マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米大統領選挙について語っていただきます。


米大統領選はバイデン氏が勝利を確実としました。主要メディアは、バイデン氏が306人の選挙人を獲得し、過半数(270人以上)に達したと報じました。ただ、これはあくまで非公式なもので、各州の選挙管理委員会が発表する公式の結果を集計したものではありません。

トランプ陣営は、勝手連も含めて各州で様々な訴訟を起こしています。ただ、その多くが却下されたか、取り下げられており、残っているものも情勢を変えるほどのものはほとんどないようです。また、トランプ大統領は側近や身内からも敗北を認めるべきと諭されているようです。それでも、トランプ大統領は「近く大きな訴訟を起こす」とツイートしており、まだまだ諦めるつもりはないようです。

バイデン氏はコロナへの対応もあって政権移行を早急に進めたい意向ですが、トランプ政権は協力を拒んでいるようです。また、GSA(一般サービス局)がバイデン勝利を認定していないため、政権移行チームは政府資金や政府施設を利用することもできません。

バイデン氏の勝利が確定し、「バイデン大統領」が就任するまで、どのような問題が生じうるのか、以下に主要スケジュールを概観しておきましょう。


  • 11月中旬: レームダック・セッション開始

9日に上院が、16日に下院が召集されました。選挙前の旧メンバーによる、いわゆるレームダック・セッションです。通常は新しいイニシアチブは出にくいですが、懸案となっている追加経済対策は討議されそうです。

  • 11月20日: ジョージア州の再集計完了予定

ジョージア州の選挙人確定期限で、それまでに手作業での再集計が終了する予定です。選挙人確定の期限は州によって異なるようです。例えば、カリフォルニア州では各郡が開票結果を12月1日までに州に報告することになっています。

  • 12月8日: 選挙人の確定

「セーフハーバー」と呼ばれる、各州が選挙人を確定する期限です。ただし、その後でも条件付きで認められるようです。後々に覆される可能性はゼロではありませんが、この日に次期大統領がほぼ確定します。

  • 12月11日: 暫定予算失効

2021年度(20年10月から21年9月まで)の暫定予算が失効します。「シャットダウン(政府機関の一部閉鎖)」を回避するための次の予算に経済対策が盛り込まれるかもしれません。

  • 12月14日: 選挙人による投票

選挙人が大統領候補に投票する日。選挙人が誓約した候補以外に投票する可能性もなくはありません。過去にも、数人の選挙人が誓約候補以外に投票したことはあります(例えば、前回選挙でもクリントン氏が勝ったワシントン州の選挙人3人がコリン・パウエル氏の名を記入したそうです)。ただ、30以上の州が誓約候補以外への投票を禁止する「不誠実選挙人」法を制定しています。

  • 12月中旬: 議会散会

議会の散会予定(上院は18日、下院は11日)。ただし、会期が延長されることはあります。

  • 1月3日: 新議会の召集

  • 1月5日: ジョージア州での上院決選投票

ジョージア州で上院2議席の決選投票。いずれもデッドヒートとなっているようです。仮に、民主党候補が2つとも勝てば、上院勢力が50対50となり、上院議長でもある副大統領の所属する政党が上院を制することになります。

  • 1月6日: 選挙人投票の結果確定

両院合同会議が選挙人の投票結果を確認、ペンス副大統領が結果を発表します。これをもって、次期大統領が確定します。各州の選挙人の投票結果に異議を唱える場合、少なくとも1名ずつの上院議員と下院議員が必要です。そして、2時間の協議後に上院と下院いずれもが異議を承認しなければ、投票結果は有効となります。

過半数の選挙人を確定した候補がいなければ、上位3人のなかから下院が投票によって次期大統領を選出します。下院の投票は州ごとに1票。したがって、ここまでくればトランプ氏の再選が現実味を帯びます。

もっとも、トランプ氏が過半数の選挙人を獲得するためには、少なくとも3つの州で選挙結果が覆る必要がありますが、その可能性は非常に低いとみられます。また、選挙人投票では上記の「不誠実選挙人」法があること、選挙人投票の結果を覆すには両院の承認が必要であること、それらを踏まえれば、下院が次期大統領を選出する可能性は限りなくゼロに近いでしょう。

  • 1月20日: 大統領就任式

就任演説によって、大統領が志向する政策の概要や優先順位が明らかになりそうです。ただし、政策の詳細が明らかになるには、さらに数カ月を要するでしょう。