「お金を預ける」と書く預金ですが、金融機関ではなく家の中にお金を保管するタンス預金という方法もあります。それほどまとまった額でなくても、ある程度の金額をもしものときのために自宅に置いている人は少なくないでしょう。
このタンス預金は、気をつけないと相続の際に追徴課税の対象になることがあります。ここでは、タンス預金のメリット・デメリットやタンス預金を行う際に適した税制優遇制度のほか、注意点についてご説明します。
タンス預金とは?
タンス預金とは、銀行に預けるのではなく、自宅のタンス等に保管している現金のことを指す言葉です。へそくりのほか、毎月の生活費以外のある程度まとまった現金を、自宅に置いている人もいるでしょう。これらはすべて、タンス預金と呼ばれます。
タンス預金は日本全体でどのくらいある?
日本人の中には、数百万円、数千万 円という大金を自宅で保管している人もいます。このようなタンス預金の合計がいくらなのかは、細かい調査をすることが不可能なため、正確に把握することができるデータはありません。
しかし、第一生命経済研究所の「現金と消費 ~巨大化するタンス預金の理由~」(2017年)によると、タンス預金の合計は、2017年時点でおよそ43兆円あると予測されています。これは、銀行が発行する紙幣のおよそ43% を占めるため、非常に多くの現金がタンス預金になっているといえるでしょう。
タンス預金の金額の目安
極端な高額をタンス預金するのではなく、いざというときのために、適度な現金を自宅に置いておくことは大切といえるでしょう。具体的な金額はそれぞれの家庭によりますが、家賃等の引き落とし分を除く、生活費の1週間~1カ月分程度を目安にするのがおすすめです。
タンス預金のメリット
タンス預金のメリットは、何らかの事情でATMに行けなくなってしまったときや、急に現金が必要になったときに使えるということです。 例えば、天災や停電、大規模なATMシステムのトラブル等によってお金の引き出しができなくなってしまった場合や、子供の習い事などの月謝を忘れていて、急に用意しなくてはいけなくなった場合にも、家に現金があれば安心です。
タンス預金のデメリット
一方、タンス預金のデメリットとしては、紛失や盗難リスクがある点が挙げられるでしょう。また、タンス預金は銀行に預けるのとは違い、利子がつきません。
さらに、高齢者にとっては、タンス預金が深刻なトラブルにつながることもあります。 例えば、「隠し場所を忘れてしまった」「別の場所に移したのを忘れてしまって、家族に盗まれたという疑心暗鬼にかられることになった」「相続の際に相続人が気づけなかったことで追徴課税の対象になってしまった」といったケースです。 このようなことにならないためにも、あまり高額なタンス預金をしないことや、家族と情報を共有しておくことが大切です。
タンス預金を使って経済を回したい政府の思惑
日本では、特に高齢者のタンス預金額が非常に大きいといわれています。このお金が使われないままだと、金融機関の預金額が減ることや、融資の鈍化 などによって経済に影響が出るかもしれません。 そこで、政府は高齢者が持っているタンス預金を含む財産を、若い世代の結婚や子育てに活用しやすくする税制優遇制度を、2021年3月までの期間限定で打ち出しています。
具体的には、20歳以上50歳未満の子供や孫に対して結婚や子育てに用途を限った贈与を行った場合は1,000万円まで非課税、30歳未満の子供や孫に対して教育費の提供をした場合1,500万円まで非課税となる制度があります。
こういった制度を使うことで、若い世代は結婚や子育てにかかる費用を得ることができますし、高齢者は使いきれない資産を有効活用することができます。 一方、政府にとっては、タンス預金の現金を使ってもらったり、銀行に預けてもらったりすることで、経済を回すという狙いがあります。
マイナンバー制度の改正はタンス預金増加に影響する?
現在、マイナンバーは年末調整や確定申告など、所得税の申告の際に活用されています。また、贈与税や相続税の申告の際にも、マイナンバーが必要になります。
マイナンバーの提出が必要になるシーンは、今後も増えていくでしょう。特に、銀行の預貯金との紐づけについての議論が国会で行われています。もし義務化されることになれば、自分の財産を政府に把握されることを忌避する人が、タンス預金をする可能性があります。
マイナンバー制度の改正内容
銀行口座を開設する際に、マイナンバーの申告は、今のところ義務ではありません。しかし、証券会社に口座を開設 する場合や、銀行で一部の取引を利用する場合については、マイナンバーの提出が必要です。今後、1人1口座については、マイナンバーとの紐づけを義務化する方針であるという報道もあります。
政府は、元々は個人の銀行口座すべてとマイナンバーの紐づけを義務化させることを検討していましたが、資産を把握されることへの反発の声も出ていました。 この先、これらの議論がどのように進むかはわかりませんが、いずれにせよ政府方針としては口座との紐づけを進めたい考えがあるといえるでしょう。
なぜ銀行口座とマイナンバーを紐づけるのか?
政府が銀行口座とマイナンバーの紐づけを進めたがる理由のひとつには、税務署が個人の銀行口座を把握しやすくなるという点が挙げられます。
個人の口座情報を把握することは、相続時や所得税の申告漏れがないかを調査する際に役立ち、脱税や税の徴収漏れを防げるようになるのです。
相続でタンス預金が追徴課税の対象になる?
相続の際、タンス預金が原因で追徴課税の対象になってしまう可能性があります。後から税金を支払うように求められないためには、タンス預金と相続の関係についての知識を身につけておきましょう。
相続の際の注意点
そもそもの前提として、相続の際は、遺産の金額に応じた相続税がかかることになります。そのため、相続が発生したときは、故人の財産がいくらあるのかを申告して、相続税額を計算することになります。 この財産には、故人名義の不動産や預金、宝石類、書画骨董、有価証券など、すべてが含まれます。もちろん、タンス預金も対象です。
・遺産がない人の場合
相続税には控除制度がありますので、それほど財産を持っていない人であれば、過度の心配をする必要はないでしょう。素直にタンス預金を申告して計算をした上で、相続税がゼロということになればそれで問題ありません。
・遺産がある人の場合 :
相続で問題があるのは、相続税がかかるだけの財産を残している人に、タンス預金があった場合です。このタンス預金を把握できずに申告しないと、「申告逃れ」「脱税」と判断されてしまう可能性があります。
相続の際に困らないための対応法
相続の際、税務署では、故人がなくなる前の銀行口座の動き等をチェックします。そのため、直前にまとまったお金を引き出して自宅で保管していた場合、いずれ判明することもあるでしょう。
しかし、「毎月3万円をへそくり代わりに引き出してタンス預金を続けていた」という場合などは、なかなか気づくことが難しいかもしれません。
これを30年続けると1,080万円にもなります。この現金を家の中に隠して置いて、相続人が気づかなかった場合、申告漏れになってしまいます。税務署がずっと気づかないままという可能性もありますが、もし気づかれた場合は、追徴課税の対象になってしまうでしょう。
いざというときのために、自宅に現金を置いておくこと自体は特に違法ではありません。しかし、相続が発生してしまったときのために、家族にタンス預金の存在を伝えておくようにしておくといいでしょう。
また、相続人も、「タンス預金やへそくりは申告しなくてもばれないだろう」と思うのではなく、遺産に該当する場合は、最初から正直に申告しましょう。
タンス預金はほどほどに! 家族との情報共有が大切
多少の現金を自宅に保管しておくことは、いざというときの備えになるでしょう。しかし、高額すぎると、かえってトラブルの元になりかねません。特に、家族に内緒でタンス預金をしていると、盗まれるのではと疑心暗鬼にかられたり、相続の際のトラブルの原因になったりすることがあります。
使いきれないほどのタンス預金を保有しているのであれば、子供や孫のために使う方法があります。資産運用や預け先については、家族で相談して情報共有するようにしましょう。