フロー状態とは、1つの目標に集中して行動ができている心理状態のことを指します。心理学者のM・チクセントミハイが「フロー体験 喜びの現象学」という著書で提唱した概念のことです。フロー状態に入れば、圧倒的なパフォーマンスと楽しさを体験できると言われています。
ただし、フロー状態になって仕事や勉強の能率を上げて楽しむためには、事前の入念な準備が必要です。本記事では、フロー状態の定義やフロー状態の生み出し方を紹介します。
フロー状態で得られる効果
フロー状態とはスポーツなどで言われるゾーンと同じ状態ですが、一部の人間だけに付与された才能ではありません。
もちろん訓練は必要ですし適性もありますが、いくつかの要素が重なり合ってできる状態であるため、それを意図的にデザインすることが可能です。まずは、フロー状態の効果をご紹介します。
■時間の感覚が変わる
集中するあまり数時間を数分に感じたり、反対に数秒の行動が何倍にも感じられたりした経験を持つ人もいることでしょう。フロー状態に入っていると、時間が引き延ばされたような感覚になると言われています。それゆえ、実際の時間と体感時間に差が生まれると考えられています。
■自分にとって不快と感じるものは忘れられる
フロー状態になると行動自体に集中できるため、日々の不快なことや嫌なこと、自分にとってストレスだと感じていることを忘れると言われています。つまり、フロー状態とはストレスが消え去った状態で、今やっていること以外は何も気にならない状態でもあると言えるでしょう。
■自意識が消失する
フロー状態の間は取り組んでいることに我を忘れて没頭するため、それ以外に注意が向かず、自己の境界が曖昧になると言われています。目の前の行為と自分が一体化する感覚と表現されることもあります。その完全な没我状態においては普段よりも高いレベルで行動できるとされるため、難題への対処が可能でしょう。
■環境・行動を統制できる
フロー状態に入った人は、無意識的に今やっていることをコントロールしています。つまり、自己の環境や行動を特に意識せずに統制しているのです。それゆえ、失敗の不安に負けることなく自分の成功を信じられるでしょう。
フロー状態を生み出すためにやるべきこと
フロー状態を生み出すためには集中力を極限まで高めなければなりません。そして、そこまで集中力を上げるためには、ストレス状態(交感神経優位)とリラックス状態(副交感神経優位)の両方が必要だと言われています。
フロー状態を意図的につくり出すために必要なことをみていきましょう。
■心身を鍛える
昔からスポーツにおいては「心技体」が重要とされてきましたが、フロー状態をつくり出すうえでも「心」と「体」の要素は欠かせません。普段から仕事や練習を怠ける人や、風邪や腹痛などで頻繁に体調を崩しがちな人が、いざというときに自分の実力以上のものを発揮できるでしょうか?
心身が整って初めて、ものごとに対する集中力は高められます。集中力を極致まで高めてフロー状態に入るためにも、その土台となる心身を鍛えましょう。
■体験を楽しむ
動機付けもフロー状態に入るためには重要視されています。「100メートル走で1位になったら臨時のお小遣いをもらえる」などの外的動機づけではなく、「100メートル走で自分の自己ベストを0.1秒でも更新しよう」といった内的動機づけがフロー状態には適していると考えられています。
「どうしたら自己ベストを出せるのか」とあれこれ自ら思案し、その過程を楽しむことができれば、没我状態でどんどん自分を高めるための工夫を実践することになるでしょう。その反復をしている中でフロー状態が訪れるかもしれません。まずは自分が何に楽しみを感じるのか、強い興味を持つのかを考えてみましょう。
■環境をととのえる
テレビやスマートフォンなど、私たちの周りには集中力を妨げるものがたくさんあります。それゆえ、テレビやスマートフォンを近くに置かない、あるいは電源を切るなどの処置が必要でしょう。
また、ストレスとリラックスを共存させるために、ゆったりとした音楽を聴いたり、好きなアロマを焚いたりするなどしてリラックスがストレスを少し上回るような環境をつくることをおすすめします。
■目標の難易度を決める
フロー状態に入るためには、目標を設定することも重要です。その際、目標の難易度を上げすぎても下げすぎてもいけません。本気で挑めば何とか達成できそうな、自己の能力の限界近くに目標を設定する必要があります。
ダンボールの仕分け作業を例にしてみましょう。これまでの1時間の作業時間内における最高の仕分け個数が60個だった場合、目標設定を65個にするなど、自分のこれまでのマックスを参考にしつつ、それをわずかに上回る難易度の目標を設定することがおすすめです。
フロー状態を早くつくる方法
このフロー状態へと意図的に没入できる確率を高める方法をご紹介します。ポイントは「制限時間」と「適度なレベルの課題」です。一つずつ説明していきます。
制限時間
人は時間制限を設けることによって、集中力が増して効率よく勉強や仕事ができるようになります。「何をいつまでにどうすれば時間内に終わるのか」をしっかりと考えたうえで課題や作業にあたるため、効率はグンと高まりますし、設定した時間内に終わらせようと集中するため、集中力も増してきます。
適度なレベルの課題
上述のように、フロー状態を生み出すためには自分の能力の限界に近いレベルの目標が重要となります。課題の難易度が高すぎたら最初から諦めモードになってしまいますし、低すぎたら退屈のあまり集中力が失われます。
この2つをかけあわせてフロー状態を早期につくるため、以下の手順を踏みましょう。必要な道具は筆記用具と紙、そして簡易なタイマーです。
(1)紙にこれから行うタスク(課題)を「To Doリスト」形式で書く
(2)各タスクの所要時間を記入する
(3)タスクの所要時間をタイマーセットする
(4)タスクを実行し、終わったら紙に書かれたそのタスクを線で引いて消す
(5)次のタスクにかかる時間をタイマーセットし、またタスクを実行する
手順は非常にシンプルなので、誰でもやりやすい点がメリットとしてあげられます。
フロー状態になるには前もって準備が必要
フロー状態に入れば、圧倒的なパフォーマンスと楽しさを体験できるでしょう。しかし、そのためにやるべきことをやってフローをデザインしなければなりません。フロー状態になって仕事や勉強の能率を上げ、さらにそれらを楽しむために前もって準備をしっかりしていきましょう。