Intelはオンラインの形で、Mobile Performance Discussionと呼ばれるセッションを開催、同社のMobile向け製品の性能評価に関する考え方について説明を行った。
実はこうしたイベントそのものはそれほど珍しくない。昨年のCOMPUTEXにおいては、ホテルの一室を利用してIce Lake vs Ryzenの性能比較デモが行われたし(この時の内容がこちらの記事の元になっている)、かつてIDFが行われていた時には、大体最終日かその前日あたりにBenchmark Sessonが報道関係者というかベンチマーク担当者を対象に行われていた。もっともこれは別にIntelだけでなくAMDも同種の事を行っており、それぞれのメーカーが性能評価をどうやって行い、どういう基準で判断しているかを知る良い機会でもある。ただ通常は大きなイベントに併せて開催されるのが常であるが、今年はそうしたイベントが全部キャンセルになった結果としてオンラインでの開催となったのがちょっと珍しいといえば珍しいところか。
さて今回のセッションはReal World Performance Workshopと名付けられ、お題は"True Mobile Performance"となっている。何故Mobileか? と言えばそこが主戦場であり、かつ現時点でIntelがAMDと互角の戦いが出来る分野だからという話でもあるのだが、Intelの分析によれば、家庭用にMobile PCを購入したユーザーの70%は家の中のあちこちに持ち歩いて利用し、その用途はOffice Productivity/Web Browsing/Contents Consumption & Creationだとされる(Photo01)。ちなみにContents Consumption(YouTubeの視聴などその最たる例だ)は判るのだが、このシチュエーションでそこまで"Contents Creationするか?"というのはちょっと意見が分かれるだろう。
で、家の中を持ち歩いているということは、AC Powerで動作していないケースも多々ある事になるのだが、元々Tiger Lakeが発表された時に「Tiger LakeはAC On/Offに関係なく動作周波数が上がり、結果消費電力もそれなりになるのに対し、RyzenではAC On/Offで極端に消費電力が変わる」事が示されていた(Photo02)。今回はここから一歩踏み込み、では性能はどうか? という話である。今回はIntel、AMDそれぞれ5台づつマシンを用意しての評価となっている(Photo03)。
まずOverallで言えば、MobileMark 18のOverall Scoreとバッテリー寿命が逆相関の関係にあるのはまぁ理解しやすい。AMDの方がバッテリー駆動時の動作周波数を絞っており、その分バッテリー寿命が長く取れる(Photo04)という傾向にある。Intelはその逆だ。そこまでは良いのだが、問題はここから。Intelの場合、AC On/Offで殆ど性能が変わらない一方で、AMDでは平均38%性能がダウンするとする(Photo05)。これはMobileMark 18だけでなく、PCMark 10のApplication Test(グラフ06)やWebXPRT(グラフ07)、SYSmark 25(グラフ08)でも同じである。他にもPPT to PDF(Photo09)、Excel to Word(Photo10)、Word to PDF(Photo11)、Outlook Mail Merge(Photo12)などでも同様の結果になっている。にも拘わらずCineBench R20に関しては、なぜかAMDのSystemで性能が落ちない(Photo13)結果が出ている。
そこでIntelは、細かく動作電圧と消費電力を取るMicroBenchmarkを行ったところ、Ryzen 4000シリーズの場合
- AC Onの場合、処理負荷がかかると直ちに電圧が上がり、これに合わせて消費電力も増える。
- AC Offの場合、処理負荷が掛かっても実際に電圧がピークまで上がるまでに8~10秒のディレイがある。
という特性が明らかになったとする(Photo14)。Office Applicationの場合、8~10秒間の間負荷が掛かり続けるというケースはまずなく、このためRyzen 4000シリーズではBaseまで電圧は上がるものの、Boostまで上がる事はない(Photo15)。このため処理性能が低くなる。ところがCineBenchの場合は常にフル稼働になるので、最初の8~10秒の遅れは全体として大したことはなく、結果として性能が高くなるという分析である。
以上の分析を基にしたIntelによる総括がこちら(Photo16)であり、AMDのマシンはAC offだと性能が大きく落ちる(特に上位グレードのCPUほど影響が大きい)ので、このあたりを加味してノートブックの評価を行う場合はAC off、もしくはAC on/offの両方で測定すべきであるというのが結論である。
ちなみに筆者の見解であるが「ごもっともだけど、その分、早くバッテリーが尽きるのでは?」という話である。このあたりは使い方にもよるのだろうけど、例えば筆者は自宅にノートこそあるものの、基本AC onでの利用である。ではAC offで使う事は無いの? と言われると、これは(最近めっきり無くなってしまったが)取材などの外出時で、イベントの開始までの間とかにちょっと仕事したいとか、以前だと海外取材などで空港での待ち時間中にノートを使う事は多かった。で、特に空港とかだとコンセントの奪い合いになる事は珍しくないため、高性能と長バッテリー寿命のどちらが嬉しいかと言われたら後者である。
Intelの言いたいことは判るものの、公平を期するためには性能×バッテリー寿命のスコアで比較すべきだと思う。少なくともPhoto16には、Photo06のバッテリー寿命の話が加味されていない。Photo06の数字をラフに拾うと
Tiger Lake: 1200(MM18 Score)×550min=660,000(MM18 Score・min)
Ryzen 4000: 800(MM18 Socre)×600min=480,000(MM18 Score・min)
となり、Tiger Lakeが有利な事は間違いないが、ただRyzen 4000シリーズとの差は多少縮まる事になる。
もっともこれをやるのは、ベンチマーカーとしては苦痛以外の何物でもない。なにせ1回テストをするに11時間とか12時間掛かる。間違えたら最初からやり直しだし、確実を期すために複数回テストなんて言ったら、もう人を雇って常時監視の為に張り付けとかないといけない。それでいて機材到着から掲載まで1週間無いとか言われたら、「やってられるか」となるのはもうテスト前から明らかである。まぁそのあたりまで判った上なので、こうした事を言わないといけない、ということなのかもしれない。