鋭い踏み込みで木村一基九段に粘りを与えずに押し切る。リーグ成績は4勝1敗

第70期王将戦挑戦者決定リーグ(主催:スポーツニッポン新聞社・毎日新聞社)の▲羽生善治九段(3勝1敗)-△木村一基九段(0勝4敗)が11月17日に東京・将棋会館で行われました。結果は91手で羽生九段の勝利。リーグ残留を確定させると共に、プレーオフ進出へ望みをつなぎました。

体調不良で11日に入院し、14日に退院したばかりの羽生九段。本局は復帰戦です。

すでに降級が決まってしまっている木村九段とは対照的に、羽生九段にとって本局の持つ意味は非常に大きいものでした。本局に勝てばプレーオフ進出に望みを残し、敗れると挑戦の目が消えるばかりかリーグ陥落の可能性も残るという、明暗が分かれる一戦です。

本局の戦型は矢倉となりました。後手の木村九段が急戦矢倉で先攻していきます。羽生九段は跳ねてきた相手の桂を取りに行く、積極的な受けで応戦しました。

羽生九段は相手の桂を取り切り、さらに自らの攻め駒である右桂も相手の守りの桂と交換に成功します。そして、手にした桂2枚を▲5六桂・▲4六桂と銀取りに設置。いつの間にかに優位を築き上げるという、流石の指し回しでした。

▲4六桂の銀取りに対し、5四の銀を逃げていては勝負にならないとみた木村九段は、△6六歩と金取りに歩を突く勝負手を放ちました。平凡に指すなら金をかわす一手。ところが、ここで羽生九段は腰を据えて15分の考慮。そして、金取りを放置して▲5四桂と銀を取りました。

当然、木村九段は△6七歩成と金を入手。6九にいる羽生玉の頭上にと金を作りました。普通はここまで迫られたらと金を払いたくなります。しかし、羽生九段は強く▲5五角と銀を取って踏み込んでいきました。先の考慮で自玉は大丈夫と見切っているのです。

守りの金2枚はボロボロと取られたものの、2六の飛車の横利きを通す▲6四桂と跳ねる攻防手があって羽生玉は寄りません。やむなく受けに回った木村九段に対し、盤上の桂2枚と豊富な持ち駒を生かして、羽生九段が寄せに向かいます。そして最後は鮮やかに木村玉を即詰みに打ち取ったのでした。

自然な指し回しで桂を入手し、▲5六桂~▲4六桂と設置、そして自玉の安全を読み切って▲5四桂~▲6四桂と桂を2段活用する流れるような手順は、見る者をうならせる美しいものでした。

病み上がりとはとても思えない内容で勝利した羽生九段。リーグ成績を4勝1敗としています。4勝目をあげたことで、リーグ残留は確定しました。問題は挑戦権争いの方です。

同日に行われた、豊島将之竜王と永瀬拓矢王座による4戦全勝対決は、永瀬王座が勝利。この結果、5勝0敗の永瀬王座を4勝1敗で豊島竜王と羽生九段が追うという展開で最終戦を迎えることになりました。

リーグ最終戦は20日に一斉に行われます。永瀬王座は広瀬章人八段と対戦。羽生九段は豊島竜王との1敗対決です。

永瀬王座は勝てば、リーグ全勝で挑戦権獲得です。もし敗れると、羽生九段-豊島竜王戦の勝者とプレーオフで挑戦権を争うことになります。

鮮やかな内容で復帰戦を制した羽生九段。写真は今期王将リーグの対藤井聡太二冠戦のときのもの
鮮やかな内容で復帰戦を制した羽生九段。写真は今期王将リーグの対藤井聡太二冠戦のときのもの