 2080 SUPERはブレが大きく220WからTGPの250W付近まで上がったり下がったりが見られた。RTX 2060 SUPERもブレがあり、こちらは3枚のなかで唯一TGPの175Wを超える、179Wあたりまで消費電力が増える場面があった。まあ、それでもどれもほぼ仕様通りの動作と言えるだろう。

動作クロックの推移はHWiNFOの「GPU Clock」の項目を追った結果だ。ゲーム中の実クロックの目安になるだろう。おおむねRTX 3060 Tiは1830MHz~1890MHz、RTX 2080 SUPERが1935MHz~1980MHz、RTX 2060 SUPERが1815MHz~1905MHzでの動作となった。冷却性能の差だろうか、テストの時間が進むにつれて、RTX 2060 SUPERよりもRTX 3060 Tiのほうが高クロックを維持できているのが面白いところだ。

RTX 2080 SUPERより確実に早い! WQHD環境の最適解か

さて、ここまでRTX 3060 Tiの性能をチェックしてきた。時間の関係でそれほど多くのゲームをテストできなかったのは悔やまれるが、NVIDIAがうたう「RTX 2080 SUPERより高速」は達成できているのは確認できた。今回のテストでは、3DMarkのPort Royal以外でRTX 3060 Tiが下回ったことはなかったからだ。RTX 2070がRTX 2080 Tiを超えるとうたっていたが、それは一部のテストにとどまっていた。しかし、RTX 3060 Tiは今回のテストを見る限り、ほとんどの場面でRTX 2080 SUPERを超えている。

それが399ドル。原稿執筆時点では各メーカーが投入するとみられるRTX 3060 Ti搭載カードの価格は不明だが、少なくとも10万円前後だったRTX 2080 SUPERより数万円は確実に安いはず。発熱や消費電力を見ても、RTX 3000シリーズで一番低く、扱いやすいのは間違いない。まさにミドルレンジGPUの本命と言っていいデキだ。フルHDで高フレームレートを狙う、WQHDで60fps程度のフレームレートが欲しいという用途であれば、RTX 3060 Tiで十分ではないだろうか。あとは潤沢に流通することを願うのみである。