NHK連続テレビ小説『エール』(総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)の本編ラストとなる第119回がきょう26日に放送され、主人公・古山裕一(窪田正孝)と妻・音(二階堂ふみ)の夫婦の物語が完結。裕一の元へ、作曲家・小山田耕三(志村けんさん)が亡くなる直前に書いた手紙が届けられるシーンでは、笑顔の志村さんの映像が映し出された。この映像は偶然撮影されていた奇跡的なオフショット。脚本も手掛けたチーフ演出の吉田照幸氏に、このシーンの裏話を聞いた。
■「みなさん天国の志村さんを意識していた気がします」
裕一と作曲家志望の青年・広松寛治(松本大輝)との会話の中で登場した、裕一の回想シーン。その中で、小山田が亡くなる直前に裕一に向けて書いた手紙を、小山田の秘書が裕一に届けるシーンが描かれた。その手紙で小山田は、裕一の才能に嫉妬していたことを打ち明け謝罪。小山田の本心を知った上で、裕一は小山田に対して「感謝しかない」と秘書に伝えた。なお、手紙の内容は、裕一の声で届けた。
この第119回は、裕一と音の夫婦の完結とともに、志村さんをどうやって登場させるかが大きなポイントだったという。
手紙の内容には、吉田氏の思いが込められている。「僕がもし天国に行ったら志村さんと笑いについて話したいという思いが如実に表れています」と打ち明け、「撮影しているときは涙でプレビューが見られなくて。窪田さんも猿橋さん(秘書の名前)も、抑えた素晴らしい重みのある芝居だったと思います」と振り返る。
窪田も志村さんのことを意識していたように感じたという吉田氏。「みなさん小山田幸三という以上に、志村けんさんのことを思って芝居をしていたと思います。厳粛な空気でした。天国で志村さんが見ていらっしゃることを意識されていたような気がします」と明かした。
そして、手紙を読む窪田の芝居を称賛。「変に感傷的にならずに冷静に読まれていて、何かの決意を表現しているような気がしました。悲しいシーンなんですけど、何か力強さがあるのは、窪田さんがスタッフ一同の思いを表現してくれのではないかと。感傷的に泣いて『ありがとうございます』と言うのではないというのは、素晴らしい役者さんだなと心の底から思いました」
■偶然撮れた“鏡越しの笑顔”は共演者のNGに笑った瞬間
裕一の前では笑顔を見せることのなかった小山田だが、「笑顔は子供みたいにチャーミングです」と秘書が裕一に伝える場面も。そのシーンで、鏡越しの小山田の笑顔が映し出された。
笑顔の志村さんの映像は、共演者がNGを出したときに思わず笑ってしまった顔だという。吉田氏は「奇跡だなと思うのは、ミラーショットじゃなかったら使用していないです。鏡に映っている顔だから思いをはせられる。画角的にも中途半端ですが、偶然撮れていたものなんです。それを編集マンが見つけてきてくれて」と説明。「志村さんって本当はあの笑顔なんですよね。楽しいときやうまくいったときに子供みたいな笑顔をされるんです。それが残っていて表現できたことは本当にうれしかったです」と穏やかな笑顔で話した。
ちなみに、小山田の裕一への嫉妬は当初からテーマに。もともとは小山田が実際に裕一を訪ねて思いを伝えるというシーンを考えていたが、手紙という形に変えて表現した。「嫉妬は力にもなるけど人間をむしばむ。志村さんはそういうのがない方に見えますが、実際はほかの人がウケていたら悔しいと思い、自分のテリトリーの中でそれに勝つものが何かというのを努力されていた。それがすごいなと。そういうことも含めて最後のシーンとしてやりたいと思っていました」
志村さんの笑顔も当初から考えていたという。「最後は普段見せてくれる柔らかい笑顔で終わろうと思っていて」。実際に撮影することは不可能となり、秘書・猿橋の言葉で表現しようとしたが、偶然撮れていた笑顔の映像があった。「まさか映像があるなんて。頑張っていたり努力していたり、思いが詰まった作品は、奇跡みたいなことが起こるんだなと思います」と、吉田氏はしみじみと語った。
明日放送の第120回は特別編として、NHKホールを舞台にした「『エール』コンサート」を放送。主人公・古山裕一のモデルである作曲家・古関裕而氏の名曲の数々を、豪華キャスト陣が歌唱する。
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