日本映画界が誇る世界的ビッグスター「ゴジラ」の生誕を祝う、年に一度の人気イベント『ゴジラ誕生祭』のスピンオフ企画として、東京・池袋HUMAXシネマズにて『ゴジラまつり』が2020年11月13日、20日と2週連続で開催された。

シリーズ第1作『ゴジラ』(監督:本多猪四郎)の公開日である1954年11月3日を「ゴジラの誕生日」と定め、その前夜となる11月2日から歴代ゴジラ映画の上映と、作品にまつわる豪華ゲストを招いてのトークが行われ、多くのゴジラファンを楽しませてきた『ゴジラ誕生祭』(東京・池袋HUMAXシネマズと京都みなみ会館で同時開催)だが、今年(2020年)は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、通常開催を見送る形となった。しかし、その代わりとして2週連続でのスピンオフ企画が実現。熱烈なゴジラファンたちを歓喜させた。

11月13日開催の『ゴジラまつり』第1弾は、「須賀川特撮アーカイブセンター」(福島県須賀川市)の開館を記念し、映画監督・樋口真嗣氏を招いてのトークショー&上映イベントが行われた。上映作品は樋口監督の『シン・ゴジラ』(2016年)、そして2012年の「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで観る昭和平成の技」内で初公開された短編作品『巨神兵東京に現わる』および「メイキング」だった。

続いて11月20日に開催された『ゴジラまつり』第2弾は、「ゴジラVSキングギドラ 一夜限りのコメンタリー上映~アンドロイドM11登場!~」と銘打たれ、平成ゴジラシリーズの人気作『ゴジラVSキングギドラ』(1991年/監督:大森一樹)を、アンドロイドM11役のロバート・スコット・フィールドの生コメンタリー付きで上映するという、ファンにはたまらない趣向となった。

毎年『ゴジラ誕生祭』オールナイトイベントで日付が切り替わる0:00付近にファンと一緒にカウントダウンを行ったり、ゴジラ映画に出てくるセリフを用いてのワンポイント英会話コーナーを受け持ったりする"常連シークレットゲスト"として人気を博していたロバートは、今回の上映イベントでも持ち前のサービス精神で終始パワフルなトークを展開。相手役を務める特撮ライター・円山剛士氏との絶妙なかけあいで、アンドロイドM11を演じた当時の思い出を懐かしそうに語っていた。

アメリカ出身のロバートは、1988年に野球選手として南海ホークス(現:福岡ソフトバンクホークス)に入団するため来日。約1年の選手生活を経てそのまま大阪に住み、ラーメン店でアルバイトをしながら日本語を学んだという。やがて毎日放送(MBS)のラジオ番組に出演する機会が訪れ、番組でメインパーソナリティーを務めていた大森一樹監督と親交を深めることに。この縁があって、『ゴジラVSビオランテ』(1989年)に続く大森監督のゴジラ映画『ゴジラVSキングギドラ』にロバートが出演することが決まった(ホビージャパン発行『ゴジラVSキングギドラ コンプリーション』より)。

ロバートが演じた「アンドロイドM11」は、1991年の日本に現れた"23世紀の未来人"のサポートを行う高性能ヒューマノイドという設定。当初は、現代日本の衰退を目論む未来人ウィルソン(演:チャック・ウィルソン)、グレンチコ(演:リチャード・バーガー)の手下として働いていたが、エミー・カノー(演:中川安奈)によってプログラムを組み替えられてからは彼女の頼もしい味方となり、現代日本をゴジラの脅威から守るべく登場した「メカ・キングギドラ」の頭脳部分をも受け持った。

コメンタリー上映の直前に行われた撮影タイムでは、「驚異的なスピードで走行し、寺沢健一郎(演:豊原功輔)とエミーの乗る車に追いつくM11」という劇中の名シーンを"再現"し、カメラを向けたファンを大いに沸かせた。

  • 『ゴジラVSキングギドラ』パンフレット表紙。1984年に華々しく"復活"を果たした『ゴジラ』以来、ゴジラ映画最新作の製作が決定した際には、世界的にも有名なイラストレーター・生頼範義氏による大迫力のイメージ画が発表され、大いに話題を集めることとなった

  • 『ゴジラVSビオランテ』ポスタービジュアル。ゴジラシリーズの歴史で、ゴジラとキングギドラが一対一の対決を行うのは、この作品が初となる。本作ではゴジラの身長がそれまでの80mから100mへとスケールアップし、口から吐く熱線の威力も増している

大森監督から出演の話をもらったときは「出るといってもワンシーンくらいかなと思っていたら、台本を読むとM11の出番がいっぱいあって、ビックリした」と語ったロバート。実際、未来人のタイムマシン「MOTHER」の操縦から、ゴジラの原型となる恐竜の仲間「ゴジラザウルス」の転送、そして新たに誕生したキングギドラのコントロール、現代人の寺沢と接触したエミーを強制的に帰還させるなど、本作の中でM11の果たした役割は大きく、非常に強い印象を残すキャラクターとなっている。

自身の出演部分だけでなく、直接の出番のないシーンについても現場で撮影の様子を見学していたと話すロバートだけに、生コメンタリーの内容は濃密そのもの。2014年に惜しくもこの世を去った中川安奈や、三枝未希役の小高恵美、真崎教授役の佐々木勝彦とは、撮影が終わった後でも交流があったという。川北紘一特技監督の手腕が冴える"特撮"カットの数々についても、リチャード・バーガーと一緒に特撮ステージを見学に行っただけあって、撮影現場の臨場感が伝わってくるかのようなコメントを連発し、ファンを感激させた。

M11がメカの操作を行うシーンなどで、劇中ではネイティブな英語が披露されることがあったが、ロバートによれば「"Time warp"とか"Perfect"といったセリフは、あまり発音が良すぎると日本人にわかりにくいという理由で、何回か言い直したことがありますが、難しかったね。アメリカの友人からは『英語の発音が悪くなったね』なんて言われた(笑)」と、日本人の観客にはっきり聞こえるよう、意識して話していたことを明かした。

ウィルソン、グレンチコの陰謀を砕くため、M11と寺沢、エミーがMOTHERに乗り込んで破壊工作を行うシーンでは「Go ahead!」(M11)「Make my day!」(寺沢)といった英語のかけあいが披露されているが、これはロバートの発案で『ダーティーハリー4』の名セリフをアレンジし、オマージュ的に用いたのだそうだ。他にも大森監督から「なんかカッコいい英語はないか」と言われ、その場で英語のフレーズをいくつか考えることがあったという。

本作にはM11が『ターミネーター』よろしく内部メカをむき出しにしたM11が怪力で寺沢の車を軽々と持ち上げるシーンがあるが、ここの撮影方法についてロバートは「ジャッキで持ち上げた車を僕がつかんで、ゆっくり降ろしていく動作を"逆再生"すると、持ち上げているように見えるんです。いかにも車を持ち上げているような演技をするのが大変だったなあ」と、説明した。

上映中は、ロバートのタイトルクレジットや、初登場シーン、そして心に残る"名セリフ"が出てきたりすると、客席から「おおっ」というどよめきや、大きな拍手が巻き起こった。クライマックスのメカ・キングギドラとゴジラの最終決戦シーンでは、M11はメカ・キングギドラのコンピューター(=KIDS)と一体化しているため、ロバートの姿を見ることができない。しかし撮影現場では、操縦している中川安奈の側にはちゃんとロバートがおり、その場でセリフをしゃべっていたそうだ。ロバートはこのときのことをふりかえって「自分がメカ・キングギドラになってゴジラと戦えるなんて、すごいこと。ほんとにええ役やなあと思ったね。コンピューターの光の点滅に合わせてセリフをしゃべらないといけなかったんだけど、僕のいた場所からは点滅がよく見えず、タイミングがぜんぜん合わなくて監督が"もうええわ"と諦めてしまった(笑)」と撮影時の苦労を思い出しながら、『ゴジラVSキングギドラ』という作品の面白さと、M11を演じられた喜びを改めてかみしめていた。

『ゴジラ誕生祭』イベントでは初となる「生コメンタリー上映」は、大盛況のうち終了した。進行を務めた円山氏は「ロバートさんは自分が出ていないシーンでも、多くの現場に立ち会っていていろんな撮影裏話を知っている。コメンタリー上映をやるにあたって、こんなにふさわしい方はいないと実感しました」とロバートの旺盛なサービス精神とトークスキルを絶賛した。

ロバートは「コメンタリーをみなさんが楽しんでくれて、とてもうれしかったですね! 来年(2021年)は待望の『ゴジラVSコング』(レジェンダリー・ピクチャーズ製作)が公開されますし、また世界じゅうでゴジラが盛り上がってほしい。ゴジラは映画の中で街を"破壊"するけれど、現実の世界ではゴジラのおかげで世界中の人たちがつながって、みんな仲良くなり、幸せになる。僕もゴジラ映画に出たことによって、いろんな人に興味を持ってもらえます。日本語がわからなくても"ゴジラ"という名前だけで心が通じ合える。それが本当にうれしく、素晴らしいことだと思います」と、改めてゴジラが世界じゅうで愛される偉大な映画キャラクターであることを強くアピールした。

来年こそ『ゴジラ誕生祭』の記念すべき10回目の開催が叶い、ファンと共にゴジラの誕生日を祝いたいと息巻くロバートは「2021年は『ゴジラVSキングギドラ』公開から30年だし、またコメンタリー上映をやってほしい! こんどは大森監督と2人でトークしようか(笑)。ゴジラ誕生祭には毎年顔を見せてくれるファンの人たちがたくさんいて、みんながファミリーという感じ。また来年も23世紀からやってくるので、みんな元気でお会いしましょう!」と、ゴジラを愛する多くのファンたちにメッセージを贈った。

なお京都みなみ会館でも『超大怪獣大特撮大全集2020 EX ゴジラまつり』と銘打ち、11月に3作のゴジラ映画を週替わりで上映。11月14、14日『ゴジラの逆襲』(1955年/監督:小田基義)、11月21、22日『ゴジラVSメカゴジラ』(1993年/監督:大河原孝夫)に続いて、11月28、29日には『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』(2000年/監督:手塚昌明)の上映が控えている。

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