「キャリアアップのために資格を取得したい」「手に職をつけて転職したい」……。そんなとき、資格取得や、スキルアップのための講座の受講費用を国が助成してくれる制度をご存じですか? それが「教育訓練給付制度」です。
教育訓練給付制度を上手に活用するために、制度の対象者や申請条件、対象となる講座の種類などを確認しておきましょう。
教育訓練給付制度とは? 対象はどんな人?
教育訓練給付制度とは、働く人の能力開発と中長期的なキャリアアップを支援するため、教育訓練の講座費用の一部が教育訓練給付として支給される制度です(※1)。1998年、雇用の安定と再就職の促進を図る目的から制定されました。
給付を受けられる講座は、厚生労働大臣の指定を受けたもので、その費用の一部が雇用保険から支払われます。
教育訓練には、働く人の能力開発のための「一般教育訓練」、再就職の促進や早期のキャリア形成のための「特定一般教育訓練」、中長期的なキャリア形成のために専門的かつ実践的な教育訓練を行う「専門実践教育訓練」の3種類があります。
教育訓練給付制度は基本的に受講が修了してから申請しますが、特定一般教育訓練と専門実践教育訓練は事前の手続きも必要となります。
それぞれの教育訓練について、支給対象となるのはどんな人で、どれくらい支給されるのでしょうか?
一般教育訓練の対象者
一般教育訓練の教育訓練給付金の対象となる人は、厚生労働大臣指定の一般教育訓練を修了し、下記の要件を満たす人です(※2)(※3)。
- 雇用保険の被保険者で、一般教育訓練を開始した時点で雇用保険の支給要件期間が3年以上あること。ただし、はじめて一般教育訓練を受ける人は支給要件期間が1年以上でも対象となる
- 会社を退職した人で、受講開始日が離職日の翌日から1年以内であること。また、離職日の翌日から1年以内の人が妊娠や出産、疾病などの理由で引き続き30日以上受講を開始できない場合は、ハローワークに申し出れば最大20年以内まで適用対象期間を延長することができる
一般教育訓練を修了すると、支払った受講費用(※教育訓練経費)の20% に相当する額がハローワークから支給されます。ただし、支給額の上限額は10万円です。また、受講費用が4,000円未満の場合は、教育訓練給付金の支給はありません。
※教育訓練経費 : 教育訓練を行う施設や学校などに支払った入学金および受講料の合計のこと。検定試験の受講料や講座に必要ではない補助教材などは含まない。
特定一般教育訓練の対象者
特定一般教育訓練の教育訓練給付金の支給対象者は、厚生労働大臣が指定する特定一般教育訓練を修了し、以下の要件を満たす人です(※4)。
- 雇用保険の被保険者で、特定一般教育訓練の受講を開始した日の時点で、雇用保険の支給要件期間が3年以上あること
- 会社を退職した人で、受講開始日が離職日の翌日から1年以内で、雇用保険の支給要件期間が3年以上あること(最大20年以内なら適用期間の延長が可能)
- はじめて特定一般教育訓練を受講する人は、雇用保険の支給要件期間が1年以上あれば教育訓練給付金の支給対象になる
- 前回、教育訓練給付金を受給したときから今回の受講開始日前までに3年以上経過していること
特定一般教育訓練を修了すると、支払った受講費用(教育訓練経費)の40% に相当する額がハローワークから支給されます。ただし、支給額の上限額は20万円です。また、受講費用が4,000円未満の場合は教育訓練給付金の支給がありません。
専門実践教育訓練の対象者
専門実践教育訓練の教育訓練給付金の支給対象者となるのは、厚生労働大臣が指定する専門実践教育訓練を修了する見込みがある、あるいは受講修了者で、以下の要件を満たす人です。
- 雇用保険の被保険者で、専門実践教育訓練を開始した日の時点で、雇用保険の支給要件期間が3年以上あること
- 会社を退職した人で受講開始日が離職日の翌日から1年以内、雇用保険の支給要件期間が3年以上あること。最大20年以内なら適用期間の延長が可能
- はじめて専門実践教育訓練を受講する人は、雇用保険の支給要件期間が2年以上あれば教育訓練給付金の支給対象になる
- 前回、教育訓練給付金を受給したときから今回の受講開始日前までに3年以上経過していること
専門実践教育訓練での支給額は、支払った受講費用(教育訓練経費)の50% に相当する額です。ただし、年間支給額の上限額は40万円です。また、受講費用が4,000円未満の場合は、教育訓練給付金の支給はありません。
教育訓練支援給付金とは?
はじめて専門実践教育訓練(通信制、夜間制を除く)を受講する人で、なおかつ失業手当の受給資格がある場合、教育訓練給付金を受給期間中は失業手当の給付が止まってしまいます。
このような状況にある人のうち、45歳未満の人に対しては「教育訓練支援給付金」が支給されます(※2022年3月31日までの措置)。支給額は、離職前の直近6カ月の日当から算出した基本手当(失業給付)の額の80% に相当する額です。
教育訓練給付制度の対象講座と利用方法
教育訓練給付制度には、どのような対象講座があるのでしょうか? 一般教育訓練、特定一般教育訓練、専門実践教育訓練のそれぞれの対象講座と利用する方法をご紹介します。
一般教育訓練の対象講座
一般教育訓練の対象になるは、次のような資格の講座です。
- 介護福祉士
- ケアマネジャー
- 歯科助手
- 医療事務
- 調理師
- インテリアコーディネーター
- 保育士
- 簿記検定
- ファイナンシャルプランナー
- 日本語教師
- 社会保険労務士
- 通関士
- 登録販売者
- 天気予報士 など
ほかにもさまざまな講座がありますので、資格取得ができる学校や教育施設をチェックしてみてください。
一般教育訓練の支給申請手続き
一般教育訓練の教育訓練給付金を申請するには、受講修了後に住んでいる地域のハローワークに必要書類を提出します。
- 教育訓練給付金支給申請書
- 教育訓練修了証明書
- 領収書
- 本人・住所確認書類
- マイナンバー確認書類
- 教育施設が発行した返還金明細書
- 払渡希望金融機関の通帳またはキャッシュカード
- 教育訓練経費等確認書 など
特定一般教育訓練の対象講座
特定一般教育訓練の対象講座には、以下のようなものがあります(※5)。
- 税理士、社会保険労務士、介護職員初任者研修、生活援助従事者研修など、資格が必要な業務のための資格取得講座
- 基本情報技術者試験など、情報通信技術に関する資格のうちITSSレベル2以上の情報通信技術に関する資格取得を目標とする課程
- 新たなITパスポート試験合格目標講座
- 短時間のキャリア形成促進プログラムおよび職業実践力育成プログラム
特定一般教育訓練の支給申請手続き
特定一般教育訓練の支給申請の手順は以下の通りです。
【受講前】
訓練対応キャリアコンサルタントによる訓練前キャリアコンサルティングを受け、ジョブ・カードを交付してもらいます。受講開始1カ月前までに、必要書類をハローワークに提出します(※6)。
- ジョブ・カード
- 教育訓練給付金および教育訓練支援給付金受給資格確認票
- 本人・住居所確認書類
- マイナンバー確認書類
- 払渡希望金融機関の通帳またはキャッシュカード
- 専門実践教育訓練給付および特定一般教育訓練給付再受給時報告 など
【受講中および受講修了後】
必要書類をハローワークに提出します。
- 受給資格確認通知書
- 教育訓練給付金支給申請書
- 教育訓練修了証明書
- 教育訓練経費に関する領収書
- 特定一般教育訓練実施者が発行する返還金明細書
- 特定一般教育訓練給付受給時報告書 など
専門実践教育訓練の対象講座
専門実践教育訓練の対象講座には、次のような講座があります(※7)。
- 看護師、介護福祉士、美容師、調理師、保育士、歯科衛生士、はり師、社会福祉士、準看護師、柔道整復士、栄養士、精神保健福祉士、助産師、理容師などの資格を取得するための養成施設での講座
- 専門学校で学ぶ、文部科学大臣が認定した職業専門実践課程
- 専門職大学院
- 大学、大学院、短期大学、高等専門学校などで学ぶ、文部科学大臣が認定した職業実践力育成プログラム
- 一定レベル以上の情報通信技術に関する資格取得のための課程
- 経済産業大臣が認定した第四次産業革命スキル習得講座
- 専門職大学・専門職短期大学・専門職学科の課程 など
専門実践教育訓練の支給申請手続き
専門実践教育訓練の支給申請の手順は以下の通りです。
【受講前】
訓練対応キャリアコンサルタントによる訓練前キャリアコンサルティングを受け、ジョブ・カードを交付してもらいます。受講開始の1カ月前までに、必要書類をハローワークに提出します。
- ジョブ・カード
- 教育訓練給付金および教育訓練支援給付金受給資格確認票
- 本人・住居所確認書類
- マイナンバー確認書類
- 払渡希望金融機関の通帳またはキャッシュカード
- 専門実践教育訓練給付および特定一般教育訓練給付再受給時報告 など
【受講中あるいは受講修了後】
- 申請に必要な書類をそろえて、ハローワークに提出します。
- 教育訓練給付金の受給資格者証
- 教育訓練給付金支給申請書
- 受講証明書または専門実践教育訓練修了証明書
- 領収書
- 返還金明細書
- 専門実践教育訓練給付最終受給時報告
- 専門実践教育訓練給付追加給付申請時報告
- 資格取得等を証明する書類 など
対象講座の探し方
対象講座を探すには、厚生労働省の「教育訓練講座検索システム」が便利です。「一般教育訓練」「特定一般教育訓練」「専門実践教育訓練」のいずれの講座も検索して探すことができるシステムです。ぜひ利用してみてください。
教育訓練給付制度の注意点
教育訓練給付制度を利用する際には、いくつかの注意点があります。
まず、2014年10月1日以降に教育訓練給付金を受給したことがある場合は、前回の受給日から新しい講座の受講開始日前までに3年以上経っていないと新たに教育訓練給付金を受給することができません。また、同時に2つ以上の講座の教育訓練給付金を申請することはできないことにも注意が必要です。
教育訓練給付金の申請は、講座が修了してから1カ月以内に手続きをすることになっていますので、遅れないように早めに申請してください。
特定一般教育訓練と専門実践教育訓練を受ける際には、事前に訓練対応キャリアコンサルタントによる訓練前キャリアコンサルティングを受けてジョブ・カードを交付してもらう必要があります。このジョブ・カードは発行から1年以内のものと決まっているので、交付日を確認しましょう。
また、特定一般教育訓練と専門実践教育訓練では、ジョブ・カードなどの必要書類を受講前にハローワークに提出する必要があります。この手続きは受講の1カ月以内に済ませましょう。
最後に、教育訓練給付金の不正受給が発覚した場合、不正受給した分の返還だけでなく、返還額の2倍の金額も納付なければいけません。刑罰に処せられる可能性もあります。このようなことがないよう、正しく受給しましょう。
制度を活用してスキルアップを目指しましょう!
教育訓練給付制度には、一般教育訓練、特定一般教育訓練、専門実践教育訓練の3種類があり、それぞれ教育訓練給付金の対象となる人や支給要件、申請方法が決まっています。
学びたいことが決まったら、教育訓練講座検索システムを活用して講座を探してみてください。また、厚生労働大臣の指定講座はハローワークでも閲覧できます。そして、申請手続きの方法や支給要件など必要事項をよく確認してから、教育訓練給付金の受給申請を行いましょう。
※本記事の情報は2020年11月時点のものとなります。最新情報は、厚生労働省のHP「教育訓練給付制度」などをご確認ください。
参照 :
(※1)厚生労働省「教育訓練給付について」
(※2)厚生労働省「一般教育訓練の教育訓練給付金の支給申請手続きについて」
(※3)厚生労働省「Q&A~一般教育訓練給付金~」
(※4)厚生労働省職業安定局「ハローワーク インターネットサービス」
(※5)厚生労働省「特定一般教育訓練の指定講座を公表しました」
(※6)厚生労働省「特定一般教育訓練の「教育訓練給付金」に関する支給申請手続きのご案内」
(※7)厚生労働省「専門実践教育訓練の給付金のご案内」