いつも何気なく話している日本語。しかし、改めて書いてみるとどちらが正しいのかわからないという字も少なくありません。「ひとつずつ」「少しづつ」などで使用する「ずつ」「づつ」もその一つです。

本記事では「ずつ」と「づつ」の正しい表記やその根拠、意味などについてわかりやすく解説します。「じ/ぢ」「ず/づ」の使い分けのルールもまとめました。

  • 「ずつ」と「づつ」どちらが正解?

    「ずつ」と「づつ」どちらを使うのがより正しいのでしょうか?

「ずつ」と「づつ」はどっちが正しい表記? 意味や漢字も併せて解説

早速、「ずつ」と「づつ」のどちらが正しいのかを見ていきましょう。

文化庁(文部科学省)の内閣告示やNHKの定めによると「ずつ」が正しい

文化庁の内閣告示・内閣訓令にある「現代仮名遣い」によると、「ずつ」を使うのが原則として正しい、とされています。文化庁は、文部科学省の外局であり、文化や国語などにまつわる事務を担っています。

多くの辞書、および内閣告示に従った表記をしているNHKにおいても「ずつ」が使用されています。

「づつ」の表記も日本語として間違いというわけではありませんが、履歴書や公的文書などに記載する際には避けた方がいいでしょう。

なお「ずつ(づつ)」とは、「ある数量を等分に割り当てる」という意味を持つ言葉です。「先生は私たちに教科書を一冊ずつ配った」や「みんなで3つずつ分け合おう」などと使用します。

また、「一定量に限って繰り返す」という意味もあります。これは「ページを一枚ずつめくる」や「一歩ずつ進む」などというときに使います。

基本的に平仮名で表すことが多い「ずつ」「づつ」ですが、漢字で「宛」と表すこともできます。「宛」は法的な書類や契約書で使用されることが多いです。

  • 「ずつ」と「づつ」どちらが正解?

    現代仮名遣いでは「ずつ」が推奨されています

「づつ」を使っても間違いではない

現代仮名遣いでは「ずつ」を使って表記するように定められていることはわかりました。では、「づつ」を使うと間違いなのか、というと実はそうとも言い切れません。

そもそも、1946年(昭和21年)に内閣告示が発令される前の日本では、「づつ」を使用する方が一般的でした。

「づつ」は歴史的仮名遣いのひとつ

国語の時間に習った歴史的仮名遣いを覚えている方も多いのではないでしょうか。「ちょうちょう」を「てふてふ」、「おもう」を「おもふ」などと表記する、日本古来の言葉遣いのことです。

現代仮名遣いが内閣告示される前は「づ」や「ぢ」を使うことも多く、「ずつ」に関しても「づつ」と表記することが一般的でした。そのため「ひとつづつ」「少しづつ」など「づつ」を使うと歴史的仮名遣いということになります。

日本において昔から使用されてきたのは「ずつ」ではなく「づつ」なのです。特にお年を召した方の世代では「づつ」をいまだに使っている方も少なくないでしょう。

実は現代仮名遣いも改定されている

前述のように、もともとは「づつ」を使用するのが自然な日本語だったために、1946年(昭和21年)の内閣告示による「現代仮名遣い」において、「『づつ』は使わず、『ずつ』とする」としたことは、人々の混乱を生んだのでしょう。

実はその後、1986年(昭和61年)の内閣告示の「現代仮名遣い」では、「『ずつ』と書くのが原則だが、『づつ』と書くこともできる」と改定されているのです。

そのため現在では、「づつ」を使用することについて、公的にも間違いとは言い切っていないということです。

とはいえ、履歴書や社内文書などのように、より正しい日本語が必要とされる場合は、現代仮名遣いの原則に沿って「ずつ」を使うのが無難といえるでしょう。

  • 「づつ」は日本古来の言葉遣い

    「づつ」は日本で昔から使われてきた歴史的仮名遣いです

「じ/ぢ」「ず/づ」の使い分けに迷ったときに参照したいルール

日本語には「ずつ」「づつ」以外にも使い分けに迷う言葉が多く、いざというときに困ってしまうことも少なくありません。

内閣告示の現代仮名遣いでは、「じ/ぢ」「ず/づ」の使い分けの目安を示しています。迷ったときはどちらの音を使うべきか、わかりやすい考え方を、現代仮名遣いを参照しながらご紹介します。

同じ音が続くときは元の音に濁点をつける

同じ音が続く場合は、元の音に濁点をつけることが推奨されています。例えば「縮む(ちぢむ)」や「続く(つづく)」がこれにあたります。

濁点の付け方を悩んでしまう文字の直前にある平仮名に「ち」や「つ」が使われている場合は、「ぢ」や「づ」を使った方がいい言葉かもしれません。迷ってしまったときは一度すべて平仮名に直してみて、前の音をよく確認してみましょう。

複数の言葉がつながる言葉には元の音に濁点をつける

日本語には、複数の意味を表す言葉がつながって熟語を形成するものが多くあります。その場合は音が濁る元の音を確認し、その文字に濁点をつけるのが一般的です。

例えば鼻血の場合、「鼻(はな)」と「血(ち)」が合わさって「鼻血」という言葉を作っています。この場合は濁る前の「血(ち)」に濁点をつけ、「はなぢ」と書くのがいいでしょう。

他にも「底力(そこぢから)」→「(底)そこ+(力)ちから」など、漢字を一度バラバラにすることで判断できるものも多くあります。

二語に分解しにくいものは「じ」「ず」を使う

上記のように二語に分解できないものには、「じ」「ず」を使うことが推奨されます。

今回の「ずつ」のように「ひとつずつ」という言葉や「絆(きずな)」、「訪れる(おとずれる)」などがこのパターンの言葉です。

もともと濁っているものは「じ」「ず」を使う

また、二語に分解できる場合でも、元の言葉から濁っている場合はそのまま「じ」「ず」を使うようにしましょう。

例えば、「図画工作」という言葉の場合、「図画」「工作」や「図」「画」「工作」に分けることができます。しかし「図」という言葉は最初から濁点がついており、熟語形成の際に濁点のついた音ではありません。そのため「ず」を使い、「図画工作(ずがこうさく)」となります。

  • 迷ったときはどうする?

    迷ってしまったときは一度言葉を分解してみましょう

ひとつずつ・少しずつが原則だが、ひとつづつ・少しづつも間違いではない

日本語には音だけでは判断できない言葉が多くあります。「ひとつずつ」「少しずつ」などの場合、「ずつ」か「づつ」か迷ってしまいがちです。

内閣告示による現代仮名遣いでは「ずつ」を使うことが推奨されているため、履歴書やかしこまった文書など、より正しい日本語を使いたいという場合は、「ずつ」を使うのがいいでしょう。

しかし「づつ」は昔から自然に使われてきた歴史的仮名遣いであり、間違いというわけではありません。

他にも「じ/ぢ」「ず/づ」の使い分けを迷ってしまう言葉は多くあります。迷ってしまった場合の判断の仕方も記載してあるので、一度確認してみるのもおすすめです。熟語を一度分解したり、熟語になる前の元の音を確かめたりすると上手な使い分けができそうです。