京阪バスの運行する「ステーションループバス」が、今年7月から梅小路エリアへ延伸した。これにより、従来の京阪電車七条駅から京都駅へのルートに加え、七条駅から梅小路京都西駅および梅小路エリアへのアクセスが改善された。
今年はコロナ禍により、京都を訪れる観光客は大幅に減少しているが、京都市内における公共交通の改善は着実に進んでいるといえる。
■京都駅・七条駅・梅小路京都西駅を結ぶ循環バスに
「ステーションループバス」は2019年4月1日、「京都駅(ザ・サウザンド・キョウト前)」~「七条京阪前」間を結ぶ路線バスとして運行開始した。京阪グループは「京都を中心とした観光・インバウンド事業」の強化を掲げ、2019年1月、京都駅近くにフラッグシップホテル「THE THOUSAND KYOTO(ザ・サウザンド・キョウト)」を開業。「ステーションループバス」も、こうした京阪グループの経営方針の一環といえる。
「七条京阪前」停留所の最寄り駅は京阪電車の七条駅。特急停車駅だが他路線との接続はなく、京都駅から七条駅まで歩いて15分ほどかかった。両駅間は京都市営バスもひっきりになしに走るが、初乗り運賃(大人)は230円で、時間的にもコスト的にも中途半端な存在だった。そうした事情もあり、条件付きとはいえ、京都駅~七条駅間を100円でバス移動できる「ステーションループバス」に大きな期待が寄せられた。
今年7月23日、梅小路京都西駅の近くに大型宿泊施設「ホテルエミオン京都」がグランドオープン。あわせて「梅小路・ホテルエミオン京都」停留所が設けられ、「ステーションループバス」が梅小路エリアへ乗入れを果たし、京都駅・七条駅・梅小路京都西駅を結ぶ循環バスとなった。
梅小路エリアは梅小路公園、京都水族館、京都鉄道博物館といった観光スポットがあり、「西の観光エリア」として注目を集めている。JR嵯峨野線(山陰本線)の新駅、梅小路京都西駅が2019年3月に開業したことにより、利便性も向上した。京阪電車は京都市中心部の東側を走るだけに、「ステーションループバス」の延伸を通じ、梅小路エリアの活気を少しでも取り込みたいという京阪グループの意図も感じられる。
■京阪電車の特急車両8000系を模したバスも活躍
筆者は先日、取材で京都を訪れた際、京都駅から「ステーションループバス」に乗ってみた。京都駅1階の中央口を出ると、目の前に京都市営バスの「京都駅前」バスターミナルが広がるが、「ステーションループバス」は乗り入れない。駅から東へ3分ほど歩いた場所にある大型宿泊施設「ザ・サウザンド・キョウト」の下に停留所がある。若干迷いつつ歩くと、ホテルのエントランス付近に京阪電車の駅名標を模したバス停を見つけた。
「京都駅(ザ・サウザンド・キョウト前)」~「七条京阪前」間では、割引券を使うと100円で「ステーションループバス」を利用できる。割引券は七条駅にある改札内割引券売機をはじめ、「ザ・サウザンド・キョウト」「京都センチュリーホテル」「ホテルエミオン京都」の利用者が購入できる。ただし、割引金額の100円は現金払いのみ。ICカードの利用はできないので、注意したい。
時刻表を見ると、7時台から22時台まできれいに15分間隔の運行となっている。しばらくすると、16時15分発の「七条京阪前」経由「梅小路・ホテルエミオン京都」行が来た。乗客は筆者を入れて3人。京都駅前のバスターミナルに乗り入れたほうがいいのでは……と思ったが、京都駅前のバスターミナルで長蛇の列に並ぶ必要がないことを考えれば、駅から少し離れたホテルを発着するのも悪くないだろう。
「ステーションループバス」の車両は中型バスを使用しており、京都市営バスと比べてひと回り小さい。「京都駅(ザ・サウザンド・キョウト前)」停留所を発車したバスは、塩小路通りを東に走り、鴨川を渡る。進行方向右手にJR琵琶湖線(東海道本線)が見える。川沿いに川端通りを北上すると、程なく「七条京阪前」停留所に到着した。乗車時間はわずか5分。渋滞に巻き込まれることはなかった。
バスを降り、少し歩くと、京阪電車七条駅の出入口に着く。七条駅は地下駅で、改札付近にある「ステーションループバス」ののりば案内が目立っていた。
「七条京阪前」停留所から再び「ステーションループバス」に乗り、「梅小路・ホテルエミオン京都」停留所へ向かうわけだが、バスの行先表示には十分注意したい。同じ停留所に、同一方向から「京都駅(ザ・サウザンド・キョウト前)」行と「梅小路・ホテルエミオン京都」行が乗り入れ、しかも両方とも「京都」が付くせいで、筆者は乗り間違えそうになった。もう少し区別しやすくしてほしい、というのが本音だった。
16時35分発の「梅小路・ホテルエミオン京都」行に乗車したが、乗客は筆者1人だけだった。バス車両には京阪電車の特急車両8000系と同じ赤色・黄色の特別ラッピングが施されていた。
「七条京阪前」停留所を出たバスは、4車線の七条通りを西へ向かう。塩小路通りと比べて交通量が多く、しばしば信号待ちがあり、スムーズとは言い難い走りだった。大宮七条の交差点から先、ところどころ渋滞に巻き込まれる場面もあった。ただし、終点までノンストップのため、途中の停留所に停まる京都市営バスを次々と追い抜く。「ステーションループバス」は、主要停留所しか停車しない京都市営バスの「急行」に近い存在といえる。
16時48分、「ステーションループバス」は終点の「梅小路・ホテルエミオン京都」停留所に到着した。試しにバス停から京都鉄道博物館まで歩くと、筆者(30代男性)の足で5分ほどかかった。その途中に梅小路京都西駅があり、「ホテルエミオン京都」とは連絡通路でつながっている。
■「ステーションループバス」には「三密回避」の価値も?
「ステーションループバス」の停留所はいずれも駅から少し離れた場所にあり、鉄道から乗り換えての移動を考慮すると、使いやすいとは言い難い。とくに京阪電車沿線から京都駅へ行く場合、丹波橋駅で近鉄京都線に乗り換えるか、東福寺駅でJR奈良線に乗り換えるルートが一般的。割引券を使えば100円で乗れるというメリットはあるものの、七条駅から「ステーションループバス」を使っての乗換えは優先度が低くなってしまう。
一方、京阪電車沿線から梅小路エリアへ行く場合、東福寺駅でJR奈良線・嵯峨野線に乗り換え、梅小路京都西駅で下車するルートが考えられるが、東福寺駅は京阪電車の特急が停車しない上に、京都駅でも乗り換える必要があり、奈良線ホームから嵯峨野線ホームへの移動も時間がかかる。
そう考えると、交通渋滞はあるものの、特急停車駅の七条駅から「ステーションループバス」で梅小路エリアへ直結するルートは利用価値がありそうに思える。ただし、コロナ禍での運行開始となったため、タイミングが悪かった印象は否めない。「七条京阪前」から「梅小路・ホテルエミオン京都」まで乗る場合は割引券を使えず、そのことも乗客の少なさにつながっているように感じられる。七条駅から梅小路エリアへのルートはもう少しアピールしても良いのではないかと思った。
なお、「ザ・サウザンド・キョウト」「ホテルエミオン京都」の宿泊者にとっては、階下からバスが出発し、割引券も使えるため、利用価値は高いと思われる。今年はそれほどでもないが、例年だとオンシーズンの京都市営バスは混雑が激しい。15分間隔という高頻度の運転であれば、「三密回避」としての価値も出てくるかもしれない。